インタビュー
AWSが語る「宇宙ビジネスにクラウドが不可欠な理由」–航空宇宙部門Crosier氏インタビュー
2022.08.02 09:14
「クラウドは宇宙ビジネスのあらゆる分野で不可欠」――そう語るのはアマゾン ウェブ サービス(AWS)航空宇宙部門でディレクターを務めるClint Crosier氏だ。
同氏は東京・虎ノ門で7月19日~21日にわたり開催された宇宙カンファレンス「SPACETIDE 2022」に登壇し、宇宙クラウドの最前線や日本のスタートアップとの協業について説明した。以前はアメリカ宇宙軍でロケットの打ち上げや衛星の運用にも携わっていた経歴もある彼に、宇宙とクラウドの最前線、そしてAWSの宇宙への取り組みを聞いた。
――今回、Crosierさんは米国からはるばる日本を訪れSPACETIDE 2022に登壇されました。AWSは日本市場をどのように重視していますか?
AWSにとっても宇宙産業全体にとっても日本は特に重要な市場だと考えています。日本は長年にわたりテクノロジーのリーダーとして君臨してきました。そして、イノベーションに富んだテクノロジーを開発している企業がたくさんあります。
――世界の宇宙開発における日本の存在感についてはどのように感じておられますか。
もちろん、ご存知だと思いますが、日本は米国が提唱したアルテミスアコードの最初の締結国のひとつでもあるんです。アルテミスは月、ゆくゆくは火星に人を送るプログラムなんですけども、将来の宇宙探査の分野において、日本は重要な存在になると思っています。
――AWSは宇宙への取り組みで先行していますね。基調講演では、衛星と通信する地上局「AWS Ground Station」をAWS自らが保有していることや、宇宙空間そのものにエッジコンピューティング、ストレージ製品「AWS Snowcone」を送り出したことについてもお話されていましたね。
先行しているとの観点をもっておられることに感謝申し上げたいと思っています。ただ、我々は競合他社のことは全く意識しておらず、お客様のニーズだけを捉えてサービスを提供するということを徹底しているんですね。
――Crosierさんはもともとアメリカ空軍および宇宙軍の出身であったとお聞きしております。その経歴も踏まえて、AWSが宇宙に注力する理由についてお聞かせいただけますでしょうか。
はい、私はこれまでの人生でロケットの打ち上げや衛星の運営に携わってきました。なので、今でも愛着を持っています。でも、宇宙開発で最も重要なのは、衛星やロケット自体ではなく、そこから生まれる膨大なデータなんですね。データの管理、処理、共有、分析こそがAWSがまさに得意としている分野なので、AWSと宇宙はベストな組み合わせとなるのです。
――AWSでは自前の地上局「AWS Grand Station」を保有していますが、これについて改めて説明していただけますか。
AWS Ground Stationを利用することで、ユーザー企業の皆様が自前の地上局に巨額の投資をせずに、従量課金で地上局を利用できるようになります。お客様の事例によっては、コストをだいたい60%から80%まで削減できたという事例も聞いております。
――コストを低減できるのが大きなメリットであると。
もう1つ重要なメリットとしてお伝えしたいのは、AWS Grand Stationを使うと、衛星から地上に降りてきたデータが、直接AWSのクラウドにつながるんですね。直接の接続となるので、単に宇宙からデータを引っ張ってくるだけでなく、AWSが提供する200以上のサービスをお客様が活用できる点も大きな価値になるでしょう。
――AWS Grand Stationの利用は宇宙企業間も間でも広がっているのでしょうか。
例えば東京のインフォステラというスタートアップ企業様がAWS Grand Stationと直接通信できるインターフェイスを構築されたんです。世界中の衛星を用いた企業が、インフォステラの同インターフェイスを活用することで、AWS Grand Stationと直接繋がれるようになるので、宇宙とクラウドを直結する価値が広く認識されるようになったと思います。
――AWS Grand Stationの地上局は現時点で10基です、これは今後増えていくのでしょうか。
最近10基目のアンテナをチリ・プンタアレナスに設置したばかりなんですね。基本的なアプローチとしては、お客様から「ここをカバレッジしてほしい」という声があれば、それに全力で耳を傾けて、地上局を増やしていくというスタンスをとっています。
――AWSは宇宙にストレージとエッジコンピューティング機能を備えた小型製品「AWS Snowcone」を送り出していますが、この狙いについて教えて下さい。
わかりやすいのはNASAの事例です。NASAは火星にローバー(探査車)を飛ばし、火星の探査データを収集していますけども、収集したデータはいったん3億マイル(約4.83億キロメートル)離れた地上に送り、それをクラウドで処理して、その分析結果を踏まえて、ふたたび3億マイル離れた火星に「ここを採掘しなさい」と指示を送っているわけです。3億マイルもの距離を通信するというのは、もうこれだけでオペレーションとして効率が悪いのは明らかです。なので、クラウドを実際の現場に近づけるということをやっているわけなんですね。
――ほかに「AWS x 宇宙」でわかりやすい事例はありますか。
仮想ミッションオペレーションセンターがあります。私が若い頃は、非常に大きな部屋で、何十台ものコンピューターを用いて人工衛星をオペレーションしていました。これほどのコンピューターを用意してはじめて、衛星コンステレーションを管理できたんです。しかし、これはあまりに労働集約的だしコストもかかります。
しかし、AWSを用いることで、手持ちのノートPCをクラウドに繋げて、ホテルの部屋からでも衛星や衛星群を運用できるようになったんですね。メンテナンスも不要ですし、1か所ではなく何十ものオペレーションセンターを仮想で運用できるので、万が一のシステムダウン時のリカバリーも迅速です。
――確かに、クラウドを用いることで、宇宙プロジェクトの運用が圧倒的に手軽になりますね。Crosierさんの視点として、AWSと特に親和性の高い宇宙ビジネスは何だとお考えでしょうか。
そこがまさにワクワクする点なんですが、宇宙ビジネスのすべてに貢献できると思っています。全てのハイテクの分野、宇宙分野に適用できるんですね。だからこそ我々は急成長しながら、こんなに忙しくさせてもらっています。
――宇宙開発ではスタートアップも大きな存在感を示しています。
宇宙業界のスタートアップは本当にイノベーションに富んだテクノロジーを開発していますね。さきほどの基調講演のなかでも、キューブサットを開発、運用するアクセルスペースや、宇宙光通信のワープスペースさん、宇宙用汎用型作業ロボットを開発するGITAIさんに言及させていただきました。
――基調講演では、ワープスペースさんがデータ中継サービス「WarpHub InterSat」にAWSを活用することも発表されましたね。スタートアップ支援では政府との連携も重要になるのでしょうか。
AWSの航空宇宙部門では、最近シンガポール政府との間で、スタートアップ支援に関する取り決めを交わしました。つまり、私達はシンガポール政府と一緒になって、宇宙スタートアップを支援するということです。彼らが新しい価値を生むことで、地元の経済をより実りの多いものにしていく。同じようなことを多くの国々とも取り組んでいきたいと思っています。