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2025年の宇宙活動はどうなる?–民間の月探査に注目、日本は宇宙活動法を見直し(秋山文野)

2025.01.01 09:00

秋山文野

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 民間月探査が相次ぐ2025年は、日本と世界でどのような宇宙活動の計画が進むのだろうか。日本の宇宙政策の方向性や各国の宇宙探査などを展望する。

【日本の宇宙活動】

2025年に打ち上げ予定の宇宙機

 日本では2025年2月から国内衛星の打ち上げが始まる。まず、2月1日には準天頂衛星「みちびき」6号機がH3ロケット5号機で静止軌道へと打ち上げられ、準天頂衛星だけで日本周辺に測位信号を送ることができる7機体制の完成に向けた後半戦が始まる。2025年度中には5号機、7号機も打ち上げ予定だ。

 3月以降にはJAXAの大西卓哉宇宙飛行士がクルードラゴン10号機で国際宇宙ステーション(ISS)第72/73次長期滞在ミッションに出発。第73次長期滞在では、日本人宇宙飛行士として3人目となるコマンダー(船長)に就任する予定だ。NASAのニコル・エアーズ宇宙飛行士、アン・マクレイン宇宙飛行士、ロシアのキリル・ペスコフ宇宙飛行士が共に搭乗する。第73次ミッションでは、生命科学や材料、有人宇宙技術や超小型衛星放出、ISS内を飛び回るロボットカメラ「JEM船内可搬型ビデオカメラシステム実証2号機(Int-Ball2)」などの実験が予定されている。

2025年3月以降にISS船長として長期滞在予定の大西卓哉宇宙飛行士(編集部撮影)

 2025年度には、H-IIAロケットの最終号機となる50号機で「温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)」が打ち上げられる。温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT(いぶき)」「GOSAT-2(いぶき2号)」と水循環変動観測衛星「GCOM-W(しずく)」の機能を併せ持ち、世界の温室効果ガス排出をモニタリングする衛星だ。

「温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)」(出典:JAXA)

 このほか2025年度には、H3ロケットのLE-9エンジン3基、固体ロケットブースター(SRB-3)なしの構成である「H3ロケット 30形態」試験機の打ち上げが計画されている。“H-IIAの半額”とされる打ち上げ価格は、このH3 30形態で実現する構想だ。試験機のため衛星の質量を模擬したダミーマスを搭載する予定だが、民間企業による6機の超小型衛星が相乗り小型副衛星として搭載される予定だ。1段エンジンLE-9は試験機段階では現状のType 1Aを使用し、完成形の「Type 2」は引き続き開発を続ける。

出典:「H3ロケット30形態試験機の打ち上げ計画及び超小型衛星相乗りの実施について」より

 2024年12月に開発元の三菱電機で機体の一部が公開された新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」1号機が打ち上げられる予定だ。HTV-Xは9号機で運用を終了した「HTV(こうのとり)」の後継機。貨物を搭載する「与圧モジュール」、エンジンや電源などの機能を集約した「サービスモジュール」、船外実験装置を搭載する「曝露カーゴ搭載部」で構成され、HTVより大容量の78立方メートル、5.82トンの貨物を搭載できる。太陽電池パドルとエンジンを備え、ISSでの補給ミッション終了後には軌道上を飛行しながら超小型衛星の放出や宇宙機器の実証などを行うことができる。与圧モジュール部分はすでに種子島宇宙センターに搬入されており、今後は組み立てとカーゴ搭載が行われる予定だ。

HTV-X1号機サービスモジュール(撮影:小林伸)
出典:「宇宙基本計画工程表(令和6年度改訂)」より

2025年度から延期となった衛星・ロケット

 これまで2025年ごろに計画されていた宇宙機で時期調整中となったものは、12月のイプシロンSロケット2段再地上燃焼試験の失敗を受けて、イプシロンS実証機(ベトナム地球観測衛星「LOTUSAT-1」を搭載)、イプシロンS 2号機(革新的衛星技術実証4号機を搭載)、技術試験衛星9号機(ETS-9)など。こうした予定のスケジュール調整も2025年中に注視されるトピックだ。

