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新型ロケット「H3」、打ち上げ失敗–「原因を調査して今後の対策を検討」JAXA
2023.03.08 08:00
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月7日、新型基幹ロケット「H3」の試験機1号機(Test Flight No.1:TF1)の打ち上げ失敗の原因を調査するために理事長の山川宏氏を長とする対策本部を設置したことを発表した。
TF1は、予定通り午前10時37分55秒に打ち上げられ、固体ロケットブースター「SRB-3」の分離、ロケット先端に搭載された衛星を覆って保護する“フェアリング”の分離、第1段エンジン「LE-9」の燃焼停止(Main Engine Cut Off:MECO)、第1段と第2段の分離までは予定通り実行した。
その後、第2段エンジン「LE-5B-3」の推力立ち上がり(Second Engine Lock In:SELI)が打ち上げ後316秒に予定されていたが、SELIが確認されなかった。LE-5B-3に着火されなかったことで打ち上げから835秒後(13分55秒後)の午前10時51分50秒に指令破壊信号を送出。TF1は破壊され、目的である先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を軌道に載せることはできなかった。TF1の機体はフィリピン東方沖に落下したとみられている。
打ち上げ後の同日午後、JAXAは記者会見を開催。理事長の山川氏は、SELIが確認されず、打ち上げが失敗したことについて「原因を調査してから今後の対策を検討する」と説明した。
政府の宇宙開発の行動規範とも言える宇宙基本計画工程表で「H3の競争力強化」がうたわれている。会見に登壇した文部科学省 大臣官房 審議官(研究開発局担当)である原克彦氏は「関係機関と話して今後を考えたい」と話した。
H3は、宇宙打ち上げサービス市場で国際競争力を高めるために1回あたりの打ち上げ費用を50億円に抑えることを念頭に開発。ロケットの専用部品ではなく、市場に流通している汎用品を活用している。シンプルな構造にするために部品そのものを減らすことにも挑戦している。部品を減らすことは、部品一つひとつに負荷が高まることにつながるが、山川氏は「信頼性をないがしろにしてきたつもりはない」と解説した。
H3では、第1段エンジン「LE-9」の開発に苦労してきたが、JAXA 理事で打ち上げ実施責任者である布野泰弘氏は「計画値通りに飛行した。所定の性能を発揮した」とLE-9を評価した。
着火されなかったLE-5B-3も、H3のために新たに開発された。LE-5B-3の前身となる「LE-5B」は、主要技術のすべてが国内で開発されたロケット「H-II」の第2段エンジン「LE-5A」と同様に軌道で複数回燃焼させられる機能を持ち、「H-IIA/H-IIB」の2段エンジンに活用されている。
「LE-5B-3はすべての部品を見直すことから始めた。推力は以前と同じだが、燃焼秒時は500秒から740秒に伸びている」(布野氏)
今回の失敗で打ち上げサービス市場でJAXAや日本製ロケットに対する信頼性は損なわれたことになる。信頼性を回復するために、山川氏は「どれだけ早く対応できるか。透明性を持って進めていく」と答えた。
軌道に投入される予定だったALOS-3は、現在運用されている、レーダセンサーを搭載した陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS-2)の後継になるはずだった。ALOS-2はすでに設計時の寿命を超えているが、今後も運用せざるを得ない。ALOS-2の後継あるいはALOS-3の再開発について、山川氏は「まずは原因を究明して、関係する省庁や機関と話して、今後をどうするか検討していきたい」と話すにとどまった。
H3の前身である、現行の基幹ロケットであるH-IIAは2023年度の50号機で退役する予定(46号機は1月に打ち上げ成功)。H-IIAの運用延長の可能性もあり得るが、布野氏は「H3失敗の原因を究明して、打ち上げ再開に向けて取り組んでいる。総合的に判断して、H-IIAの可能性もあり得る。ただ、H-IIAでは枯渇している部品もあり得るので、検討していく必要がある」との見方を示した。