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火星で初飛行に成功、NASAの小型ヘリコプターを支えるオープンソースソフトウェア

2021.04.22 06:30

ZDNet Japan

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 JPLにおいて火星でのヘリコプター運用の責任者も務めるCanham氏によると、F′はJPLの作業方法に変革をもたらしたという。JPLのソフトウェアは歴史的に、他の目的での利用が難しいものとなっており、コンテキスト固有の機能がコードの奥深くに埋め込まれている場合もしばしばだった。F′は幅広い範囲での再利用を可能にするために、カスタムメイド形態で開発していくのではなく、モジュール化していく必要があった。例えば、F′ではエンジニアが特定ブランドの内蔵カメラを使用することが想定されていない、すなわち想定されているカメラというものはまったく存在していない。このため、写真を撮影する必要が出てきた場合、必要に応じて特定のコンポーネントや機能を追加/削除することになる。その他のありとあらゆるセンサーやハードウェア機材についても同様だ。

 Canham氏によると、F′は箱から出してすぐに使える宇宙飛行システムを目的としていないという。これはどちらかというとスターターキットのようなものだ。デバイスにコマンドを送り込むための地上管制システムと、そういったコマンドを実行するシーケンサー、地上管制に応答を送り返すコンポーネントが用意されている。コンポーネントの標準ライブラリーもあるが、自らで多くのソフトウェアを記述する必要がある。

 F′はJPL内だけで再利用可能というわけではなく、同組織の外でも再利用可能だということはすぐに明らかになった。現在、COTSのハードウェアで構成され、多くの場合に地球の低軌道(LEO)上を周回する小型の人工衛星であるCubeSatが普及している。Canham氏は「われわれはこれに関する話をしてきているとともに、カーネギーメロン大学に学部を用意しており、独自のCubeSatプロジェクトに使いたいという組織もある」と述べ、「われわれは最終的に、ソフトウェアをライセンスするための時間のかかるプロセスを人々に強いようとするよりも、F′をオープンソース化するほうが容易だということを認識した」と続けた。このためチームはコードを吟味し、運用上の機密や国際協定で統制されているテクノロジーが存在していない旨を確認した後、2017年7月にApache Licenseの下でF′を公開した。

 今日、薄い大気で構成された火星のピンク色の空に向かってIngenuityが飛び立てたのは、これらすべてのプロジェクトのおかげだ。そしてElon Musk氏の計画している初のロボット宇宙船である「Heart of Gold」が2020年代の終わりに火星に向けて飛行する際にも、Linuxとオープンソースソフトウェアが力を貸しているはずだ。

(この記事はZDNet Japanからの転載です)

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