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【技術解説】衛星データは何種類ある?–メタバースや都市環境など世界の衛星ビジネスも紹介

2023.07.12 09:00

浅野佑策(リンカーズ株式会社)

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【事例】世界のベンチャー企業による新しい衛星活用ビジネス

 宇宙データは、企業ビジネスにおける新たな価値創造のフィールドとなっています。特に新進気鋭のベンチャー企業による活用例は、われわれの未来を大きく塗り替える可能性を秘めています。ここではその中から5つの事例を紹介します。

1. ブロックチェーン × 衛星ビジネス–カーボンクレジット取引(香港)

 衛星データとブロックチェーン技術が結びつく事例として、香港のベンチャー企業Xelsの取り組みが注目を集めています。Xelsは、衛星データとAIを駆使し、地球環境の保全を図るための新たなプラットフォームを開発しました。

Xelsのウェブサイト

 Xelsは、衛星画像とAIを利用して、日本やオーストラリアなどの保護地や森林再生エリアにおけるカーボンオフセット(二酸化炭素排出抑制)の実績を定量的に把握し、ブロックチェーンでトラッキングする技術を開発しました。このプラットフォームを通じて、企業は自社のカーボンクレジットの取引や炭素排出量の把握を透明化し、それを広く公開することができます。

 特にこの取り組みは、スコープ3の排出量(組織のバリューチェーンやサプライチェーン全体で発生するCO2排出)を明らかにすることで、それを管理・削減するための具体的なステップを企業に提供します。衛星データを活用することで、従来困難であったスコープ3の排出量を可視化し、さらにそれをブロックチェーンでトラッキングしやすくするという、これまでにない取り組みといえます。

2. メタバース × 衛星ビジネス–3DCGでデジタルツインを自動生成するAI(日本)

 メタバースと衛星ビジネスが結びついた例として、日本のスペースデータの技術を紹介します。同社は衛星データから地上の高精細な静的デジタルツインを自動生成するAIを開発し、現実の世界をバーチャル空間にリアルタイムで再現する試みを進めています。

 このAIは、衛星から取得した地上の静止画像やデジタル表層モデル(DSM)、デジタル標高モデル(DEM)を基に、地上の各構造物の形状、色、材質などを3Dで再現します。これにより、従来の3D地球儀では不可能だった地上を歩く人間の視点からの景観の再現が可能となり、ビジュアルの精細度が近づくにつれて劣化するという問題も解決されました。

 さらに、スペースデータのAIは、位置や形状だけでなく石、鉄、植物、ガラスなどの細かな材質まで再現するため、VR、ゲーム開発、映像制作、都市開発、防災・防衛、自動運転といった様々な用途に対応できます。

 2021年にはニューヨークの自動生成に成功し、2022年8月には総額14.2億円の資金調達に成功しました。さらに、看板やポスターなどをAIで削除することで、著作権や肖像権、プライバシーの問題も解決しています。この取り組みは、衛星データとメタバースを結びつけることで、新たなバーチャル体験の創出を目指しています。

3. カーボンニュートラル × 衛星ビジネス–温室効果ガス排出のモニタリング(カナダ)

 カーボンニュートラルと衛星ビジネスが結びついた例として、カナダのスタートアップGHGSatの取り組みがあります。同社は、航空機や小型衛星にイメージング干渉計を搭載し、個別サイトの温室効果ガス排出をピンポイントで観測する技術を開発しました。

 この技術は、従来の温室効果ガス観測技術に比べてわずか1%の投資で、100倍以上の高解像度(最小1 m四方)での観測を可能にします。これにより、石炭・石油・天然ガスなどの化石資源の採掘場や、廃棄物処理施設などの温室効果ガス排出のモニタリングが詳細に行えるようになります。

GHGSatによる排出ガス分析のイメージ(出典:同社ウェブサイト)

