ニュース
九州の宇宙企業4社が語った「ものづくり視点」の宇宙ビジネス–九州を宇宙産業の中心地に
古くからものづくりの地盤があり、今ではテクノロジー企業の進出が目立つ九州。宇宙産業においては複数のロケット発射場を抱え、最近では宇宙港設置の計画も進んでおり、世界的にも注目度の高い地域になりつつある。そんな九州と宇宙産業に関わりのあるキーパーソンや企業らを招いたイベント「Q-SPACE BUSINESS CARAVAN 2023 FUKUOKA(九州宇宙ビジネスキャラバン2023 福岡)」が11月15日に開催された。
ここでは、同イベントで実施されたプログラムのうち、「ものづくりからの宇宙ビジネス視点」というセッションについてレポートする。宇宙エバンジェリストの青木英剛氏をモデレーターに、九州に軸足を置く4社が宇宙産業に関わる取り組みと課題感を紹介。最後に「九州のものづくり×宇宙×未来への期待」というテーマで九州のポテンシャルについて語った。
SAR衛星36機で「10分間隔の撮影」を目指すQPS研究所
1社目はQPS研究所の執行役員・開発部長である上津原正彦氏。日本の宇宙スタートアップとして知られるQPS研究所の始まりは九州大学で、1995年頃からの学内での小型衛星開発を端緒に、同大学名誉教授と三菱重工のロケット開発者が九州に宇宙産業を根付かせることを目的に2005年に創業した。2023年12月6日には東証グロース市場に上場したばかりだ。
現在は独自の小型SAR衛星「QPS-SAR」の開発に取り組んでいる。レーダーにより天候や昼夜を問わず地表を観測できるため、災害時の状況把握などに役立てることを想定。初号機は2019年に打ち上げられ、70cmという高分解能で地表を捉えられることを特徴とする。現在までに3機の打ち上げに成功しており、最新のものは46cmの分解能で自動車1台1台もしっかり捉えられるまでに進化している。
将来的にはSAR衛星を計36機打ち上げて地球周回軌道のコンステレーションを構築し、10分程度の短い間隔で見たい場所を撮影できるようにすると上津原氏。2019年の初号機から早いサイクルで開発、製造を進められているのは「25社以上の地場企業の方々との連携があるからに他ならない」とし、失敗があっても早いサイクルで取り組めているとのこと。
コンステレーションを構築した後、それによって撮影した衛星画像の販売をビジネス展開することを計画している。大量の画像を安定して供給できる衛星を開発すること、衛星の品質を高めていくこと、そして地上設備と合わせてシステム全体の品質を長く維持していけるようにすることが現在の課題だ。
「九州のものづくり×宇宙×未来への期待」に対して上津原氏が提示したのは「好きの探求」というメッセージ。好きだからこそものづくりに関わっている人が多いはずで、ものづくりに関わり続けていれば、分野の異なるさまざまな「アプリケーション」が集まっている宇宙産業にもいずれは関わる機会があるとする。そうした「好きの探求」を続けることが、ものづくりの活発な九州で宇宙産業を活発化するきっかけになるのでは、と投げかけた。
検査用機器開発70年のノウハウを衛星に活かす昭和電気研究所
昭和電気研究所は福岡県に本社を置く産業機器メーカーで、1951年に創業した。九州電力などインフラ企業向けの測定器のほか、製品や工場設備の検査機器を中心に開発しており、熊本県内でも建設が進む半導体工場向けの半導体ウエハ表面検査用機器の製造も手がけている。宇宙向けには、約15年前にISS(国際宇宙ステーション)の実験設備を納入した実績があり、現在はQPS研究所の衛星に搭載する電源系システムを開発しているとのこと。
そうしたことから同社としては、QPS研究所の衛星に搭載するシステムの「品質」を担保することが最重要だと昭和電気研究所 技術部 主幹技師の古賀圭氏は話す。設備などのリソースはまだ十分とは言えないが、なかでも鍵になるのは「人」だとして人材確保が急務と考えている。九州には多くのソフトハウスが集まっているためソフトウェア面での悩みは少ないものの、ハードウェアの設計となると人材が集まりにくい。大学生も地元志向の学生は多くないため、目を向けてもらえるようにする広報活動が現在の一番の課題だとした。
「九州のものづくり×宇宙×未来への期待」というテーマについては、「なんくるないさあ」の言葉を挙げた。沖縄の言葉では「人事を尽くして天命を待つ」といった意味にもなるが、同社が課題としている「品質」の担保についても、「やることさえしっかりやっておけば、なんとかなる」。九州でもものづくりの地盤をしっかり固めていくことで、なんとかなるんじゃないか、という思いも込めていた。
