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ビジネス創出から災害対策まで–役割が急拡大するJAXAが語る2030年までの展望

2022.08.03 08:30

日沼諭史

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 2022年7月19~21日の3日間、リアルとオンラインのハイブリッドで開催されたカンファレンス「SPACETIDE 2022」。すでに具体的なビジネスが生まれ、発展し始めている宇宙産業領域、その今を伝える国内外のキーパーソンによるセッションが目白押しのイベントだ。

 2日目は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長の山川宏氏が登壇。「JAXA’s Vision towards 2030」(2030年を見据えたJAXAの展望)と題して、JAXAのこれまでの活動と、最新の取り組み、そして将来に向けた活動計画について紹介した。

本格化する衛星データ利用と、オープンイノベーションによる開発

 日本の宇宙技術の最先端を走る政府系宇宙機関として知られるJAXA。今やその活動は日本国内に止まらず、世界60の国と地域の組織とパートナーシップを締結し、さまざまなコラボレーションにもつなげていると山川氏は語る。コラボレーションは国際宇宙ステーション(ISS)における活動はもちろんのこと、JAXAが現在運用している6つの観測衛星によるデータの利用にも及んでいる。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長 山川宏氏

 たとえば地球規模の気候変動の観測、自然災害対策などに向け、降水量や水循環、温室効果ガスや森林などの衛星観測データを収集し、日本や世界に向けて提供している。日本国内では2021年までに69の地方自治体と協業し、たとえば佐賀県とは防災を目的とした衛星データ利用のアプリケーション開発で協力、福井県とは航空機の安全運航を目的とした気象モニタリングの仕組みにおいて協力しているという。

世界60の国・地域の組織とパートナーシップを締結


気候変動や災害対策に向けた衛星観測データの提供を行っている


国内では2021年までに69の地方自治体と協業している

 その一方で、宇宙開発の土台となるロケットの研究開発も続けている。現在はH-IIA、H-IIBなどに続く次世代のH3を開発中で、種子島宇宙センターや秋田県にある実験場において外装やエンジンなど各部のテストが進んでいる。

さらにH3の運用を開始するタイミングに合わせ、オープンイノベーションも含めた研究開発を推進し、新たな宇宙産業の創出も狙っている。これは低コストで宇宙空間に到達する技術を用い、宇宙空間を利用した輸送システムを実現するといった宇宙産業の拡大にフォーカスを当てたものだ。

種子島宇宙センターなどでH3の各部のテストが行われている


宇宙空間を利用した輸送システムのプロジェクト

 また、「RAISE-3」と呼ばれる小型実証衛星3号機による新たな宇宙空間および衛星利用の取り組みもスタートしている。これは、公募によって選定されたセンサー、コンポーネントの他、9機の超小型衛星などから構成される人工衛星で、それらを活用した多数の実証実験を地球周回軌道上で行うものとなる。

RAISE-3は多数のセンサーなどを搭載し、企業による実証実験の場となる

 さらには日本政府主導のトップダウン型のプロジェクトとして、「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」も進行している。このプロジェクトでは将来的なユーザーのニーズ先取りするため、短い期間で改善を繰り返していくアジャイル開発の手法や、フレキシブルな運用を可能にする「ソフトウェア定義衛星」など、新しい考え方を取り入れて小型および超小型衛星の開発と実証を進めている。

 反対にボトムアップ型のプロジェクトとしては、「宇宙探査イノベーションハブ」がある。ロボット、過酷環境下の居住システム、各種センサー、固体電池、遠隔操作技術など、地上における先端技術を活用するなどして宇宙産業と非宇宙産業の融合を図り、イノベーションを起こすのが目的だという。

「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」ではアジャイル開発が鍵の1つ


「宇宙探査イノベーションハブ」における地上技術の例

成果が目前に迫るビジネス共創プログラム「J-SPARC」

 他にもJAXAでは多くの取り組みを展開しているが、なかでも2018年にスタートした宇宙産業のイノベーションに向けたビジネス共創プログラム「J-SPARC」(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)は、注力している活動の1つだ。

ビジネス共創プログラム「J-SPARC」の概要

 「J-SPARC」は、パートナー企業とともに新たな宇宙ビジネスの創出と将来の宇宙ミッションに資する技術と情報の獲得を狙ったもので、今年から順次成果が現れ始めてくると山川氏は語る。すでに進んでいる代表的なプロジェクトとしては、遠隔操作アバターを開発するavatarin社の技術を用いた「遠隔宇宙旅行事業」「遠隔宇宙飛行士作業支援事業」「宇宙関連遠隔体験事業」や、GITAIのロボット技術を用いた宇宙空間での無人作業の実現および新規サービスの創出、といったものがある。

 他に、米航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)など国際パートナーとの月面探査プロジェクト、あるいは火星や火星の衛星の探査計画も進行中とのこと。宇宙ゴミ(スペースデブリ)の除去を実証するためのプロジェクト「CRD2」(Commercial Removal of Debris Demonstration)もあり、2025年には実際に除去作業を開始する計画だという。

「サステナブルな探査」もキーワードとなっている月面探査プロジェクト


宇宙ゴミを地表に落下させることで除去する「CRD2」というプロジェクトも

 最後に山川氏は、「JAXAは研究開発機関だが、それと同時に宇宙産業も支援する立場にある」と述べるとともに、その宇宙産業の拡大には「(既存の)宇宙産業の企業だけでなく、非宇宙産業の企業の協力も不可欠」と述べ、イベント参加者に向けて積極的な宇宙ビジネスへの参画を呼びかけた。

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