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AWS、シンガポールと宇宙分野で提携–技術開発や人材育成で協力

2021.12.03 11:34

ZDNet Japan

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 シンガポールの宇宙技術産業企画室(OSTIn)は、Amazon Web Services(AWS)との提携を通してクラウド技術を活用し、自国内の宇宙分野を推進することを目指している。この提携では、シンガポールで宇宙分野の優秀な人材を育成し、自国のエコシステム内での共同研究を促進することも目指す。

 AWSが米国時間12月1日のブログ投稿で述べたところによると、同社がアジアでこの種の契約を締結するのは「初めて」のことであり、この提携は、経済成長と技術開発のための新しい産業として宇宙の可能性を探求するシンガポールの取り組みを支援するという。

 2013年に設立されたOSTInは、国家の目標を支援する宇宙技術の開発と、シンガポールの宇宙活動に関する規制環境の構築を担当している。学界やスタートアップ、研究機関、そのほかの政府機関、業界のプレーヤーと協力して、業界の成長の促進に必要な宇宙能力の開発に取り組んでいる。これには、衛星ベースのサービスの提供を目的とする衛星と関連部品の設計および製造など、さまざまな宇宙活動の実施が含まれる。

 今回の提携の下で、AWSは、クラウドサービスの利用料金に充当できるクレジットの企業への提供、国内の人材の育成、宇宙産業における新技術の開発の促進を行う。そのような技術は、航空や海事、気候、環境に関する国家の優先事項を支援できる可能性がある。さらに、AWSによると、若者が科学、技術、工学、数学(STEM)分野のキャリアを追求するきっかけになる可能性もあるという。

 AWSによると、具体的なイニシアチブの詳細は2022年初頭に公表される予定だという。

 OSTInのエグゼクティブディレクターのDavid Tan氏は、「今回のAWSとの提携は、シンガポールの発展を支援するものだ。これにより、シンガポールは宇宙イノベーションの地域的なハブとなり、世界の宇宙産業においてより大きな役割を果たせるようになるだろう。宇宙技術を身近なものにすること、シンガポールで宇宙分野の人材を育成すること、そして、国内、地域内、全世界の宇宙産業で協調を促進することを目指す具体的なプログラムの開発を通して、AWSとの協力関係を深めていくことを楽しみにしている」と述べた。

 シンガポールの上級相兼国家安全保障調整相のTeo Chee Hean氏によると、宇宙は、気候変動や環境悪化の監視から天気予報、通信やナビゲーションサービスのサポートまで、日常生活のさまざまなことに「重要な役割」を果たしているという。

 現在、さまざまな組織が衛星の革新的な利用方法や、無重力環境を利用して新たな素材や製品を製造する可能性を模索している、とTeo氏は2021年6月の「Global Space & Technology Convention」で述べた。

 「これらの進展は、宇宙が大国だけのものではないことを示している。今は、宇宙の機会がすべてのプレーヤーに開かれつつある」(同氏)

 このエコシステムを支援するために、イノベーションを促進して、能力と研究作業を推進し、パートナーシップを確立する必要がある、とTeo氏は強調した。同氏によると、生まれて間もないシンガポールの宇宙産業は現在、放射線耐性のある電子機器を開発するZero Error Systemsや、地理空間AIの訓練に使用される合成データを生成するBifrostなどのスタートアップで構成されているという。

 OSTINとシンガポール民間航空庁も宇宙ベースのVHF通信の研究を支援しており、航空、海事、および気候に関する宇宙ベースの技術を推進するために、いくつかの研究助成金が申請された、とTeo氏は語った。同氏によると、ST Geo-Insightsやシンガポール国立大学リモートセンシング画像処理センターといった国内の組織が協力して、メガインフラストラクチャー開発、栽培追跡、気候変動などの分野で、衛星ベースのAIアプリケーションの開発に取り組んでいるという。

 「われわれは、未来の世代に刺激を与えて、宇宙での夢の実現を目標にしてもらえるようにしたいと考えている。われわれの機関や大学は、未来の宇宙科学者やエンジニア、起業家を育成しており、学部生や若い専門家が最先端の宇宙技術に触れられる機会を増やしている」(Teo氏)

 同氏は、シンガポールが共同作業に重点を置いていることを指摘し、次のように述べた。「シンガポールは、オープンかつ包括的で協調的な国際システムを常に擁護してきた国家なので、宇宙の恩恵をあらゆる人が受けられるようにするためには、国際的なパートナーシップと対話が不可欠であると強く信じている。『NewSpace』経済は極めて大きな可能性を秘めているが、一方でスペースデブリや軌道の混雑といった新たな課題ももたらす。経済や社会に対する宇宙の重要性が増す中で、われわれはすべての当事者に対して、責任と持続可能性を意識して行動することを求める必要がある」

 AWSによると、同社は現在、地球観測のインサイトプラットフォームを提供するEOfactoryなど、シンガポールの宇宙産業の複数の顧客と協力しているという。EOfactoryは、AWSのテクノロジーを利用して、物体検出など、さまざまな機能のAI分析を行っているという。

(この記事はZDNet Japanからの転載です)

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