航空技術をベースに宇宙領域へ参入する日機装
日機装は、液化ガスや液体水素などにも対応する産業用ポンプの開発・製造をメイン事業とする企業。そのポンプを医療機器にも応用し、透析装置においては国内シェアトップを誇る。また、航空機の逆噴射装置に用いる軽量・高強度の整流器(カスケード)も開発しており、これらの技術をもとに人工衛星など宇宙分野への参入を進めているところ。本社は東京にあるが、整流器は宮崎県内の工場ですべて製造しているという。
製造業のサプライヤーとして事業展開する同社としては、大企業だけでなくベンチャーやスタートアップのビジネスが成り立つ環境を作り上げることが、現状の大きな課題の1つと感じている。投資した分の見返りが得られることが「産業や事業として成り立っているかどうか」の基準であり、それには「クリティカルマスが確保でき、一定以上継続して作れることが大事」だという。
その観点から見れば、現在の宇宙ビジネスは「難しい」と同社 航空宇宙事業本部 取締役執行役員 航空宇宙事業本部長の齋藤賢治氏は話す。大企業の場合、1役員の情熱で宇宙関連の事業をスタートできたとしても、その役員が交代することで方針が大きく変わってしまうこともままある。宇宙ビジネスを成り立たせるためには、大企業が他の領域で主軸となる事業をもちつつ、まずは土台となる裾野部分を作っていき、持続可能な環境にしなければならない。「役員が変わっても“宇宙事業は続けます”と胸を張って言える状況」を作り上げることができるかどうかが肝要だとした。
「九州のものづくり×宇宙×未来への期待」に対して同氏は「サステナブル」と回答。宇宙産業は持続可能なものであることが企業の生存のための第一条件で、「他の産業とのシナジーがあることが絶対必要」だ。その点、政府や自治体などとのつながりが他の地域より比較的強く、産学連携も進んでいる九州には、事業が成立するようなサステナブルな宇宙産業を作れる土台が整っていると話す。ただし、それと同時に宇宙産業が社会全体のサステナビリティにも貢献していることを客観的なデータで示していくことも大事だとした。
衛星打ち上げの根幹をなす、ロケット製造のIHIエアロスペース
IHIエアロスペースは、日産自動車の宇宙航空事業部が石川島播磨重工業に事業譲渡する形で誕生したIHIの100%子会社。ロケットの開発および宇宙ステーションや探査機などの運用を行う宇宙開発事業と、多連装ロケットシステムなどを製造する防衛装備品事業、ロケット用部品の技術を応用した航空機エンジン部品事業の3つを柱としている。ロケット製造の関係で種子島に事務所を置いており、ロケットによる打ち上げサービスのほか、衛星運用で得たデータの活用にも取り組んでいる。
同社のイプシロンプロジェクト部 部長である湊 将志氏が現在課題に感じているのは、日本から衛星を打ち上げる機会の少なさ。衛星打ち上げの需要の高まりに対して、ロケット打ち上げ回数は年に数回と少なく、供給が追いついていない。「九州で製造した衛星を九州から打ち上げる、それが日本の活力にもつながる」と信じ、打ち上げ回数を増やすためロケットの製造能力を高めていくことが同社の大きな役割だ。
「九州のものづくり×宇宙×未来への期待」というテーマについては、創業20年のときに同社がミッションに掲げた「新しい技術を宇宙と、空と、美しい地球へ」をメッセージとして残した。同社は宇宙・防衛・航空という各産業の基幹に関わる分野に関わっているが、それら事業は美しい地球を守ることが目的。そのためにも「あくなき最先端技術の追求」を続けていく方針だ
最後、モデレーターの青木氏は「九州を宇宙ビジネスの首都(首島)へ!」と訴えた。「九州の都は福岡だけではない。島をまるごと首都にしたい」という意味を込めたものだ。同氏によると九州のGDPは日本の10%、50兆円規模で「世界で言うとトップ30」だとし、世界の宇宙ビジネスの中心に九州がなれる可能性は十分にあるとする。
一次産業はもちろんのこと、ものづくりという二次産業も活発で、衛星データを活用できるような環境もある。一方で災害も頻発していることから、そこでのデータやソリューションも得やすい。青木氏は「それらの分野でのノウハウを世界に提供しつつ、世界のものづくり拠点の中心的存在にもなり、宇宙に飛び立てる場所としての存在感も高めていけるように、皆さんと一緒に盛り上げていきたい」と展望を語り、セッションを締め括った。