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メガコンステレーション時代に拡大するデブリのリスクに挑むスカパーJSAT「レーザーアブレーション」の勘所
宇宙の渋滞が深刻化している。現在、軌道上で運用中の衛星が約5400。それ以外の宇宙ゴミ(スペースデブリ)も相当ある。軌道が判明している(地上から追跡できる)デブリは約3万個。デブリの大きさ別に見ると、10cm以上は約3万6500個、1~10cmでは約100万個、1mm~1cmだと約1億3000万個と言われている。
これだけでも、宇宙の渋滞は深刻なものと言えるが、今後を見通すと、さらに深刻の度合いは強まる。地球表面からの高度2000km以下の地球低軌道(LEO)を周回する衛星が爆発的に増加することが確実となっている。「メガコンステレーション」と呼ばれる衛星群の構築が始まっているからだ。
多数の衛星を協調して動作させる運用方式である“コンステレーション”は通信衛星では当たり前となっているが、インターネット通信のOneWebで6000機以上、Space Exploration Technologies(SpaceX)で4万2000機以上、Telesatで300機以上、Amazonで3000機以上もの衛星が今後運用される。その総数は5万機以上になる。これがメガコンステレーションである。
1957年から2021年4月までに宇宙空間に打ち上げられた物体は1万1017だが、今後10年間で打ち上げられる衛星は過去60年で打ち上げられた衛星を大きく上回ることになる。特に通信衛星が周回するLEOでは、急速に混雑することが明らかだ。
衝突のリスクは年々高まっており、デブリ除去は大きな課題となっている。そうしたなかスカパーJSATがレーザー照射でデブリを除去できるように準備を進めている。
デブリ衝突はすでに起きている
現状では日本の衛星は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と米軍の統合軍である米宇宙コマンド(United States Space Command:USSPACECOM)に所属する統合宇宙作戦統制センター(Combined Space Operations Center:CSpOC、旧JSpOC)で相互に情報提供しながら監視している(2013年に日米協力の取り決めが締結された)。
CSpOCの方がより小さなデブリを観測できるため、日本の衛星に何らかのデブリが衝突するリスクが高まれば、CSpOCから警報を受け取ることもある。現状では観測できるデブリは10cm以上だが、今後は観測精度が高まり数センチのデブリも発見できる見込み。
先に触れたようにデブリは大小いろいろある。運用終了または故障で使われていない衛星、使用済みロケット(上段)、放出した部品もある。2007年に中国が実施した衛星破壊実験、2009年に起きた衛星の衝突事故で急速にデブリが増えた。2021年にはロシアが衛星破壊実験を行い、問題となった。今では近距離ですれ違うデブリが増え、デブリ衝突のリスクはいつでも起きうるものであり、無視できない存在となっている。
運用終了した衛星は軌道から外れるのが望ましい。国際機関間スペースデブリ調整委員会(Inter-Agency Space Committee:IADC)は、低軌道の衛星なら、運用終了から25年以内に大気圏へ突入する設計とすることをガイドラインに定めている。しかし、罰則がないガイドラインであることや、突然の故障などもあり、守られていないケースも多くあるのが実状だ。このままでは年々デブリが増加してリスクがますます高まる懸念がある。
ある研究によれば、コンステレーションを考慮した宇宙環境では、10cm以上のデブリが590%増え、大規模衝突が約200年で累計で582回に増えるとも予想されている。
万が一衝突したら小さなデブリでもかなりの破壊力がある。宇宙空間ではデブリは高速で移動している。秒速約7.5kmなので時速2万7000kmほど。数ミリのデブリならボーリング玉が時速100kmで衝突するのに近いほどのエネルギーを持つ。当たり所が悪ければ、数ミリのデブリでも衛星ミッションを終了させる可能性があるのだ。
実際2021年には、小さなデブリが国際宇宙ステーション(ISS)のロボットアームに衝突して数ミリの穴が空く被害が起きた。また過去には衛星の電力低下や軌道変化が起きており、デブリとの衝突が疑われている。