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ブラックホールに迫るかぎは「X線の偏光」NASA研究に山大も参画
誰も見たことがない宇宙の姿を明らかにする――。そんな夢をのせた観測衛星が昨年12月、米フロリダ州から打ち上げられた。とらえようとするのは「X線の偏光」。米航空宇宙局(NASA)が中心となった研究には、山形大も名を連ねる日本の共同研究グループが参加する。
X線は高エネルギーの電磁波のこと。ブラックホールや中性子星、爆発した星の残骸などから放射される。偏光は電磁波がもっている性質の一つで、天体の周りの物質や磁場の形状を反映して波が偏ると考えられている。
「ブラックホールは強い重力場をもっているため色んな物質を引きつけ、円盤状に物質がたまるところができる。そこが熱くなってX線が出ます」
共同研究でデータ解析を担う山形大学術研究院の郡司修一教授(宇宙物理学)は、そう説明する。引き寄せられたものが圧縮されて熱くなり、光よりエネルギーが高いX線が出るという。
打ち上げられた「X線偏光観測衛星」は、偏光を高感度で観測できる世界初の衛星として期待を集める。理化学研究所が偏光計のセンサー部品「ガス電子増幅フォイル」を、名古屋大が望遠鏡の熱制御部品をそれぞれ提供するなど、日本から20人超の科学者や大学院生らが参加している。
X線は大気を通り抜けられない。観測するためには検出器を宇宙に運ぶ必要があり、ロケットなどの飛翔(ひしょう)体技術が発達した1960年代になってX線天文学が産声を上げた。研究者はX線の偏光を「X線天文学に残された最後のフロンティア」と呼んでいるという。
郡司教授は「今回の観測は今まで見えなかったものを見ようとしている。顕微鏡ができ、初めてミクロの世界がのぞけたということに似ている」と表現する。
強い重力場や高速回転のため、ブラックホール周辺では時空のゆがみがあることが知られている。「X線の偏光を通して、時空のゆがみ具合やブラックホールの回転に迫っていきたい」
観測衛星の運用は約2年間を予定し、延長される可能性もある。山形大では郡司教授のもと、プロジェクト研究員と大学生・院生の計4人が衛星から届くデータ解析にあたっている。(坂田達郎)

(この記事は朝日新聞デジタルに2022年3月5日11時に掲載された記事の転載です)