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宇宙ゴミを三次元画像で可視化–Apple共同創業者が設立したPrivateer社の取り組みとは

2022.08.05 14:00

日沼諭史

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 2022年7月19~21日の3日間、リアルとオンラインのハイブリッドで開催されたカンファレンス「SPACETIDE 2022」にPrivateerのCEO、Alex Fielding氏が登壇。宇宙ゴミを追跡し、回避できるようにすることの重要性を訴えるとともに、既存サービス「Wayfinder」と新たにリリースするサービスについて詳細に解説した。

地球の周囲を飛び交う宇宙ゴミがひと目でわかる「Wayfinder」

Privateer CEO Alex Fielding氏

 PrivateerはAppleの共同創業者Steve Wozniak氏が設立した企業。「人類が宇宙を安全に利用できるようにすること」を目的に、地球を取り巻くように存在している人工衛星や宇宙ゴミなどの追跡を行っている。

 秒速数kmものスピードで地球を周回している宇宙ゴミが、他の正常な人工衛星や宇宙船、船外活動中の宇宙飛行士にぶつかればただ事では済まない。宇宙活用を進めるにあたっては、そうした危険性を常に把握し回避できるようなシステムが必要で、同社はその役割の一端を担うサービス「Wayfinder」を提供している。

Wayfinder

 Wayfinderは誰でも利用でき、地球周回軌道にある物体のリアルタイムに近い位置情報をグラフィカルに表現できる。ウェブブラウザーでアクセスすると、色が付いた無数のドットが地球を覆うように表示されていることがわかる。オレンジが活動中の人工衛星、水色は役目を終えた人工衛星、それ以外の紫・ピンク・グレーはロケットの残骸などの宇宙ゴミを表している。

 デフォルトで表示されているのはオレンジ、水色、ピンクのみ。それでも想像以上に多くの物体が地球の周囲にあることに気付かされるが、画面左上の「Show Filter」から「Show debris/rocket bodies」をオンにすることで紫やグレーの物体も現れ、さらに膨大な量の宇宙ゴミが漂っていることがわかる。Fielding氏によれば、現在Wayfinderでは直径10cm以上の約3万個の物体を追跡しているという。

地表に近いところだけでなく、地球からある程度離れたところで周回している物体も追跡の対象
デフォルトでは一部の物体のみが表示されている
「Show debris/rocket bodies」をオンにすると、さらに多くの宇宙ゴミが表示される

 ただし、表示している全ての物体が確実にそこに存在していることを保証するものではない。Wayfinderはアメリカ宇宙コマンドのような公的機関や、衛星の所有者などが提供している11のデータソースをもとに物体の位置情報を推測して表示しており、1つの物体についての情報がデータソースによってわずかに異なっているケースもある。ごくわずかなデータ上の差でも位置情報としては100km単位で異なる場合があるため、危険性をより精度高く把握するにはまだ課題があるという状況だ。

1つの物体について複数のデータソースからの情報がある場合、位置情報に誤差があることも

宇宙船に近づく物体とその危険性を詳細に把握可能にする新サービス

Privateerが間もなくリリースするという新サービスの画面

 そのため同社は、開発中の新たなサービスを間もなくリリースする。新しいサービスでは、今後20分以内に特定の宇宙船などに対して10km以内に近づく可能性がある他の物体を把握できるようにする。横軸が時間、縦軸が距離のグラフで、横軸上にある緑色のドットが宇宙船を表し、その上にすだれのように他の宇宙船や人工衛星、宇宙ゴミなどをプロットしている。

 横軸上の宇宙船に近いドットほど距離が近いことを意味するため、その分衝突の危険性も高いことがわかる。接近しているこれらの物体情報は地図上にプロットしたり、先ほどのWayfinderと同様の三次元グラフィックで表示したりすることもできる。

接近している物体の位置を地図にプロット
三次元グラフィックで表現することも可能

 こうした情報をもとにすることで、「誰がどう対処するかというコンセンサスのとり方」に課題はまだ残されているにせよ、衝突のリスクがある場合に最も安全に回避する方法を模索し、対処を自動化することが可能になる。Fielding氏は、Wayfinderやこれからリリースする新サービスについて「ビジネス化するべきではない」と考えており、事業者や一般ユーザー向けに無料で提供していく方針だという。今後はAmazonなどからもデータソースを取得し、さらなる情報の拡充が図られていくとしている。

リーズナブルな料金で人工衛星のカメラ、センサーを使えるサービス

 Privateerはさらにもう1つの「チャレンジ」をしているとFielding氏は話す。それは、既存の人工衛星がもつカメラやレーダー、センサーなどを、世界中の開発者がリーズナブルな料金で活用できるようにする「宇宙のアクセス性」を高める取り組みだ。

 同社では人工衛星を所有するパートナー事業者の協力のもと、あるいは独自の人工衛星「Pono」を通じて、そのような機能を解放するサービスを提供している。「ハワイの言葉で“正しい行い”という意味」であるPonoは、「宇宙企業と、軌道上でIaaS(Infrastructure as a Service)を提供している企業とを橋渡しする」ものだという。宇宙を活用した計算処理、データ保管、地上ネットワークのリレーなどによって、画期的なアプリケーションの構築が可能になると同社では考えている。

 「(個々の企業が)サービス開発のために独自に人工衛星を製造し、打ち上げ、運用するようなコストをかける必要はない。IaaSに接続し、宇宙や地球全体を観測できるセンサーが、非常に安価もしくは手頃な料金で可能になる。これは従来の宇宙コミュニティーにおいて実現できていなかったこと」とFielding氏は胸を張る。いずれはAPIを通じた人工衛星へのアクセスも可能になる見込みで、「宇宙に行くことなく宇宙にアクセスしたいと渇望している2600万人のエンタープライズエンジニア」を満足させることになるだろうと語った。

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