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月で資源を開発、拠点を構築–研究センター設立の立命大が考える宇宙開発の今後

2023.06.30 08:00

阿久津良和

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 立命館大学(京都市中京区)は、宇宙の居住や生活圏の構築開発を目的とする「宇宙地球探査研究センター(Earth & Space Exploration Center:ESEC)」を7月1日に設置する。6月29日の記者会見で詳細が発表された。

 同大学 学長 仲谷善雄氏は「我々は2030年に向けた中期計画として、『学園ビジョンR2030 挑戦をもっと自由に~Challenge your mind Change our future』を策定している。今後の5~10年は日本の宇宙探査や宇宙開発の将来を見通す上で非常に重要な時期。人類の生存圏拡張や将来の宇宙生活圏構築を視野に入れつつ、研究者を集約させた」とESEC設置の意義を語った。具体的な活動は今秋から開始する。

(左から)立命館大学 理工学部 教授 小林泰三氏、同大学 学長 仲谷善雄氏、同大学 総合科学技術研究機構 教授 兼 ESECセンター長 佐伯和人氏
(左から)立命館大学 理工学部 教授 小林泰三氏、同大学 学長 仲谷善雄氏、同大学 総合科学技術研究機構 教授 兼 ESECセンター長 佐伯和人氏

宇宙と地球のデュアルユースを生み出す

 ESECは人類の生活圏が宇宙へ拡大する時代を見据えて、人跡未踏の地に自ら探査・開発拠点を構築し、宇宙開発の加速を目的としている。6月29日時点で各分野の研究者25人が滋賀県草津市の「びわこ・くさつキャンパス」を拠点とするため、クリーンルームの設置や基礎研究用機器を準備している段階だ。

 同大学 総合科学技術研究機構 教授 兼 ESECセンター長 佐伯和人氏は、宇宙開発の局面を過去に行われていた「『発見型』の宇宙探査」が第1段階、「探査の展開・共存圏の構築」が第2段階、そして「生活圏の構築・充実化」の3段階に分類。その上で、ESECの取り組みが第2段階の「探査の展開、共存圏の構築。拠点構築と並行してフロンティアを探査し、長期滞在に向けた生活圏構築に向けたインフラ(インフラストラクチャー)整備が(研究内容に)あたる」と説明した。

 ESECは宇宙開発に限らず、土木工学や地盤工学のほかに社会システム工学の研究者も参加し、地球や月を対象にした極限環境フィールド探査、人類が宇宙で生活することを実現するために「宇宙資源学の創成」、月面で利用する技術開発や調査拠点構築に取り組む。

ESECの主たる領域と展望
ESECの主たる領域と展望
ESECで取り組む主なテーマ
ESECで取り組む主なテーマ

 現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は小型月着陸実証機「Smart Lander for Investigating Moon(SLIM)」の打ち上げを2023年度内に予定している。月のマントル物質の組成を調べるためにSLIMに搭載される、地質探査用のマルチバンド分光カメラ(Multi-Band Camera:MBC)は、センター長の佐伯氏が開発リーダーを務めている。

 月極域の氷資源分布や埋蔵量探査を目的とするJAXAとインド宇宙研究機関(Indian Space Research Organisation:ISRO)が共同で取り組んでいる「月極域探査(LUnar Polar EXploration:LUPEX)」計画の探査機(ローバー)に搭載される氷探査用画像分光カメラもESECに所属する研究者が開発に大きく携わっているという。

 第2段階の展開として佐伯氏は、ESECが「宇宙機搭載機器の開発知見や極限フィールドの観測技術や試験フィールドを企業や研究者に提供する」役割を担いたいと述べていた。

 ESECに参加する同大学 理工学部 教授 小林泰三氏は、「観測基地と月資源を利用するプラント建設は大きな目的だが、各種科学技術(の発展)が不可欠。例えば、パウダー状の土で覆われた月面をローバーで滑らず走れるか。居住棟モジュールを安定的に設置できるだろうか。(多くの場面で)事前調査が必要だ」との理由から「宇宙建設工学」の創設を目指す。

 地球で培った知見を宇宙開発に反映しつつ、「地上にフィードバックすることで地上技術と宇宙技術を向上させ、宇宙と地球のデュアルユースを生み出す研究展開を考えている」(小林氏)

ESECの研究領域と担当研究者
ESECの研究領域と担当研究者
土木工学や地盤工学が専門の小林氏が取り組んだ月面地盤調査ロボット(Robotic Geotechnical Investigation System:RGIS)は国土交通省の「宇宙無人建設革新技術開発」プロジェクトの一環として進められている
土木工学や地盤工学が専門の小林氏が取り組んだ月面地盤調査ロボット(Robotic Geotechnical Investigation System:RGIS)は国土交通省の「宇宙無人建設革新技術開発」プロジェクトの一環として進められている

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