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「宇宙での船外活動、実はプールでの訓練より楽」–ISSから帰還の若田飛行士が会見

2023.04.05 15:35

小口貴宏(編集部)

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 航空宇宙研究機構(JAXA)は4月5日、国際宇宙ステーション(ISS)から帰還した若田光一宇宙飛行士の帰還後の記者会見を実施した。若田飛行士は宇宙滞在についての感想などを語った。

 若田飛行士は3月12日、約157日間のISS滞在を終えて地球に帰還した。宇宙滞在は日本人最多の5度目で、累計の宇宙滞在日数は504日となった。

 今回の滞在では、次世代水再生システムの全行程の実証実験に成功したほか、低重力環境での液体の挙動に関するデータ収集や、モデル生物を用いて宇宙飛行が加齢に及ぼす影響を調べる実験も行った。さらに、2030年までのISS運用延長に必要な新型太陽光パネルの架台を設置するため、2回の船外活動も実施した。

米国から記者会見に望んだ若田光一飛行士(回線環境の影響から画像が粗かった)

ーー今回のミッションで印象に残った点は

 若田飛行士:今回のミッションは、これまでで最もトラブルが多かったと感じている。Soyuz宇宙船で冷却水の漏れが発生するなど、さまざまな問題があったが、世界各国の運用管制局が協力し、チームワークで乗り越えることができた。

 また、太陽電池パネルの架台を設置する際に、取り付けられない構造が判明し、解決のためにブレインストーミングを行ったが、ツールが壊れたり、地上管制局が考えた方法がうまくいかないなどのトラブルに直面した。

 しかし、有人宇宙活動の強みは、こうした問題が発生した場合でも、リアルタイムで人間が介在し、前進できる点にある。宇宙開発において、なぜ人間が必要なのかという究極の疑問にも関連しているが、問題を解決するための協力やチームワークの重要性を実感した。

ーーもうすぐ60歳になられるが、2度の船外活動の際、体力面はどうだったか

 若田飛行士:軌道上では毎日2時間の筋力トレーニングと有酸素運動を行っていた。また、船外活動では特に手の動きで疲労が溜まるため、握力や手首のトレーニングをきちんと実施したが、その成果で軌道上では特に問題なく動けた。また、実は船外活動はプールの中での訓練よりも楽に動ける。

ーーSpaceXのクルードラゴン宇宙船の乗り心地はどうだったか

 若田飛行士:これまでスペースシャトルやSoyuz(ソユーズ)に乗っており、Crew Dragon(クルードラゴン)には初めて乗った。これまで野口さんや星出さんからもコメントが出ている通り、自動制御の完成度が非常に高いと感じている。ISSへの往復でクルーが費やす労力が非常に少なくなっており、キャビンの中も広く、乗り心地も快適だった。これからのより多くの人が宇宙へ行く時代の幕開けを、クルードラゴンに乗ることで実感できた。

ーー「Artemis II」のクルー発表式典に参加した感想は

 若田飛行士:商業宇宙開発が低軌道で活発化する中、有人宇宙活動が月や火星へと大きく飛躍する時代に入ったということを実感する瞬間だった。

ーーJAXAの「Think Space Life」というプロジェクトで、日本企業発のさまざまな生活用品を宇宙に持ち込まれたが、使用感はどうだったか

 若田飛行士:新しいものをいくつも軌道上で使用したが、ほとんどの製品が良かった。日本の民間企業がさまざまなアイデアを出して製品を作ってくれたことに感謝している。

 宇宙では使える水が1日3リットル以下に制限されている。限られた水のリソースのもと、顔を拭ったりシャンプーをしたりする必要があるが、日本の製品は米国やロシアの製品に比べても素晴らしく快適性が高かった。日本の生活用品はまだまだ宇宙への適用が可能だと感じている。

ーー米ロ対立が深まっている。ISSでのコミュニケーションはどのように行われているか

 若田飛行士:地政学的な情勢でプログラム継続の難しさは感じた。しかし、米ロの飛行士を含め、我々に託された任務は、ISSの能力を最大限活用することにある。そのためにはコミュニケーションをしっかりとって、チーム全体としての成果を出すことが大切だと思っている。

 特にロシアのクルーとは、日々の実験や運用で共同作業が少ないので、緊急事態が発生した際に、連携して適切な対応ができるよう、業務時間以外の食事の時間などに、コミュニケーションを図ることを心がけた。人気の宇宙日本食もコミュニケーションに役立った。

ーー次世代の水再生装置の全行程を試験したとのことだが、本物の尿を使用したのか。また、これまでのNASAの装置に比べて何が凄いのか

 若田飛行士:模擬尿を使用した。私の滞在中には再生水を飲むというところは含まれていなかったが、飲める状態まで水を再生するところを初めて実証した。

 従来の装置に比べた強みは、コンパクトで省電力である点だ。今後人類が月や火星に向かう際には、重量やコンパクト化されたシステムが重要となる。日本は緻密なシステムの開発運用が得意なので、日本がさらに技術開発に邁進すべき分野だと感じる。

ーー新たに宇宙飛行士候補となった米田あゆさん、諏訪理さんについて

 若田飛行士:それぞれ素晴らしい資質を持っている。今後世界の有人宇宙探査の中で、日本人としてなすべきことをしっかり見極めて、貢献できるための強みを磨いてほしいと思っている。世界の最先端を見て学び、自らの資質を高めてほしい。

ーー今回で5度目の宇宙滞在となったが、リハビリのメニューで変わったことは

 若田飛行士:リハビリは長期滞在のときだけ実施するが、基本的にはメニューは変わっていない。しかし、ハードルを乗り越える障害物競走のようなメニューが追加されるなど、新たなアイデアは追加されていると感じる。

ーー自身の今後については

 若田飛行士:現時点で今後、具体的にどんな業務を担当していくかは考えている最中だが、新人のサポートなどを含めて日本の有人宇宙活動の発展のために寄与していきたい。

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