ニュース
宇宙飛行士の医療訓練をゲーム化–専門知識の習得を効果的に
2023.01.12 08:00
その上、地球上での練習では、どのみち宇宙の状況を再現することはできない。「心臓は物理的に形を変える。微小重力下ではより球形に近くなり、血流の方向が変化する」とGlassenberg氏。「では、自分の見ているものが正常かどうか、どうやって判断すればいいのか」
Level Exは2019年にNASAから受け取った助成金で、これまでで最も実物に近いリアルタイム超音波シミュレーションを作成し、「ジャストインタイム」訓練として知られるものを宇宙飛行士に提供した。NASAがLevel Exを指名したのは、将来的な火星へのミッションを見据えてのことだ。
「火星ミッションの9カ月目の状況を想像してみてほしい」とGlassenberg氏は語る。「突然、宇宙飛行士の1人が微小重力下で自分の胸をつかみ、意識を失って倒れた。それがフライトサージャン(航空宇宙医師)だったとしたら、どうすればいいのだろうか」
地球から遠く離れたミッションでは、船内の宇宙飛行士がミッションコントロールに助けを求めることはできないだろう。また、リソースが限られた環境下に置かれるため、超音波が唯一利用可能な医用画像技術となる。
Level Exは、NASAと共同で始めた取り組みを足がかりに、SpaceXなどと提携して、乗組員が超音波を使用するためのジャストインタイム訓練と飛行中の手順ガイダンスを開発した。Polaris Dawnミッション中に、乗組員は血流パターンを追跡し、ジャストインタイム訓練の効果を測定する。最終的な目標は、未来の宇宙旅行者が長期ミッション中に自分の健康状態を監視できるようにすることだ。
「彼らは、私たちが宇宙で暮らすための準備をしようとしている」(Glassenberg氏)
Level Exのゲームはモバイルデバイス向けに設計されているが、グラフィックスは据え置き型ゲームのものと同等だ。「流体力学もないし、モバイルゲーム内で行っていることも見当たらないだろう」とGlassenberg氏は語る。
同社は、NVIDIAやUnityといったゲーム業界の大手企業が定期的に参加する権威あるコンピューターグラフィックスカンファレンス「SIGGRAPH」の壇上でも見劣りしない存在だ。
Glassenberg氏は、一般的なゲームクリエーターが「環境の内部にキャラクターを作り出している」のに対して、「われわれはキャラクターの内部に環境を作り出している。それが当社の強みの1つだ」と述べた。
Level Exを創設する前、Glassenberg氏はMicrosoftとLucasArtsでリアルな見た目のビデオゲームの開発に携わっていた。同氏が最初に開発したLevel Exゲームは、父親のためのものだ。医師である同氏の父親は、光ファイバー挿管のより良いシミュレーションを探していた。
ゲーム化した訓練アプリを医師に使用してもらうのは「驚くほど簡単」だったとGlassenberg氏は述べる。
「最初の頃はゲームのブランディングを採用することに不安を感じていたが、やがてそれが共感を呼ぶことに気がついた。医師も人間であり、ビデオゲームをプレイする」
(この記事はZDNET Japanからの転載です)