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H3ロケット試験機、打ち上げ延期–「LE-9」タービンに新課題

2022.01.22 08:00

田中好伸(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月21日、開発を進めている「H3ロケット」の試験機1号機の2021年度の打ち上げを見合わせることを発表した。打ち上げ時期の変更は2度目。

H3ロケットの第1段エンジン用の新しい「LE-9」エンジンの開発に取り組んできているが、2020年5月に、実際の打ち上げに用いるエンジンと同じ設計やプロセスで製造した試験用エンジンの機能や性能を確認するとともに、寿命実証を目的にした「認定燃焼試験」(Qualification Test:QT)で燃焼室内壁の亀裂と液体水素ターボポンプ(Fuel Turbo Pump:FTP)タービンの疲労という2つの課題を確認した。

 燃焼室内壁の亀裂とFTPタービンの疲労に確実に対応するため、開発計画を見直し。試験機の打ち上げ時期を試験機1号機(Test Flight No.1:TF1)は2021年度、試験機2号機は2022年度になる見込みと2020年9月に発表した。

 以降、ターボポンプを実作動させ、動翼に発生するひずみを直接計測する「翼振動計測試験」とエンジンの燃焼のデータを取得する試験などを進めており、問題となる現象の究明と対応策の具体化を進めている。QTへの移行には、ターボポンプ単体を含む、対応策を反映したエンジンで試験検証することにしている。現在は、ターボポンプの設計確定に向けて試験を進めているところと説明している。

 燃焼室内壁の亀裂は、最大で幅0.5mm×長さ10mm程度の開口を計14カ所で確認した。燃焼室内壁を高温作動条件で試験すると、燃焼室の内壁が設計値以上に高温化していることが判明。高温化した要因は、「定常時の局所的な熱の流入」あるいは「起動・停止過渡時の一時的な冷却不足」と推定した。

 対応策としては、冷却を強化するとともに起動・停止パターンを見直すなどを実施することで燃焼室内壁温度を低減させた。エンジン燃焼試験で技術データを追加取得して、対応策の効果を検証する予定と2020年9月に発表した。

燃焼室内壁の亀裂のイメージ(出典:JAXA)
燃焼室内壁の亀裂のイメージ(出典:JAXA)

 2020年11月からは計9回、1154秒の燃焼試験を実施。さまざまな燃焼状態の燃焼室内壁直近の温度データを取得し、各試験後に燃焼室内面の性状変化を確認している。QTで起きた現象を実際に起きていることも確認した。

 試験データを評価するとともにシミュレーションを行うことで「定常燃焼中に壁面に繰り返し高温の温度サイクルが負荷されることで一定方向の塑性変形が累積」して亀裂が発生したと推定している。

 これらから、壁面の変形が有意に進行しない壁温の上限以下で作動させる対応策を確立したと説明。TF1で使用する機械加工噴射器は十分な余裕があるとしている。試験機の2号機以降で使用する3Dプリンターで造形した噴射器は、実証データを増やすとともに、最終設計での機能や性能を検証するために技術データ取得燃焼試験を追加する予定という。

 FTPタービンの疲労では、第2段のローター76枚あるうちの2枚に疲労があることが確認されている。翼振動計測試験などから、当初は有意な影響があると評価したモード以外での共振現象で疲労が蓄積、進行したと推定した。

 固有の共振周波数を運転領域から除外したタービンに設計を変更。液体酸素ターボポンプ(Oxidizer Turbo Pump:OTP)でも原則同様の方針で設計を変更した。その後のFTPの設計変更では、共振がなくなり、翼振動計測試験で改善されたことを確認した。

 しかし、同試験では、第1段のタービンに「フラッター」と呼ばれる現象が発生。複数の対応策を検討している。OTPでの設計変更でも、共振がなくなった。だが、OTPの翼振動計測試験では、対応すべき課題を新たに把握。FTPと同様に複数の対応策を検討している。

 燃焼室内壁の亀裂という問題は解消したが、FTPとOTPでは新たな対応策が判断。こうした状況から2021年度の打ち上げを見合わせるという決定を下した。

 H3ロケットは、第1段エンジン3基のみの最小構成で太陽同期軌道に4トンを、第1段エンジン2基と固体ロケットブースター4本の最大構成で静止移行軌道に6.5トンを、それぞれ打ち上げ可能。

H3のシステム概要(出典:JAXA)
H3のシステム概要(出典:JAXA)

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