インタビュー
スペースデブリ除去から宇宙の持続可能性を見据えるアストロスケールの近未来
ELSA-dは、先のドッキングプレートを供えた模擬衛星を一緒に打ち上げ、捕獲テストを行うミッションです。デブリ回収に必要な技術を一通り実験できます。2021年3月に打ち上げ、8月には磁石を活用した模擬デブリの再捕獲に成功しました。
類似する技術が存在します。たとえば、ISSのドッキングポート。衛星同士が互いにコミュニケーションを取りながらドッキングする実験も成功しました。これらは「協力的接近」です。
デブリは制御できずコミュニケーションも取れないため、「非協力的接近」と呼んでいます。今回はドッキングプレートを使っているため、中間にあたる「準協力接近」でしょうか。無重力空間で物体に下手にぶつかってしまうと、その物体は飛んでいってしまいます。
ですが、ELSA-dは磁力を用いるためドッキングプレートを備えた模擬衛星が勝手に吸い寄せられていきます。この容易さの実現が合格ラインです。
宇宙を持続可能に
――ELSA-dの他にどんなことを実現しようとしているのでしょう。
現在、ELSA-dを含めて4つのプロジェクトが進行中です。
一つは「ADR(Active Debris Removal: 軌道上にある既存のデブリ除去)」。国内ではJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration:CRD2)」プロジェクトのフェーズ1に選定され、2022年度中の打ち上げを予定しています。ELSA-dの技術がベースになりました。
もう一つは「LEX(Life Extension:寿命延長措置)」。米国とイスラエルの子会社が取り組んでいる静止軌道衛星を対象にした寿命延長サービスです。燃料が枯渇して軌道を維持できなくなった衛星に対して軌道維持などを行います。
先ほど宇宙の交通インフラ作りと申し上げましたが、LEXのイメージは“レッカー車”です。自動車は購入後もメンテナンスやガソリン補給といった保守作業が発生するものの、衛星は保守工程が抜け落ちています。その部分を新たに作り出そうとしていると捉えてください。
そして最後が「SSA(Space Situational Awareness:宇宙状況把握)」。すでに民間企業が手掛けている市場ですが、われわれは接近運用技術を使用し、民間や公共機関へのデータ提供を想定しています。
実際に、デブリは地球を高速で周回すると同時に自転もしていますが、回転速度や衛星の具体的な破損状況は近づいてみないと分かりません。衛星の状況を詳細に把握したい、故障や破損した状況を撮影したい。このような需要にわれわれの技術が活用できます。
――ビジネスの着眼点が興味深いです。
私は2015年4月入社ですが、デブリ問題を認識しているのはごく一部の専門家や業界の人々のみで一般の認知度は低いです。ただ、小中学生の子どもたちのみならず、環境問題やビジネス分野の文脈で説明する機会も増えており、聞いてくださる方が大幅に増えました。
2021年は中国のロケットによる大気圏再突入(5月)や、デブリによるISSのロボットアーム損傷(6月)、ロシアの衛星破壊実験(11月)もありました。
2021年6月のG7サミット(主要7カ国首脳会議)で採択された共同宣言には「持続可能な宇宙活動に関する共通の基準、ベストプラクティスおよびガイドラインを作成することの重要性を認識する」の一文が加わったのは大きいです。
異業種から参入する宇宙人材
――アストロスケールの本社は日本ですが、英国、米国、イスラエル、シンガポールにも拠点があります。こうした形態は他の日本企業でも珍しいですが、どのような経緯で現在の形態に至ったのでしょうか。