 GHGSatは、この技術を活用してBloombergと提携し、Permian盆地のメタン排出のリスク予測情報を毎週提供しています。また、同社は本技術により、これまで宇宙から検出された最も少ないメタン排出(205 kg/h)の衛星観測に成功したとしています。このような技術は、温室効果ガスの排出把握と削減に向けた具体的な取り組みを助け、カーボンニュートラルの実現に向けた大きな一歩となります。

4. サステナビリティ × 衛星ビジネス–リチウム鉱床の位置を特定(イスラエル)

 サステナビリティと衛星ビジネスを組み合わせた例として、イスラエルのスタートアップ企業ASTERRAの取り組みが挙げられます。彼らは人工知能と高度なアルゴリズム、そして独自開発の地中貫通周波数を用いて、衛星の合成レーダーによる画像データからリチウム鉱床の位置を特定する手法を開発しました。

 リチウムは、電気自動車、半導体、チップ、携帯電話等に適用される電池に使用される鉱物であり、その需要が増大しています。従来は地上からの探査や試掘が主な方法でしたが、ASTERRAの技術を用いれば、宇宙からの視点でリチウム鉱床の位置を特定することが可能となります。これは、探査のコスト削減、環境負荷の軽減、採掘可能な鉱床の早期発見など、サステナビリティに重要な意義を持つ技術といえます。

ASTERRAのソリューション(出典:同社のウェブサイト)

 また、ASTERRAのこの技術は、リチウム鉱床だけでなく、天然資源全般の位置特定にも利用可能です。さらには、火星の地下水脈の特定にも用いられており、その柔軟性と幅広さが示されています。同社は、2015年から70カ国以上でこの技術を利用しています。

5. 都市環境 × 衛星ビジネス–高精度なリアルタイム大気質監視(イスラエル)

 都市環境と衛星ビジネスの組み合わせによる例として、イスラエルのBreezoMeterの取り組みがあります。BreezoMeterは大気質データを高精度でリアルタイムに提供しています。これは、各国の政府機関情報、天気予報、通信衛星、気候パターン、交通力学などのソースから得られるデータをビッグデータ分析と機械学習によって処理し、大気中の汚染物質濃度や花粉飛散状況などを把握します。

 人工知能に基づいた分散アルゴリズムによる大気質の分析データを用いて、PM2.5、NO2、SO2、オゾン、花粉などの物質をリアルタイムで路上レベルまで解析・予測・追跡し、健康に関するカテゴリに従った大気質レベルを可視化して表示します。この大気質データは、DaaS(Data as a Service)としてAPI経由で提供され、各種サービスとの統合が可能となります。

BreezoMeterのソリューション(出典:同社ウェブサイト)

 これは、都市の大気質管理や健康対策、環境対策において重要な情報となります。また、衛星データを活用している点が特徴的であり、広範囲の地域に対して一元的に大気質情報を提供できるというメリットがあります。 BreezoMeterは、化粧品メーカーや気象アプリとも連携し、大気質データを活用した様々なサービスを提供しています。これにより、大気質データの活用範囲が拡大し、さまざまな業界に影響を与える可能性があります。

最後に

 衛星データは長らく専門的な領域での利用が一般的でしたが、近年ではその利用の幅が広がりつつあります。最新の技術や市場、NFT、メタバース、カーボンニュートラルなどと組み合わせることで、これまで想像もしなかった新たなビジネスの創出が期待できます。われわれもこの動きを見逃さず、衛星ビジネスの進展に注目していきます。

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リンカーズについて

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著者について

浅野 佑策
リンカーズ株式会社リサーチプラットフォーム事業本部 オープンイノベーション研究所長

東北大学工学部卒業( 2006 年)、東北大学大学院工学研究科修了( 2008 年)。株式会社東芝 生産技術センターにおいて半導体製造プロセスの研究開発に従事。その後、アクセンチュア株式会社にて大手製造業における、工場デジタル化や業務自動化などのデジタルトランスフォーメーションを複数推進。
現職では、メーカーでの研究開発とコンサルティングの経験を活かして、エレクトロニクス領域を中心に、先端技術動向調査、技術マッチング、技術情報を効率的に収集するための技術開発など、製造業向けのイノベーション創出を支援している。

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