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「小さくても8兆円の価値」–日本から小惑星資源探査に挑むAstromine、政府宇宙ビジコンで最優秀賞
2023.11.22 07:20
内閣府が主催する宇宙分野のビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2023」の最終選抜会が2023年11月16日に実施された。深宇宙の衛星コンステレーションを用いて「月に1度の小惑星探査」の実現を目指すAstromineが最優秀賞に輝き、賞金1000万円を獲得した。
S-Booster 2023は、日本とアジア・オセアニア地域の個人やグループを対象とした宇宙分野のビジネスアイデアコンテストだ。6回目の開催となる今回は、4月から応募を受け付け、一次および二次選抜とメンタリング期間を経て、14チームが最終選抜会に臨んだ。
小惑星に眠る「莫大な資源」に着目
Astromineは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙科学研究所 工学系 准教授を務める尾崎直哉氏と理学系 国際トップヤングリサーチフェロー(准教授相当)を務める兵頭龍樹氏らが率いるチームだ。今後、JAXAスタートアップとして起業を予定しているという。
彼らが目をつけたのは、豊富な資源が眠るとされる小惑星の資源探査ニーズだ。日本の探査機「はやぶさ2」が探査した小惑星「りゅうぐう」には、1000人が500年生きるために必要な水資源が存在するという。
また、小惑星には水だけでなくアミノ酸から金属まで多様な資源が存在するといい「小さくても8兆円、ものによっては1000兆円以上の価値がある」と兵頭氏は話す。
さらに、大型の小惑星だけでなく、直径10m程度の小惑星にも「100人が1年間必要とする水」が存在するという。小型な小惑星を月軌道付近に移動させれば、地球から多大なコストを掛けて打ち上げる必要がなく、宇宙空間で水を現地調達できるようになる。なお、水からは呼吸に用いる酸素や、ロケット燃料の水素を生成できる。
「月に1度」の小惑星探査を実現
こうした、小惑星資源探査のインフラを提供するのがAstromineだ。「フライバイサイクラー」という独自の軌道設計技術によって、12機の小型衛星によるコンステレーションを構築し、月に1回という高頻度の小惑星探査の実現をめざす。
同軌道設計技術には機械学習を活用したほか、JAXAが限られた予算内で実施してきた小惑星探査のノウハウを活用したという。
流れとしては、まずロケットで複数の探査衛星を同時に打ち上げ、最初の小惑星にフライバイする。その後、地球近傍に帰還した際に地球の重力でスイングバイし、さらに別の小惑星へと向かう。このように探査機を地球〜小惑星間で循環させることで「月に1度の小惑星探査」の実現を目指す。
また、同手法を用いることで、地球低軌道(LEO)に投入されるような超小型衛星を小惑星探査に利用できる。そのため、従来は300億円程度かかった1機あたりの小惑星探査機のコストを、数億円程度にまで圧縮できるという。
小惑星衝突リスクに対応する「地球防衛」にも活用
同社の技術は、地球衝突のリスクのある小惑星を監視する「プラネタリーディフェンス」(Planetary Defense:地球防衛)にも活用できるという。
2013年2月にロシアのチェリャビンスク州で発生した小惑星災害は記憶に新しいが、米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙局(ESA)はプラネタリーディフェンスの取り組みを進めている。
Astromineのビジネスプランでは、まずプラネタリーディフェンスの官需で少しづつ売り上げを立てて、その後2030年代に本格的に立ち上がろうであろう小惑星資源探査市場を狙う。また、小惑星を高頻度探査できる点を生かし、小惑星のカタログデータを作成するなどのデータビジネスも想定する。
S-Booster 2023の受賞結果
S-Booster 2023最終選抜会の受賞結果は次の通りだ。(複数賞を受賞したチームあり)
・最優秀賞:Astromine(日本)「ASTROMINE 小惑星に、毎月いける時代を創る」
・審査員特別賞:SQUID3 Space(台湾)「ASTRID – Rethinking Spacecraft Thermal Design and Enabling Multi-Mission & Multi-Orbit Satellite Bus」
・アジア・オセアニア賞:Spiral Blue(オーストラリア)「Enabling 3D virtual replicas of the Earth with LiDAR satellites」
・ANAホールディングス賞:牛乳石鹸共進社(日本)「コップ一杯の水で爽快な湯あがりを提供する『YUAGARI』」
・資生堂賞:Whole.(オーストラリア)「Next Generation Space Nutrition」
・スカパーJSAT賞:AOZORA(日本)「民間気象衛星による新気象サービス構築」
・ソニーグループ賞:Team Triton(日本)「漁業者支援サービス『トリトンの矛』で実現する水産DX」
・ホンダ R&D賞:MYAIAS(マレーシア)「FLASHNET – Forecasting and Localised Sensing for Hazard: Networked Evacuation and Transportation」
・三井物産賞:Stellar Forecast(日本)「宇宙からの気象予測で運に頼らない観光体験を~ Gamble-Free Aurora Trip! ~」
・横河電機賞:Team LCDL(日本)「水を使わない宇宙洗濯機 ー宇宙の最適な資源循環を目指してー」
・LocationMind賞:Team Triton(日本)「漁業者支援サービス「トリトンの矛」で実現する水産DX」
・JAXA賞:SHISEIDO(日本)「宇宙美容を実現する Astro-care Material」
・NEDO賞:Astromine(日本)「ASTROMINE 小惑星に、毎月いける時代を創る」
関連リンク
S-Booster 2023最終選抜会