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北九州市に「リアルスペースワールド」を作る–宇宙産業を牽引する3つの強みとは
2024.09.05 09:00
福岡県の北九州市にあったテーマパーク「スペースワールド」をご存知だろうか。宇宙をコンセプトにしたさまざまなアトラクションが楽しめるテーマパークで、スペースシャトル「ディスカバリー号」の実物大模型(全長約60メートル)がシンボルだった。1990年から約27年にわたり運営していたが、時代の変化もあり2017年に惜しまれつつ閉園した。
それから7年、北九州市は市全体を宇宙の街に変えようとしている。8月22日に北九州市で開催されたカンファレンス「九州宇宙ビジネスキャラバン2024」で登壇した北九州市長の武内和久氏は、「北九州市は“リアルスペースワールド”を目指す」と力強く宣言した。
北九州市が宇宙産業を牽引できる「3つの強み」
北九州市には、宇宙産業を牽引できる要素が大きく3つあると武内市長は説明する。
1つ目が、ものづくり企業やIT企業、スタートアップなどが数多く存在する「産業の集積地」であること。同市は官営八幡製鉄所の誕生の地としても知られているが、現在も日本製鉄、トヨタ自動車、日産自動車、TOTOなど、世界を代表するメーカーが拠点を設けている。また、LINEヤフーやGMOインターネットグループ、日本IBMなどのIT企業もオフィスを構える。さらに、帝国データバンクによれば、2023年度のスタートアップ企業出現率で北九州市は全国1位に輝いたという。
2つ目が、豊富な「研究機関と人材」を抱えていること。北九州市にある九州工業大学は、大学として運用する小型・超小型衛星数が7年連続で世界1位となった。また、北九州市立大学や早稲田大学、西日本工業大学など、14校で約3000人の理工系人材を毎年輩出しているという。
3つ目が、「宇宙好きの市民カルチャー」。前述したように、北九州市では27年間にわたって宇宙テーマパークであるスペースワールドが地元民に親しまれてきた。そのスペースワールドの跡地には、日本最大級のプラネタリウムを備える「スペースLABO」(北九州市科学館)が2022年にオープン。さらに「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道999」などの宇宙大作で知られる漫画家・松本零士氏が、子ども時代を過ごした地でもある。
リアルスペースワールド実現に向けた支援策
北九州市では、リアルスペースワールドを実現すべく、(1)スタートアップや人材創出の拠点化、(2)宇宙関連機器の開発製造の拠点化、(3)産業・文化拠点都市化、という大きく3つのステップを踏みながら、2030年代には宇宙関連ビジネスを1000億円規模まで伸ばしたい考えだ。
そのためにまず注力するのが、宇宙産業振興の基盤づくり。宇宙産業に関心はあるものの何から手をつけたらいいのか分からない企業のために、会員組織「北九州宇宙ビジネスネットワーク」を2023年11月に立ち上げた。2024年8月時点で、ものづくり企業や金融企業など64社が加盟しているという。
現在は、宇宙ビジネスの知識や技術についての理解を深める勉強会や、企業マッチングにつなげる交流会などを定期的に開催。2024年3月に開催した北九州市発の大規模スタートアップイベント「WORK AND ROLE 2024」では、宇宙飛行士の野口聡一氏や毛利衛氏を招いた宇宙トークセッションも設けた。今後も組織趣旨に賛同する、北九州市内外の企業、大学、研究機関などを巻き込んでいきたいと、北九州市 宇宙産業推進室長の森永健一氏は話す。
すでに宇宙ビジネスに取り組んでいる企業向けの開発支援もしている。「衛星データ・宇宙機器」への技術開発補助金として、最大500万円を補助(補助率:大学等は100%、中小企業は3分の2、中小企業以外は2分の1)しており、2023年度は4件、2024年度は5件を採択したという。
北九州市で宇宙に挑む「ものづくり事例」
市内には宇宙ビジネスに取り組む老舗ものづくり企業もある。黒崎播磨は、1919年創業の耐火物やファインセラミックス製造を得意とする企業で、超低熱膨張素材「NEXCERA」を使った光学衛星用反射鏡の実用化を目指している。また、1948年創業の戸畑製作所は、難燃性マグネシウム合金を人工衛星の部品などに転用しようと考えているという。
大学発ベンチャーの登場も期待されている。たとえば、東京大学からは水エンジンを開発したPale Blueや、人工衛星ベンチャーのアークエッジ・スペースなどが生まれている。また、東北大学発ベンチャーで宇宙実験プラットフォームを開発するElevationSpaceなどもある。この流れに乗り、人工衛星の開発実績が豊富な九州工業大学などからも大学発ベンチャーを生み出したいと森永氏は展望を語った。