インタビュー

宇宙ビジネスを議論する「SPACETIDE」石田代表に聞く–宇宙ビジネスの過去と未来

2022.07.13 08:00

藤井涼(編集部)田中好伸(編集部)阿久津良和

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 そのSpaceXが成功するきっかけともなったのがスペースシャトルの退役です。退役後に、米国としては政治的な側面で物資と宇宙飛行士の輸送をロシアに依存する状況下は好ましくありませんでした。

 米国がアポロ計画などに莫大な予算を投下できたのは、冷戦時代の歴史的背景がありましたし、その後の国際宇宙ステーション(ISS)では国際協調や予算効率化などが進んできたので、再び膨大な予算を投じるのは難しい。

 他方で前述した政治的側面も相まって、民間の力を活用するように変化したのが大きな転換点でした。

 NASAのCOTS(商業軌道輸送サービス)はSpaceXとOrbital Sciences(現Northrop Grumman)など数社が計画に参加していますが、当初は課題も多く、「SpaceXは絶対成功しない」と皆思っていました。NASAの中の人からも同様の声が聞こえてきました。

 しかし、結果はご承知の通り。NASAも自己変革を行いつつ、成功にむけてコミットした凄さもありますが、SpaceXの存在は大きい。Elon Musk氏以外の起業家では、現在のようにならなかったでしょう。

 Musk氏もNASAから業務を受託するためにSpaceXを開発したわけではなく、宇宙ビジネスの可能性を感じていたと思います。当時から「人類を火星に送り届ける」という長期的なビジョンも持っていました。(NASAが)COTS計画を成功に導き、その受け手にMusk氏が参加していたのは偶然ながらも、大きな歴史の流れが交差をした瞬間だったと思います。

 Steve Jobs氏の発言「Connecting the Dots(点と点をつなぐ)」にもあるように、将来を見越すことは難しい。だが、振り返ると人生の点はつながっているという話ですが、SpaceXの凄さは点が将来に向かってつながっていることです。

 「Falcon 1」から「Falcon 9」に至り、Falcon 9が物資をISSに届けて、商業衛星の打ち上げロケットにも使われるようになりました。そして、日本の野口宇宙飛行士も乗りましたが、宇宙飛行士をISSに届けて、地球に戻すことにも既に成功しています。

 (衛星インターネットアクセスサービスの提供を目的とした)Starlink計画は現時点では独走状態です。その強さの源泉のひとつがFalcon 9の競争力や打ち上げ回数です。彼らの活動は一歩先の未来に必ずつながっており、その導線が本当に美しい。

SPACETIDE 2021 Springに登壇する石田氏
SPACETIDE 2021 Springに登壇する石田氏

宇宙ビジネスで政府機関が果たすべき役割

――SpaceXとNASAの話が出ましたが、アンカーテナンシー(政府が一定の調達を補償して民間企業の産業基盤の安定化を図る取り組み)の存在が大きいと感じています。

 従来は政府が予算を投じて、開発、製造、運用していきまして、民間はベンダーとして参加します。しかしながら、昨今は民間が自己資金を投下して、開発、製造、運用を自ら行います。政府は開発の支援をしたり、顧客としてサービスを購入したりします。この政府によるサービス購入が最初の顧客となることで、次の客に広がっていきます

――宇宙開発から宇宙産業への移行では、政府機関との関連性が重要になります。宇宙ビジネスでの政府機関の果たすべき役割は何でしょうか。

 米国のやり方をそのまま日本にあてはめることは難しいです。JAXA(宇宙航空研究開発機構)は政府の研究開発機関として、ロケットや人工衛星など多様なプログラムに取り組んできて様々な成果を実現してきました。しかしながら、日本の宇宙予算は約5000億円、米国の宇宙予算は4兆円以上と大きな差分があります。

 また、米国は主に安全保障の観点で宇宙開発に取り組んできましたが、他方、日本は科学の観点で進んできました。米国の宇宙ビジネス市場では安全保障関係の政府機関が民間企業のサービスを購入するとて大きな顧客になるのですが、このビジネスモデルを日本にそのまま当てはめるのは難しいと思います。

 それでも小型衛星分野など国内民間企業が主体となる活動も目立ち始めました。宇宙ゴミの除去に取り組むアストロスケールもその一つです。現在進んでいるJAXAとの共同技術実証が起点となって世界初の大型デブリ除去に成功し、将来的に政府調達につながっていけば、民主体の新たな市場ができることになりそうですね。

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