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日本初の月面着陸、成果続々–それでもJAXAは「63点」と辛口評価のワケ

2024.01.25 19:16

小口貴宏(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月25日の記者会見で、1月20日に日本初の月面着陸に挑んだ小型月着陸実証機「SLIM」の着陸結果を報告した。

 JAXAの宇宙科学研究所で所長を務める國中均氏は「世界初となるピンポイント月面軟着陸の成功を確認した」と述べた。

エンジンを片方喪失も「超ピンポイント着陸」に成功

 今回明らかになった成果の1つは、世界初となるピンポイント着陸の成功だ。これまで各国が挑んできた月面着陸の精度は数km程度だったが、SLIMは100m以内という前代未聞の精度を目指していた。

 解析の結果、SLIMは推定で目標地点から55m東に着陸した。なお、着陸精度は障害物回避の直前で評価することが適切だといい、その場合は「悪く見積もっても10m。3~4m程度の精度であった可能性が高い」とSLIMのプロジェクトマネージャーを務める坂井真一郎氏は述べた。また、画像照合航法の結果も全て正確だった。

 一方で、着陸は想定通りではなかった。高度50m付近でメインエンジン2基のうち1基を喪失した。一定の冗長性を有していたことから着陸失敗とはならなかったが、想定と異なる姿勢での着陸となった。斜面に着陸するために考案された「二段階着陸技術」の実証にも失敗した。

 なお、現時点では太陽光パネルに太陽光が当たっておらず、電力供給を受けられていない状況だ。現時点でSLIMの電源は切られているが、今後太陽光が西から当たるようになれば、再び電力を得て再稼働できる可能性があるという。

月面で写真を撮影

 もう1つの成果は、月面にたたずむSLIMの姿を撮影したことだ。

 SLIMは着陸の直前に、搭載する子機の「LEV-1」と「LEV-2」(愛称:SORA-Q)を放出した。このうち、SORA-QがSLIMの月面の姿を撮影した。

 SORA-Qは、タカラトミーがJAXA、ソニーグループ、同志社大学と共同開発した超小型の変形型月面探査ロボットだ。直径は80mm、質量250g。玩具として市販もされている。

マルチバンド分光カメラも動作

 月面着陸後、マルチバンド分光カメラも正常に動作した。太陽光で発電できず、バッテリー駆動のために撮影時間は限られたが、予定していた333枚のうち、257枚の低解像度モノクロ画像を撮影した。

 SLIMは高精度月面着陸技術の実証のほか、月のマントルに由来する「カンラン石」をマルチバンド分光カメラで分析するミッションも計画している。

 なぜカンラン石を分析するのか。それは月の起源を探るためだ。月が形成された理由としては現在「ジャイアント・インパクト説」が有力視されている。同説は、約46億年前の原始地球に火星程度の原始惑星が衝突し、その際に飛び出た地球の一部が再結合して、現在の月になったという説だ。

 そこで、月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析し、その結果を地球のマントルと比較することで、ジャイアント・インパクト説を検証するというわけだ。

 JAXAによると、着陸直後に撮影した画像から、6つの観測対象を定めた。今後、太陽光の向きが変わり発電可能となれば、詳細に観測できる可能性がある。

「SLIMくんに審査員特別賞を与えたい」

 1月25日の記者会見では、1月20日の着陸直後ではわからなかった成果が続々と明かされた。1月20日には「ギリギリ合格の60点」と評していた國中氏だが、今回の成果を受けても「3点加点した63点」と辛口評価を据え置いた。

 加点の内訳は「LEV-1放出成功」「LEV-2放出成功」「マルチバンドカメラが正常に動作」がそれぞれ1点ずつだという。

JAXAの宇宙科学研究所で所長を務める國中均氏

 一方の坂井氏は「ピンポイント着陸は500点をつけたい」としつつ、全体の評価については「例えが悪いが、小型の双発機がエンジンを1本失った状態でなんとか着陸に至った状態。その状態から無事に着地してくれた機長のSLIMくんに審査員特別賞を与えたい」と述べた。

500Nスラスターの信頼性に疑問符

 SLIMの着陸時の挙動に関連して國中氏は「宇宙科学研究所で使う500Nスラスター(推進器)は良い成果が出ていない」とも述べた。SLIMはメインエンジンに500Nスラスターを2基搭載していたが、前述の通り高度50m付近で片方を喪失した。

 500Nスラスターをめぐっては、宇宙科学研究所が手掛けた火星探査機「のぞみ」、それに続く金星探査機「あかつき」でも、トラブルが発生していたという。

 なお、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を担う「こうのとり」(HTV)など、「宇宙科学研究所以外が使う500Nスラスター」は問題なく動作しているという。國中氏は「宇宙探査に用いる場合は、燃料を入れてから点火するまで半年後とか1年後といったスパンで、宇宙での待機状態が長いことが影響している可能性がある」と付け加えた。

火星圏探査にも影響

 前述の500Nスラスターは、JAXAの火星圏探査計画「MMX」(Martian Moons eXploration)」でも6基使用する予定だ。國中氏は、MMXに向けてスラスターの信頼性を高める必要があるとした。

 JAXAが2026年の打ち上げをめざすMMXでは、火星の衛星「フォボス」に着陸し、試料を地球に持ち帰る計画だ。また、フォボスには火星への隕石衝突によって飛び出た火星の土や砂が多く堆積しているとみられており、事実上、世界初の火星サンプルリターンの達成になるとも注目されている。

(更新)初出時、メインスラスターを500kNと記載していましたが、正しくは500Nでした。訂正しお詫び申し上げます。

 

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