インタビュー

宇宙ホテルに夢をはせ、ISS退役後を見据えるElevationSpaceの潜在能力

2022.05.25 08:00

田中好伸(編集部)阿久津良和

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 宇宙ビジネスは成功事例が少ない分野ですが、そもそもモノを作るスタートアップ企業は、ビジネスとして非常に難しい領域だと考えています。創業前は「実現可能なのか」とも考えました。よく「馬鹿と天才は紙一重」と言いますけど、スタートアップ企業を立ち上げる判断はどちらなのかと真剣に考えていました。

 ですが、宇宙ビジネスは長期スパンで向き合わなければならず、宇宙建築では20~30年のスパンで市場を見る必要があります。その意味で若者の方が向いている、というのも創業理由の一つです。

 実際に宇宙で生活するのは50年以上先の話ですが、そのときに「自分事」として語れる方がいいなと思っています。技術面は桒原先生がおられます。知見を持つ素晴らしい方々を巻き込んでいけば、(スタートアップ企業の経営を)十分やっていけるのではと思っています。

 もう一つあります。宇宙建築を本気でやりたい、実現したいという思いを一番持っているのは私自身です。宇宙ビジネスのコンペティションでも評価いただいてます。強い思いを持ち、成し遂げる人。それが新規ビジネスで一番重要だと思っています。そして自分が一番向いているとの思いが腹落ちして創業の判断に至っています。

ElevationSpace 代表取締役 CEO 小林稜平氏
ElevationSpace 代表取締役 CEO 小林稜平氏

ISSの3つの課題

――ElevationSpaceが手掛けている「ELS-R」とはどんなものでしょうか。

 ISSでは、さまざまな実験が行われていますが、大別すると三つの課題があると思っています。

 一つは利用できる国や人が少ないことです。これはISSの運営が先進国のみで行われているためです。たとえば近年、急成長したアジア諸国が利用する機会は乏しいですよね。

 もう一つは使いにくさです。ISSの安全基準は非常に高く、実際に利用するまでにそれなりの時間が必要となります。そして最後は2030年までの運用期限があります。これがいまの事業に着目した背景です。

 加えてISS内で宇宙飛行士が取り組む実験作業はごくわずかです。基本的には実験装置から取り出した結果を冷凍庫に保管するとか、給水するとか、簡素な作業が大半です。十分、無人化可能な領域で、すでに完全自動化した実験もあります。

 われわれは小型の人工衛星内で宇宙実験や材料の製造といった利用を想定して、終了後は地球の海上から回収して、顧客に荷物を届けるサービスを予定しています。そのためにはISS用に開発した機器を使えることが重要です。

 ISS(の核)は2000年前後に作られたので、20年前の技術で運用されています。人間による操作を前提に設計されているので、ある程度の無人化で実験環境としても向上するだろうと思います。重要なのは利用者にとって使いやすいものに変えていくことだと考えています。

――市場はあるのでしょうか。

 日本はISSに年間200億~400億円ほど費やしていますが、前述の通り2030年に(ISS)はなくなり、利用者は行き場所を失ってしまうことになります。つまり、国内だけでも数百億円の市場が存在すると思っています。さらに宇宙輸送のハードルも年々下がっており、学術面でも利用頻度が増えています。

 ただ、安全基準が厳しく、宇宙で何かやりたいとしても3年程度のプロジェクトになってしまい、地球でビジネスを展開する企業から見ればリスクが大きいのも事実です。これらの課題を解決すれば、研究者に限らず民間企業まで広まると考えています。他にも利用機会の乏しいアジア諸国を踏まえると、大きな市場に成長する可能性があると感じています。

 宇宙で生活するためには建築物を構築するだけでは足りなく、宇宙空間で過ごせるのか、食料生産はどうすればいいのか、何も分かっていません。その意味では基礎的な研究を継続しなければいけません。国内でも「宇宙×美容」の活動が始まるなど取り組むべき未知の領域はたくさんあります。(この流れを加速させるためには)実験・研究、宇宙での実証が重要です。ここに可能性を感じて(ElevationSpaceの創業を)決断しました。

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