インタビュー
スペースデブリ除去から宇宙の持続可能性を見据えるアストロスケールの近未来
アストロスケールは現在、宇宙ゴミ(スペースデブリ)除去技術実証 衛星「ELSA-d(エルサディー)」のミッションに挑戦している。人工衛星などから派生したデブリは、それぞれが独自の軌道で地球を周回しているが、宇宙では厄介な代物とされている。
SF小説の世界では昔から宇宙開発の課題として扱われてきたが、衛星の打ち上げが増加する現代ではリアルな問題だ。アストロスケール ゼネラルマネージャー 伊藤美樹氏に話を聞いた。
宇宙の交通インフラ作り
――アストロスケールはどのような企業でしょうか。
弊社は「将来の世代の利益のための安全で持続可能な宇宙開発」をビジョンに掲げて、デブリの回収などを含めた軌道上サービスに取り組んでいます。
現在の宇宙環境で問題になっているのがデブリです。これまで打ち上げた人工衛星やロケットが放置されていますが、民間企業の宇宙進出も加速的に進み、活動中の衛星にデブリが衝突するケースや、デブリ同士が衝突することでデブリが連鎖的に増加する「ケスラーシンドローム」が危惧されています。デブリの帯が自己増殖してからでは遅く、(宇宙の)持続利用が不可能になってしまいます。そのためデブリ対策に取り組んでいるのです。
その一環として取り組んでいるのが、宇宙の交通インフラ作りです。衛星は地球周辺、「決まった軌道=道路」を回っていますが、歩行者がいれば徐行するなど、制御可能なルール作りが欠かせません。アストロスケールは技術開発だけではなく、そういったルール作りにも貢献しています。地球上の自動車と同じ仕組みが(宇宙にも)必要なのです。
――一般人からすれば、宇宙は広いからデブリが多くても大丈夫なように感じられますが。
確かに宇宙は広いですが、衛星が周回する軌道は人気度が異なります。たとえば地球観測や通信、気象観測など用途や観測地点などによって地球低軌道、静止軌道の限られた範囲での高度などが決まるため、そのような意味では有限です。その軌道にデブリが散乱すると、稼働中の衛星と衝突するなど、軌道が使えなくなるリスクが生じます。
だからこそ、軌道も大事に扱わなければいけません。衛星は互いが衝突しないようにされていますが、衛星とデブリの衝突はすでに何度か発生しています。デブリは通信しておらず制御もできないので、物理慣習に従うしかありません。
ここ数年はニアミスも増加しています。観測者には衛星に何かが迫ってくればアラートが届き、われわれも情報を共有しています。2021年には、ISS(国際宇宙ステーション)がデブリ接近で避難していますし、ISSのロボットアームにデブリが貫通したと思われる痕跡が見つかる事故も起きています。
宇宙がデブリだらけになっても地球とは関係ないと思われがちですが、地球上の生活は衛星の観測データを使用していますし、GPS(全地球測位システム)を活用した位置情報、気象観測衛星での天気予報など多くの産業で使われています。証券取引所もGPSの時刻データを使っているため、衛星が使えなければ金融インフラが停止してしまいます。縁の下の力持ちのような存在です。
宇宙がデブリで満たされると新しい衛星も打ち上げられず、われわれの生活も維持できなくなるでしょう。
磁石で捕まえる「ELSA-d」
――「ELSA(End-of-Life Services by Astroscale)-d」は何を実現しようとしているのでしょうか。
運営を終了した衛星の処理を目的とした、デブリ回収技術のデモンストレーションです。「サービサー」と呼ばれるデブリを捕獲する衛星に磁石を用意していますが、一般の衛星自体は磁性を持つ材料を使っていません。そこで磁性体のドッキングプレートを衛星に取り付け、デブリを回収します。
車で例えると“牽引フック”のようなものです。今後打ち上げる衛星にドッキングプレートを取り付けておけば、利用終了時の回収も容易になります。そのため、既存の衛星ではなく、今後衛星を打ち上げる企業向けのサービスです。