解説

「月は地球から分離した」は本当か、いよいよ両者のマントル組成を直接比較–日本の月面着陸機SLIM

2023.12.13 10:51

小口貴宏(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月5日、日本の小型月着陸実証機「SLIM」(スリム)の月面着陸を2024年1月20日午前0時20分に実施すると発表した。成功すれば日本初の月面着陸となり、世界でも米国、旧ソ連(ロシア)、中国、インドに続く5カ国目となる。

 SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)は国産基幹ロケット「H-IIA」47号機によって9月7日に打ち上げられた。月面の狙った場所へのピンポイント着陸技術の実証を目的としており、着陸誤差は100m以内を目指している。これまでの月面着陸機の誤差は数km〜十数km以上であるため、SLIMは驚異的な着陸精度を目指している。

 このピンポイント着陸技術によって実現するのが、従来の「降りやすいところに降りる」から「降りたいところに降りる」探査への転換だ。月惑星の資源探査では、軌道上からリモートセンシングで資源分布を推定し、その後実際に地面を探査することになるが、その際に威力を発揮するというわけだ。

「月は地球から分離して生まれた」説を検証

 SLIMは1月20日の月面着陸で、「栞(しおり)クレーター」付近に着陸する計画だ。同地点には「月のマントル」に由来するカンラン石が散らばっている。SLIMは着陸後、搭載するマルチバンド分光カメラでカンラン石の組成分析を予定している。

 なぜカンラン石を分析するのか。それは月の起源を探るためだ。月が形成された理由としては現在「ジャイアント・インパクト説」が有力視されている。同説は、約46億年前の原始地球に火星程度の原始惑星が衝突し、その際に飛び出た地球の一部が再結合して、現在の月になったという説だ。

 そこで、月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析し、その結果を地球のマントルと比較することで、ジャイアント・インパクト説を検証するというわけだ。

 なお、カンラン石は比重が大きいために、通常は地下深くに埋まっている。地表に露出したカンラン石はクレーター付近に存在するが、これはクレーター形成時に、衝撃で地下から掘り起こされたものと考えられている。

 JAXAは2007年に打ちげた月周回衛星「かぐや(SELENE)」で月面のリモートセンシングを実施し、月面におけるカンラン石の分布を突き止めた。また、組成分析にあたっては宇宙線の影響の少ないカンラン石を用いる必要があるため、宇宙線の影響をあまり受けていないカンラン石が存在するとみられる若いクレーターを探した結果、探査地点を栞クレーターに定めた。

 なお、SLIMの着陸地点はクレーター付近であることから、15度程度の斜面となっている。斜面に着陸するためにSLIMは「二段階着陸」方式を採用。一度接地してから、斜面に向かって倒れ込むように着陸することで成功確率を高めている。

 「これまでアポロ計画をはじめ、月の岩石が持ち帰られてきたが、残念ながらSLIMで見ようとしているマントル由来のカンラン石はなかった」──。JAXAの宇宙科学研究所 SLIMプロジェクトチームでプロジェクトマネージャーを務める坂井真一郎氏はこのように語った。

 また、SLIMが搭載するマルチバンド分光カメラについて「望遠機能があり、まず広いところを見て、狙いを定めた岩石にズームをかけて詳しく分析できる」と説明した。

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