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アクセルスペース、放射線に耐性ある無線機を開発–東工大と共同で研究

2023.02.21 07:30

飯塚直

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 アクセルスペース(東京都中央区)は2月20日、東京工業大学とともに、放射線耐性の高い無線機の開発に成功したと発表した。同大学の科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 准教授の白根篤史氏、同大学の大学院 電気電子系 教授の岡田健一氏、助教の戸村崇氏とともに開発した。

 第5世代(5G)の移動体通信システムの次の世代である「Beyond 5G」時代では、地上の通信インフラに加えて、地上以外の通信ネットワーク(Non-Terrestrial Network:NTN)も利用することで通信エリアを広げることが検討されている。高度2000km以下の地球低軌道(LEO)で衛星同士が光で通信するネットワーク構築は次世代のキーテクノロジーとして注目されている。

 単に地上の通信インフラ未整備エリアを補完するだけでなく、従来通信サービスが十分に提供されていなかった山頂や船舶・航空機、無電化地域といった空間でも通信できるようにすることが求められている。自然災害発生時といった地上通信インフラが一時的に使えない場合に、NTNのインフラがより広域で堅牢な通信網を提供することも求められるようになっている。  こうした背景からBeyond 5G時代に向けて、低軌道衛星コンステレーションの研究開発やサービス化が急速に進んでいる。人工衛星に搭載する無線機についても、高速通信が可能であり、宇宙という過酷な環境に耐えられる衛星搭載用の無線機の需要が高まっている。

 現在の光通信機や高速通信が可能な無線通信機は数トン級衛星を念頭に置いた高出力・高消費電力なものが多く、安価にコンステレーションを構築することに有力な100kg級衛星への搭載が困難と考えられていた。

 アクセルスペースは、情報通信研究機構(NICT)からの受託研究「Beyond 5G次世代小型衛星コンステレーション向け電波・光ハイブリッド通信技術の研究開発」を進めており、100kg級衛星でGbps級の衛星間通信、地上との通信が可能な小型衛星による電波・光ハイブリッド通信衛星コンステレーションネットワーク構築を目指している。

 電波・光ハイブリッド通信では、光通信リンクの確立のため、精密な衛星姿勢制御が要求される。光通信は電波に比べて高速に通信できる一方で、雲があると完全に通信不能になる欠点がある。

 そのため、電波通信のなかでは高速化が期待できる通信帯域(27~40GHz、Ka帯)を使用し、電波・光ハイブリッドな通信システム構築を目指している。

アクセルスペースが進める電波と光のハイブリッド通信技術(出典:アクセルスペース)
アクセルスペースが進める電波と光のハイブリッド通信技術(出典:アクセルスペース)

 電波・光ハイブリッド通信のためには、電波通信に対しては光通信のための精密な姿勢制御を邪魔せず、光通信に匹敵する高速な通信という相反する要求を達成する必要がある。それを達成するキー技術として、東京工業大学との共同研究でKa帯でのフェーズドアレイ無線機、広帯域Ka帯通信機を研究開発している。

 放射線環境が厳しい宇宙空間では、電子部品は放射線で劣化する。人工衛星の内側と外側では放射線を受ける量が異なり、外側に配置された電子部品が、内側に配置された電子部品より劣化度が高くなる傾向にある。そのため、特段の理由がない限りは、電子部品は人工衛星の内側に配置し、多くの場合放射線を減らす目的でシールドで覆い保護されている。

 宇宙空間に打ち上げた後は、現時点での劣化度や劣化箇所についての情報を的確に捕捉することが難しく、設計段階で軌道寿命から計算した電子部品の劣化量を考慮。劣化が最大の状況でも、システムとして機能喪失しないように設計することが求められる。

 フェーズドアレイ無線機は、地上用製品としては昨今サービスが始まったミリ波帯5G通信などで多数の製品が存在する。これらは、小型化、軽量化、低コスト化などを目的として、アンテナとフェーズドアレイICを基板上に一体化して搭載している。

 そのため、アンテナとICを分けて搭載できず、人工衛星に搭載する場合には必然的に衛星外部に配置される。このため、放射線による経年劣化が課題となり、放射線環境に対し堅牢なフェーズドアレイ無線機の開発が求められていた。

 今回の研究で開発したフェーズドアレイICは、IC自体に劣化量を測定する放射線センサーを内蔵。同ICを利用して無線機を構成することで、アレイ上のあらゆる位置での放射線劣化量を検出できるようになるという。

 無線機性能の劣化を補正するようにパラメータを再調整し、フェーズドアレイ無線機全体の性能悪化を避けることが可能。放射線に強い通信システムも開発できるとしている。

 同社では今後も、東京工業大学と共同研究を継続する予定。これまでの研究成果を生かし、送信向けのフェーズドアレイ無線機の開発も進行中だという。

 数年以内には、今回の成果である受信フェーズドアレイ無線機と送信系フェーズドアレイ無線機、同社が開発する広帯域Ka帯送受信機を統合した、高放射線に耐性があり、省電力なKaバンド通信サブシステムを搭載する実証小型衛星の打ち上げを予定するという。

 今回の耐放射線フェーズドアレイ無線機技術により、宇宙での活用が可能となったフェーズドアレイ無線機を組み込んだ高機能な次世代衛星による衛星コンステレーションを構築を目指す。

 今回の成果は世界最大規模の半導体関連の国際学会「ISSCC 2023」で発表するとともに、3月に米国で開催される人工衛星ビジネス会議「Satellite 2023」で展示する予定。

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