特集

「衛星データ」ビジネスは投資フェーズから成長フェーズへ–認知と事例の拡大が展開の鍵に

2022.07.05 13:00

藤川理絵

facebook X(旧Twitter) line
1 2

天地人の衛星データ利活用事例

 JAXA スタートアップの天地人は、内閣府主催の宇宙ビジネスコンテストでのトリプル受賞をきっかけに、2019年5月に会社を設立した。櫻庭氏は、「地球から宇宙を見るのではなく、宇宙から地球の環境を見てどう生かすかに焦点を当てて事業をしており、人類の文明を最適化するというミッションを掲げている」と話した。

 課題意識を向けているのは、「気候変動」だ。「異常気象の発生率も増えているし、農業では栽培適地がどんどん北上して、従来のように作物を作ることが難しくなってきている」(櫻庭氏)。

 これと連動して、「経済リスク」にも変化が生じているという。「企業価値の基準が変わっていくという点は非常に重要であり、企業も関心を寄せているところだと思う」(櫻庭氏)

 このように、さまざまなトレンドキーワードが飛び交うなか、天地人は衛星データを使って、未来を共に創るソリューションを提供していくことを目指すという。

 「衛星の数は、ここ10年以内で8〜10倍増えると言われている。この衛星データを活用してビジネスにどう活かすのかは、これからチャンスが大きい分野だと考えている」(櫻庭氏)

 このようななか、天地人が得意とするのは気象系の衛星データだ。ピンポイントの地表の温度、降水量、そこにSARや光学などの衛星から取得できるデータや、地上のデータなどを掛け合わせて分析している。

 「事業に影響する気象データは多い。なかでも天気や気温は非常に重要なパラメーターだが、実際の使い方が分からない、専門人材がいないということが、障壁になっている」と櫻庭氏は話した。

 そこで天地人では、専門人材がいなくても、複雑な知識がなくても使えるソリューション「天地人コンパス」を開発して、いまは特定の企業などから提供を広げているという。

 「天地人の名前の由来は、天は宇宙のデータ、地は地上のデータ、人は人のノウハウ。複数のデータをかけ合わせて、実際に専門の方が分析して、それをビジネスにどう生かすかまで、1つの企業が社内で行うのはとても難しいと思うが、我々はそれを1つのソリューションとして提供している」(櫻庭氏)

 すでに農業系、エネルギー系、インフラ系などの20社以上が導入した。適地探し、効率化、気候変動に体操した栽培方法の確立など、さまざまな企業と連携しているほか、最近では豊田市での漏水可能性区域の検知の実証実験にも参画しているという。

 さらにグローバルにも展開しており、サービス提供開始時から売上は約6倍以上に、分析エリアも3大陸14カ国以上に拡大した。

 櫻庭氏は、「実際に衛星データをどうやって使うのか、という問合せもかなり多い。天地人は、活用方法についてもサポートしながら、サービスの提供まで共創していけたらと思っている」と話して事例紹介を終えた。

「認知と事例の拡大」が、衛星データビジネス普及の鍵に

 最後に、永崎氏、柳原氏、櫻庭氏によるパネルディスカッションが行われた。「衛星データビジネスが成立する要諦」を、永崎氏が中心となり多面的に掘り下げた。

 まず永崎氏が、「ビジネスとしてはどう成り立っているのか」と両者に話を振ると、柳原氏は「我々はまだ投資フェーズ。事例を発信するために、投資として手がけた事例も多い。最初の2〜3年は、AI解析とコンサルティングという本丸の事業があるからこそやれていたが、ようやく宇宙の解析事業で会社が成り立つフェーズに入ってきたと思う」と話した。

 櫻庭氏も、「うちも投資している部分が大きい。というのも、やるなら世界を目指して、スケールのスピードを速くしたいと思っている。どんどん投資して、業界としての認知が広がれば、活用事例も増えていくと考えている」と話した。

 これを受けて永崎氏は、「私は宇宙における総合商社ということで、衛星を打ち上げるサービスなど、ハードウェア寄りのビジネスにいるが、よく儲かるのかと聞かれる。現状ではハードの領域でも黒字化しているという話はあまり聞かない。衛星データビジネスの大半が官需という話もあったが、利益化している会社はあるのか」と尋ねた。

 柳原氏は、「官需向けに衛星解析やシステムを手がける方たちは山ほどいる。彼らは収益のある事業として成り立つからこそ、何十年とできているのだと思う。ただ、衛星画像を販売することが収益源のため、解析という付加価値だけを取り出した場合に、収益化できるのか?という点ではまだまだチャレンジが多いと見ている」と答えた。

 永崎氏は、「コストにマージンを乗せて国に買ってもらうという構造は、衛星やロケットなどのハードウェアでも同じような面がある。国がやりたいことに対して納入し、収益化することだと理解している」とした上で、櫻庭氏に「競合はどこか」と別の角度から質問すると、櫻庭氏は「Ridge-iと同じく、Orbital Insightは一番有名だし、成功事例としてよく参考にしている」と回答した。

 また永崎氏は、「ビジネスとして成立させるに当たって、足りないピースだと感じる課題には、どのようなものがあるか」と両者に聞いた。実は柳原氏と櫻庭氏は飲んだりする仲だということで、普段からこうした議論を共有していたようだ。

 「民需のマーケットでは、払った対価に相応するベネフィットが常に感じられるような利用事例が定まっていないことが課題。我々は活動として、“刺さる事例”を頻度高く発信することを大事にしており、法人の方々とも対話をしている」(柳原氏)

 「私も事例が少ないことと、認知が低いということが課題だと捉えている。認知と事例をどんどん作っていくことが大切だと考えている」(櫻庭氏)。

 二人の回答を受けて、永崎氏は下記のように答えて、視聴者からのQ&Aにも話題を転換した上でセッションを締め括った。

 「ハードもまさに一緒。宇宙を使って経済価値を産んだ事例が顕在化していないことが最大の問題だと思っている。事例が可視化されて“じゃあうちもやろう”みたいなサイクルが回り始めると、変わっていくのだろうな、というのが私の課題意識だったので、お二人からも同じような話をいただけて、我が意を得たりという感じがした」(永崎氏)

1 2

Related Articles