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海外企業と提携して宇宙ビジネス拡大図る日本企業の狙い

2022.08.10 08:00

阿久津良和

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 その経緯について丸紅の高尾氏は「インターステラテクノロジズへの出資も同様だが、今後爆発的に増加するであろう、小型衛星の打ち上げ事業を取り込みたかった。D-OrbitのCCO(最高商務責任者)とは、丸紅エアロスペースを通じて何十年もの付き合いがあり、提携に至っている。また、輸送だけではなく軌道上のサービスも視野に含めているが、最大の米国市場に関わるのが、Phase Fourと提携した狙いの一つ。両社に共通しているのは日本市場に高いポテンシャルを感じている」と協業が各企業の収益向上につながると述べた。

プロジェクトチームが必要–インフォステラ、ANA

 提携後の共同作業や提携終結時に心掛ける点は何か。

 インフォステラ 倉原氏「多くの提携を結んできたが、衛星運用機器や地上局サービスを提供する上で他企業の知見やノウハウ、あるいは業界の標準的なサービスレベルを学べるいい機会だと捉えた。ただ、小規模な企業がプロジェクトを立ち上げても、大企業とのプロジェクト推進はチームに負荷がかかってしまう。(過去の提携が)チャンスだったことは間違いないが、プロジェクトを推進するための準備、計画が必要だ」

 ANA 鬼塚氏「海外企業と向き合う際は知識の差などギャップが生じ、簡単には埋めがたい。相手の信頼を得るだけどパフォーマンスを発揮するのが大前提。また、私の部隊だけではリソースが足りないため、倉原氏の発言通り、プロジェクトチームが必要。グループの商社部門である全日空商事のメンバーを配置し、彼らが代理店営業的役割を担って市場に対応している」

ANAホールディングス グループ経営戦略室 事業管理部宇宙事業チーム リーダー 鬼塚慎一郎氏
ANAホールディングス グループ経営戦略室 事業管理部宇宙事業チーム リーダー 鬼塚慎一郎氏

 丸紅 高尾氏「締結後が重要。弊社が出資させていただいているのはスタートアップ企業が多く、出向者など人材受け入れも非常にポジティブ。人材交流は大事だ。ただ、弊社側から見ると限られたリソース内でスタートアップ企業へ人を出すのは、経営層の説得を含めて非常に難しく、大きな課題の一つ。出資後、提携後のモニタリングも大事だが、株主やパートナーという関係では見えてこないものも多い。現場に人を送り、共同で作業してこそ果実を得られる」

低軌道衛星市場への期待を肌で感じた–三菱重工

 提携することによる人的・文化的利点はどんなところにあるのか。

 三菱重工 宮嶋氏「三点ある。一つは低軌道衛星市場への期待を肌で感じられた。もう一つはユーザー側のニーズを知れたこと。『今』ではなく『今後』必要になる技術を弊社でも検討できた。詳細は語れないが“ポストISS(国際宇宙ステーション)”時代を迎える中で、弊社としても市場に参画したく、Sierra Spaceとの提携に至っている。最後は社内の変化。低軌道衛星のビジネスチャンスが芽吹いたことに対する期待感や高揚感が醸成された」

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