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メガコンステレーション時代に拡大するデブリのリスクに挑むスカパーJSAT「レーザーアブレーション」の勘所

2022.06.14 08:00

田中好伸(編集部)加山恵美

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 デブリ問題が深刻化するにつれ、運用終了後の廃棄率を高めること、積極的にデブリを除去することが求められている。

 前者では、例えば導電性のデザー(ひも)などを搭載した衛星であれば、運用終了後に、電流をかけることでローレンツ力を生じさせてブレーキをかける。速度が落ちれば高度が下がるため、後は大気圏に突入させて除去できる。

 後者では、色々な方針が考えられている。主に考えられているのは何かの方法で捕獲する方法だ。何かに引っ掛けるのか、モリのようなものを打ち込むのか。ロボットアームなどを使うにしても、大きな太陽電池パドルがついた衛星は複雑な回転運動をするため捕獲が難しく、まずは軌道上に残るロケット上段機体をターゲットに研究が進められている。

レーザーで軌道や回転を制御

 スカパーJSATもデブリ除去に動いている。中心となるのはスカパーJSAT デブリ除去プロジェクト プロジェクトリーダー 福島忠徳氏。もともとデブリの課題は認識しており、あるときレーザーの論文を見て「衛星を移動させるのにレーザーが使えるのでは?」と思いついたという。現在では2026年のサービスインを目指し、理化学研究所と共同で準備を進めている。

 デブリ除去用の衛星から「レーザーをあてる」といっても、SFアクション映画のように破壊するわけではない(そんなことをしたらデブリが増えてしまう)。レーザーを照射することで、「レーザーアブレーション」と呼ばれる現象を利用する。

 一般的にレーザーアブレーションは微細加工や元素分析などに使われるが、ここではレーザー照射で生じる物質のプラズマ化や気化で推力を得る。

レーザーアブレーションで回転を止められる(出典:スカパーJSAT)
レーザーアブレーションで回転を止められる(出典:スカパーJSAT)

 実際に照射するレーザーは微弱で、パルス照射するのが特徴だ。レーザー方式の利点はいくつかある。何よりも高い安全性がある。物理的な接触なしで、デブリを軌道から移動させることができるからだ。

 またレーザー照射する部位やタイミング次第では物体の回転を止めることも可能だ。例えば「捕獲する必要があるが、複雑に回転していて難しい」場合には良さそうだ。回転の方向やデブリの形状を見て、適切な部位に照射すれば回転をコントロールできる。

 経済性もいい。「レーザーで移動させたいデブリの外壁をアブレーションさせることで推力を得る」(福島氏)ため、デブリを移動させるための燃料をサービス衛星で搭載する必要がない。デブリに何かを取り付ける必要もない。

 捕獲する場合の、捕獲に出動した衛星とデブリが一体となり移動することと比較すると、レーザー衛星だけの移動であれば経済性は高い。

 現時点での実現可能性を見ると、「約150kgの小型の物体であれば、1日ぐらいレーザーをあてることで回転を止められる」(福島氏)という。標的となるデブリの重量次第だが、150kgであれば、10km程度の高度変更を数週間で実施可能と説明する。大きな軌道変更(1200km→600km)だとしても、理想的には2年程度で目的を達成できるとされる。「対象のデブリが8トンという大型でも、3カ月という時間で回転を止められる」(福島氏)

スカパーJSAT デブリ除去プロジェクト プロジェクトリーダー 福島忠徳氏(理化学研究所 衛星姿勢軌道制御用レーザー開発研究チーム チームリーダーを兼務)
スカパーJSAT デブリ除去プロジェクト プロジェクトリーダー 福島忠徳氏(理化学研究所 衛星姿勢軌道制御用レーザー開発研究チーム チームリーダーを兼務)

 今後は衛星の活用がますます広がっていく。万が一衝突事故を起こしたら、デブリがデブリを生む「ケスラーシンドローム」にもなりかねない。デブリを生むよりも早くデブリを除去する必要がある。宇宙環境の持続可能性という視点で考えると、メガコンステレーション時代になって、デブリは今まで以上に対処すべき大きな課題と表現できる。

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