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なぜ宇宙生活で「昆虫食」が注目されるのか–牛・豚・鳥肉に代わるタンパク源に?【実食レポ】

2023.08.19 09:00

天地人

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 宇宙ビッグデータを活用した無料GISプラットフォーム「天地人コンパス」を手掛ける天地人。本連載では、同社でインターンとして働く学生が、「学生視点」で宇宙ビジネスの注目点を解説します。第5回となる本記事では、大学で国際開発について研究する寺田胡桃が「宇宙×SDGs」に焦点を当てていきます。

宇宙では「動物性タンパク質の自給」が困難

 世界的金融機関グループであるモルガン・スタンレーは、宇宙ビジネスの市場規模は2040年には120.2兆円に到達し、2016年の36.9兆円から3.26倍に拡大すると推測しています。このような流れの中で、民間による宇宙ステーションの建設構想も具体化しています。

 人類が宇宙空間に長期滞在するためには、それを支える宇宙食の実用化が重要です。現在、国際宇宙ステーション(ISS)では、地球で生産された食品が「宇宙食」として利用されていますが、宇宙滞在の期間が長くなるほど、乗組員のメンタルや身体的な健康状態を維持するために、食事のバラエティーや栄養の確保が重要となります。

 しかし、宇宙に持ち込める食材の量は、打ち上げリソースや宇宙における有限な資源と空間の制約のために、限界があります。そのため、食料自給を目指す動きが活発化しています。

 そこで課題となるのが動物性タンパク質の自給です。宇宙空間で牛や豚、鶏などの家畜を飼育することは非常に難しいのが現実です。育てるための空間の確保や排泄物の問題もあり、宇宙空間で動物性タンパク質を自給するのは非常に困難なのです。

宇宙生活で「昆虫食」が注目される理由

 そのような課題の中で、今注目されているのが「昆虫食」です。まず、昆虫は栄養が豊富です。もともと昆虫はタンパク源やカルシウムなどのミネラルが豊富といった特徴があります。昆虫料理研究家の内山昭一氏が記した「昆虫食入門」という書籍には次のような記述があります。

「鶏肉と比較して、タンパク質が多く、脂肪は少なめ、ミネラル炭水化物、ビタミンも含まれていて、アミノ酸組成は食用肉に似ている。脂肪については、必須不飽和脂肪酸であるリノール酸やリノレン酸が高いものが多く、ミネラルでは鉄や亜鉛を含むものが多い。つまり、昆虫の栄養価は非常に高いのです」

 そして、生産効率が非常に高い点も特徴です。例えばコオロギの場合、牛肉と比較して、わずか0.05%の水分量と16%の餌量で同量のタンパク質を生産できます。

 さらに、限られたスペースでの生産に適していて、垂直農法のように縦積みの生産が可能です。つまり、一定面積から生産されるタンパク質量が多いため、宇宙でたんぱく源を生産するのに打ってつけなのです。実際、飼育自体も一部の昆虫で実証できています。

 現在、昆虫食に対する注目は高まっており、2019年には宇宙マーケット創出を目指す「Space Food X」プログラムが始動しています。宇宙移住の食糧課題と地球上の食糧課題の解決を目指す30社以上が参画するイニシアチブが構築されました。

いざ「コオロギクッキー」を実食

 ここまで、新たな宇宙食として昆虫食の魅力についてお伝えしてきましたが、実際昆虫を食べることに抵抗がある人は多いでしょう。私も積極的に食べたいとは思いません。

 しかし、自分が食べることに抵抗があるのに推奨するのは良くないと思い、実際に昆虫食「コオロギクッキー」を食べて本音をお伝えしたいと思います。

 今回は、「コオロギラング・ド・シャ バタークッキー」を食べてみました。静岡県産の高タンパク質で栄養価が高い食用コオロギを使用したクッキーと書いてありました。初めての昆虫食なので昆虫の原形をとどめていないものから選びました。

 開けてみると、見かけもにおいも普通のクッキーと同じでした。食べた感想としては、本当にただのクッキー。コオロギが入っていることによる違和感は全くなく、普通に甘く美味でした。

 昆虫食を食わず嫌いしていましたが、これで栄養価が非常に高く、生産効率が高いならば、有用性は高いのではないかと感じました。

宇宙で始まり、地球へと広がる挑戦

 さて、ここまで昆虫食の魅力について語りましたが、ここからは昆虫食は宇宙食としてだけでなく、地球上の食の課題を解決する可能性があることを、SDGsの観点から紹介していきます。

 昆虫食は、前述のように栄養面と生産効率面で秀でていますが、加えて「脱炭素」にも非常に適しています。以下は、World Economic Forumによる二酸化炭素を大幅に削減できる5つの理由です。

  • 小さなスペースで飼育できるため、土地や資源の使用量が少なくて済む。
  • 繁殖力が高く、短期間で大量に増殖できるため、飼育コストを低く抑えられる。
  • 植物由来の餌を効率的に利用し、餌の量を少なく抑えながら成長できる。
  • 消化効率が高く、排出物の量が少ない。
  • 飼育から得られる副産物(排泄物や残骸)も肥料として有効に活用できる。

 上記のように昆虫食は、家畜の飼育と比べて二酸化炭素の排出量を大幅に削減できる点に加え、食糧供給問題にも役立ちます。

 地球の人口は今後もしばらくは増加を続けると見込まれており、今後タンパク質の需要が人類の生産量を超えてしまうことが懸念されています。昆虫食は環境に配慮しながら、こうした課題も解決してくれる可能性もあると注目されています。

 このような多くの魅力を持つ昆虫食はSDGsの17の目標のうち「2:飢餓をゼロに」「13:気候変動に具体的な対策を」の2つの目標に貢献できると思っています。

 「宇宙での課題の解決策となる鍵が、わたしたちの住むこの地球でのSDGsにつながり、新たな扉を開ける可能性となる」──。宇宙ビジネスはこのように、地上の課題を解決する可能性を秘めており、私たちが普段別々に捉えている課題をつなげていく点に感動し、非常にわくわくしました。

関連リンク(参考文献)
農林水産庁
BugsWell
Space Business Insights 2020

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