水星探査機「BepiColombo」が最後のフライバイ

 JAXA宇宙科学研究所が開発した水星磁気圏探査機MMO(みお)とESA水星表面探査機(MPO)で構成される国際水星探査計画「ベピコロンボ(BepiColombo)」は、2025年1月8日に6回目で最後の水星フライバイを実施する計画だ。2018年10月に打ち上げられたベピコロンボは2025年12月の水星到着を目指して航行を続けていたが、電気推進モジュールの不具合により、2026年11月に水星到着となる軌道に変更を行った。MMO(みお)は新たな軌道でも計画通りに観測を行うことができ、史上3例目となる水星探査の実現に向けて航行の成果が期待される。

spacecraft: ESA/ATG medialab; Mercury: NASA/JPL
出典:ESA

【日本の宇宙輸送の今後】

基幹ロケットの方向性

 2024年度の議論で基幹ロケット「H3」の今後の方向性が示された。H3では、「ブロックアップグレード」と呼ばれる段階的な能力増強を3回実施し、2030年代にシームレスに「次期基幹ロケット」の開発につなげていく方向性だ。

 2025年度には最初の「アップグレード1」がスタートし、複数衛星の搭載機構を開発する。世界の衛星コンステレーションの打ち上げ需要を踏まえ、ライドシェア型のミッションにも対応してく計画だ。低コスト化、量産化、打ち上げ高頻度化を目指すアップグレード2、次期基幹ロケットに向けた能力強化となるアップグレード3の詳細に関する議論も宇宙技術戦略や宇宙戦略基金と同時に進められる。

宇宙政策の議論

 2024年に取りまとめられた宇宙技術戦略は、日本が今後獲得していくべき技術を列挙している。その内容は毎年見直し(ローリング)され、10年間で1兆円のJAXA基金である「宇宙戦略基金」で実施する技術開発テーマに反映されていく。2024年の第1弾プログラム実施に続いて、2025年3月までには第2弾に向けた議論が始まることとなる。

宇宙活動法の見直しと有人宇宙輸送

 宇宙輸送分野の技術の変化、プレーヤーの多様化などを踏まえ、2024年9月から内閣府の宇宙政策委員会下に「宇宙活動法の見直しに関する小委員会」が設置され、同法の見直しを進めている。

 宇宙往還機の帰還や再使用型ロケット、サブオービタル飛行など現行法では対応しきれない新たな宇宙輸送を過剰な規制に陥ることなく支援していく法のあり方が問われている。有人宇宙輸送を行うための制度検討も含まれ、2025年1月には「宇宙活動法の見直しの基本的方向性について(中間とりまとめ)」を議論する予定だ。

 2024年中には、基幹ロケットの方向性の議論と並行して民間による有人宇宙輸送の議論も始まった。大陸間を1〜2時間で移動する「二地点間高速輸送(P2P)」や宇宙旅行というマーケットを見据え、国内事業者の意見を踏まえて「宇宙技術戦略のローリングにおいて反映すべく、関係府省庁間で調整を進めていく」との方針が示された。宇宙技術戦略に有人宇宙輸送の実現に向けた技術開発の方向性を盛り込んでいくとみられる。

【世界の宇宙活動】

2025年に打ち上げが計画されている宇宙探査機

 2025年1月には、米国で相次いで民間月探査機が打ち上げられる。Falcon 9ロケットはNASAの月探査機「Lunar Trailblazer(ルナ・トレイルブレイザー)」と民間企業Intuitive MachinesのIM-2(Nova-C着陸機)を搭載して打ち上げ予定。IM-2は2024年頭に続いて2度目の月面着陸の挑戦となる。このNova-C着陸機には、日本の企業ダイモンが重量498g、2輪式の超小型ローバー「YAOKI」を搭載する計画だ。

