解説
だいち4号(ALOS-4)とは–雨でも夜でも宇宙から地上を撮像、3m分解能のまま観測幅200kmに向上
2024.03.12 09:41
三菱電機は3月11日、先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)の機体を報道関係者に公開した。2014年に打ち上げられた「だいち2号」(ALOS-2)の後継衛星で、1度に観測できる範囲を200kmに拡大した点などが特徴。3月末頃に種子島宇宙センターへ出荷され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の基幹ロケット「H3」で2024年度内の打ち上げを目指す。
だいち(ALOS)シリーズとは
陸域観測衛星「だいち」(ALOS)シリーズは、災害把握や地理空間情報整備を目的とした衛星だ。災害が頻発する日本において「宇宙からの眼」の役割を担っている。
2006年にはレーダーと光学センサーを両搭載した初号機「だいち」(ALOS)が、2014年にはレーダーに特化したALOS-2がそれぞれ打ち上げられた。ALOSは東日本大震災で約650万シーンを撮像したほか、ALOS-2は令和6年能登半島地震で被災状況の把握に役立った。
一方、2023年には光学観測に特化した「だいち3号」(ALOS-3)の打ち上げがH3ロケットにより試みられたが、失敗し衛星は喪失した。
だいち4号(ALOS-4)とは
ALOS-4は、現在稼働しているALOS-2の後継にあたる衛星だ。喪失したALOS-3は光学センサーを搭載していたが、ALOS-2と今回のALOS-4は「合成開口レーダー(SAR)」を搭載する点が異なる。SARとは衛星から電波を発射し、その反射によって地上を撮像する方式で、太陽光を必要とせず、夜間の撮像が可能だ。さらに電波は雲も透過するため、天候に左右されない観測が可能となる。
ALOS-2からの進化点は、主に観測幅の拡大と、それに伴う観測頻度の向上だ。ALOS-2の3m分解能を維持しつつ、1度に観測できる幅を50kmから200kmに拡大した。ALOS-2では1度の観測で東京湾の周辺しか撮像できなかったが、ALOS-4では関東平野全体を一度に収められるようになった。
観測幅の拡大によって、日本全土を年間で20回程度定点観測できるようになった。ALOS-2では年間4回程度だったため、観測頻度が大きく向上した。また、災害時にはアンテナのビームフォーミングによって毎日の観測が可能だが、その観測幅も200kmに広がり、より広域な災害に対応できるようになった。
供給電力やデータ伝送能力も向上した。発生電力はALOS-2の5300Wに対して7000Wに。バッテリー容量は200Ahに対して380Ahにそれぞれ増加した。通信面ではKaバンドに対応し、データ伝送速度は800Mbpsから3.6Gbpsに向上。このほか、光衛星間通信にも対応し、高度628kmでは地球を約100分で1周するが、その間にデータを降ろせる時間が大幅に向上した。
何に役立つ?–災害把握、地殻変動、インフラ維持
ALOS-4のミッションの1つに、災害発生時の迅速な状況把握がある。SAR衛星であるALOS-4は光学衛星とは異なり、夜間や悪天候下でも地上を撮像できる。この観測幅がALOS-2の50kmに対して4倍の200kmに向上したことで、より広範囲の被災状況を一目で確認できるようになる。
2つ目は、高精度な地殻・地盤変動の検出だ。電波を時間をずらして地表に当て、跳ね返ってきた波のズレを調べることで、地表の変動をcmオーダーで観測できる。例えば令和6年能登半島地震では海岸に沿って大規模な隆起が発生したが、先代ALOS-2による宇宙からの観測結果と、国土地理院による現地調査結果は一致していた。ALOS-4ではこうした観測をより広い観測幅で実施可能で、火山、地盤沈下といった異変の早期発見に貢献する。また、インフラ老朽化の検知にも威力を発揮すると期待されている。
3つ目は海洋状況の把握だ。ALOS-4はJAXAが開発した船舶自動識別装置(AIS)受信機「SPAISE3」を搭載している。AISは300トン以上の船舶に搭載が義務付けられており、船の種類や位置などの情報を電波で送受信する装置だ。SPAISE3では船舶が混雑する海域においても個々の船舶の識別が可能で、SAR観測と連動することで、航行の安全確保に貢献する。
ALOS-2はどうなる?
2024年度内を予定するALOS-4打ち上げ後も、先代のALOS-2は可能な限り運用を続ける。ただ、2014年に打ち上げられたALOS-2は、運用期間が現時点で設計寿命の5年を大きく超過しており、安定的なレーダー観測のためにもALOS-4の早期打ち上げが望まれている。