インタビュー

オーストラリア初の宇宙飛行士が語った同国の強みや女性活躍–キャサリン・べネル=ペッグ氏にインタビュー

2025.05.30 08:00

藤井 涼(編集部)

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 大阪府立水都国際中学校・高等学校は5月22日、オーストラリア初の宇宙飛行士であるキャサリン・ベネル=ペッグ氏を招いた特別講義を開催した。キャサリン氏は多くの高校生たちに向けて、自身のキャリア感や宇宙飛行士訓練などについて語った。UchuBizでは講演後にキャサリン氏に単独インタビューをする機会を得た。宇宙飛行士としての展望や、宇宙分野における女性活躍などについて話を聞いた。

オーストラリア初の宇宙飛行士であるキャサリン・ベネル=ペッグ氏

オーストラリアの宇宙飛行士として実現したいこと

ーーオーストラリア初の宇宙飛行士として実現したいことはありますか。

 オーストラリア初の宇宙飛行士になれたことは大変光栄に思っています。私自身のためだけでなく、国のために何ができるのか、科学者やエンジニアのために何ができるのかを考えると、とてもワクワクします。そして、次世代の子どもたちがSTEM教育あるいは宇宙に関心を持ってくれるように貢献したいと思っています。

 私自身はやはり宇宙に行って、地球ではできないような科学技術の発展に携わりたいと思っています。たとえば、新しい医学的な発見であるとか、エネルギー面での新たな解決策であるとか、そういった地球では実現できないものを発見していきたい。そして、次世代の人たちと共有していきたいです。

ーーオーストラリアという国は、世界の宇宙産業においてどのような強みを発揮できると考えますか。

 オーストラリアは、宇宙分野において長年誇れる歴史を持っています。ここ数年はそれがさらに加速しており、より幅広い意味での宇宙産業に発展していると思います。オーストラリアが国として提供できるものとして、まず地理的な強みがあります。非常に広い国土や開けた空があるため、たとえば日本の探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」で採取した試料を収めたカプセルを地球に帰還させた際には、オーストラリアが着陸地を提供しました。

 日本とオーストラリアの宇宙機関の間では、これまでも優れたパートナーシップが継続されてきましたが、近年はますます強化されています。先日は、1980年に締結された「日・オーストラリア科学技術研究開発協力協定」が45周年を迎えましたが、その大部分を宇宙分野が占めています。近い将来、日本のMMXミッション(2026年を予定している火星衛星サンプルリターンミッション)も、われわれが大きくサポートできるのではないかと期待しています。

ーー2024年には、JAXA宇宙飛行士の諏訪理さん、米田あゆさんと一緒に基礎訓練を受けたそうですが、お二人とのやりとりの中で印象に残っているエピソードはありますか?

 お二人とはとても仲良くさせていただいています。もっと訓練をして、いつか一緒に宇宙に行くことができればとも思っています。最初にお会いしたのは、パラボリックフライト(航空機内に微小重力環境を生み出す放物線飛行のこと)の時だったのですが、そこでお二人とは本物の絆が生まれたと思います。ゼロGの中でお互いに色々な体験をしましたし、自分たちの国についてもたくさん話をしました。

 最初に諏訪さんとお会いしたのは朝食を食べていた時です。私がミニトマトをフォークで刺したらすべって彼の方に転がってしまったのですが、そこでお互いに笑い合っていい友人関係が生まれたと思います。あゆさんとは、フランスで移動するために一緒に車に乗りました。ただ、フランス車はお互いに初めてだったので、最初は運転の仕方がよく分からなかったのですが、彼女はとても有能な方なので、すべて解明してくれて、無事に運転することができました(笑)

宇宙分野における女性活躍に必要なこと

ーーキャサリンさんは日本の高校生に向けた講演の中で、女性の宇宙飛行士がまだまだ少ないとお話されていました。宇宙分野における女性活躍の場を広げるために、何が必要と考えますか。

 オーストラリアには、「目に見えなければ、こうなりたいとは思えない」という考え方があります。私はやはり、(宇宙に携わる)優れた研究者やエンジニアの存在を、自身の話を通して多くの人々に伝えていきたいと思っています。そうすることで、若い女性でも自信をもってキャリアを追求できるかもしれません。そのためには教育へのアクセスも必要ですし、まずは知ってもらうことが大切だと思います。

 「自分は既成概念に当てはまらないのではないか」と心配している人にとって、最初の一歩を踏み出すことはとても難しく、怖いことだと思います。ただ、若い女性にも「自分は何になりたいか」ではなく、「どのような問題を解決をしたいのか、貢献したいのか」という目的意識を持てる人になってもらいたいと思っています。そうすることで、自分と他人を比較したりすることがなくなるからです。

大阪府立水都国際中学校・高等学校での特別講演の様子

 私の好きな言葉に、プルタルコスという哲学者が残した「心は満たすべき器ではなく、灯すべき炎である」という言葉があります。それは想像力のスパークを見つけることであり、動機となるものにいかに火をつけるかが大切なのです。

 宇宙には優れた人材が必要ですが、それは子どもたちも例外ではありません。そういった若い人たちにも協力してもらう必要があります。また、宇宙に多くの女性が携わるようになれば、宇宙における女性の医学データなども蓄積できます。それにより、地球での女性に関わるさまざまな問題や病気の解決にもつながるのではないかと思っています。

ーーキャサリンさんが実際に宇宙へ行くのはこれからだと思いますが、最も楽しみにしていることは何ですか。

 宇宙遊泳ですね。宇宙ステーションのハッチを開けて、宇宙や地球を目の当たりすること。宇宙遊泳によって科学のあり方にどのような違いが生まれてくるのかを自分自身で捉えたいです。また、私は日本にいる時に「オーストラリアから来ました」と自己紹介するように、宇宙に行った時には、やはり「私は地球から来た」という感覚になると思います。その日が訪れるのを楽しみにしています。

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