 1月後半には、NASAのCLPSミッションが続く。Firefly Aerospace開発による「Blue Ghost(ブルー・ゴースト)」着陸機が月面GNSS受信機実験(LuGRE)などNASAの科学機器を10台搭載し、初の月面着陸ミッションに挑む。日本のispaceが開発した「RESILIENCE(レジリエンス)」着陸機も同じFalcon 9ロケットに相乗りとなる。同じロケットで民間企業による2機の月面着陸機が同時に打ち上げられるのは史上初となる。ブルー・ゴーストは45日で月面に到達、レジリエンスは航行でのエネルギー消費が少ない軌道を利用するため、4~5カ月後に月面着陸を行うという。

2024年9月に報道公開されたispaceの「RESILIENCE」着陸機(編集部撮影)

 3月1日にはインドが開発中の有人宇宙船「Gaganyaan(ガガニャーンまたはガガンヤーン)」の無人飛行試験を実施するとみられる。ガガニャーンは2026年に有人飛行を目指すインド独自の有人宇宙船で、クルーモジュール(CM)とサービスモジュール(SM)で構成され、3名が登場し7日間地球周回飛行が可能になる計画。無人飛行試験では、高度400kmの地球低軌道を飛行し、海上に着水する計画だ。

 5月には中国が初の小惑星サンプルリターンミッション「天問2号(Tianwen-2)」打ち上げを計画している。地球近傍小惑星「469219(カモオアレワ)」へ2026年にランデブーして表面の物質の採取に挑戦し、小惑星ミッションの後に2034年にはメインベルト彗星「311P/パンスターズ」のフライバイ探査を行う計画だ。

 夏以降にはボーイングが開発を進める有人宇宙船「Starliner(CST-100)」の運用最初のミッションである「Starliner-1」が予定されている。2024年夏の有人飛行試験が完了できなかった事態を受けて、運用開始までのマイルストーン達成のプロセスが注目される。

出典:NASA

宇宙船「Starship」開発の進展

 年明けすぐにはSpaceXの宇宙船「Starship/Super Heavy」の7回目となる飛行試験が予定されている。2024年11月に世界を驚かせた1段Super Heavyの発射棟回収に続き、2025年には2段Starshipも発射棟への帰還に向けて開発を進める。またStarshipの軌道上での能力を高め、アルテミス計画の月面着陸機「HLS」実現に向けて必須と軌道上でのStarship間での推進剤補給実証も2025年中に実施されると見られる。

米国でNASA長官が交代

 1月には米国でドナルド・トランプ氏が大統領に就任し、トランプ氏が指名した実業家のジャレッド・アイザックマン氏がNASA長官に就任する予定だ。アイザックマン氏は、天文学の分野で老朽化が進むチャンドラX線望遠鏡について支持を表明しており、予算削減に手を打つといった方針に言及している。開発費が膨らむSLSロケットのマネジメントや宇宙探査の推進など就任後の動向が注目される。

2024年9月、SpaceXのクルードラゴン「レジリエンス」号で民間初の船外活動ミッションを実施した実業家で次期NASA長官のジャレッド・アイザックマン氏(出典:Polaris Dawn)

宇宙の持続性

 衛星コンステレーションの打ち上げが増加する中で、2025年以降も引き続き軌道上の安全と持続性が注目される。2025年9月29日から10月3日までオーストラリアのシドニーで開催される国際宇宙航行連盟(IAF)の第76回「国際宇宙会議(IAC)」では、「Sustainable Space : Resilient Earth」がテーマとなっている。

 宇宙ゴミの管理や宇宙交通の調整だけでなく、ロケット打ち上げや宇宙機の再突入による環境への影響など、宇宙活動の長期的な安定性と安全性を確保する課題にも対応していく。日本の宇宙活動法の見直しにもこうした流れに対応する考え方が盛り込まれる方向性だ。

(2024年の宇宙活動を振り返る【日本編】【世界編】)

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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