解説
宇宙開発のクールな仕事–必要なのに注目されない隠れた仕事を見る
宇宙は冷え切っているが、同時にクールでもある。
火星への飛行、月面基地、小惑星での採鉱、夜空を覆い尽くす大規模な衛星コンステレーションなど、現在、そして未来の宇宙探査には、注目したくなる要素がたくさんある。
バージニア工科大学の航空宇宙工学部と海洋工学部で指導している、米国電気電子学会(IEEE)上級会員のElla Atkins氏は「宇宙産業には、ほとんど日の目を見ない部分があります」と話す。
「どのような宇宙ミッションも技術あってこそです。ただし、そうした技術の多くは、無視されたり資金不足だったりします」(Atkins氏)
Atkins氏によると、どんな宇宙ミッションにも必要不可欠なセンサーとソフトウェアは、大学の講義でほとんど学べず、報道もされない。緊急事態管理と安全管理などの有人ミッションやロボットミッションに欠かせない重要な取り組みも本来得るべき注目を集めないという。
宇宙探査を実行するには、巨大なチームが必要になる。大型ロケットを打ち上げる際に映る管制室(ミッションコントロールセンター)で作業している人々は、チームのほんの一部でしかない。
モデルベースのシステムエンジニアにソフトウェアエンジニア、オートノミー(自律)エンジニア、電力システムと通信システムの担当者など、あまり知られていないけれど、なくてはならない仕事もある。
この種の仕事は、宇宙探査という職場への門戸を広げている、とも言える。
宇宙探査の隠された一面と、宇宙時代に必要とされる人材を育成することについて、Atkins氏に話を聞いた。
必要なのに注目されない隠れた仕事
――宇宙探査に欠かせない知識が大学教育で得られないとしたら、宇宙機関はどこで人材を見つければ良いのでしょうか。職場内訓練(OJT)で育てているのでしょうか。
必要とされるソフトウェアの知識に関しては、(通常は大学で宇宙についてほとんど学ばない)コンピューターサイエンティストと、(一般的に大学でコンピューターサイエンスやきちんとしたプログラミングをほぼ学ばない)航空宇宙エンジニアがチームの一員として活躍できるよう、上級職員が間断なく支援します。幅広い分野をカバーする講座も用意していて、知識習得に役立つでしょう。
もちろん、OJTも行います。米航空宇宙局(NASA)の場合、優秀で積極的な宇宙ミッション参加希望の大卒生を採用しますが、こうした人材は大学で学んだ分野の知識をすでにしっかり身につけています。NASAの管理職は、上級職員がメンターとなって彼らを導けるようなチームを作ります。
――宇宙探査に必要なのに注目されない隠れた仕事には、どのようなものがありますか。
宇宙ゴミ(スペースデブリ)の追跡と管理、宇宙に関する法律と政策、「特別なイベント」の遂行と対照的な日々のミッション運用などです。
――緊急事態管理チームは、宇宙ミッションで何をするのですか。そして、なぜ必要不可欠なチームなのでしょうか。
ミッションコントロールと運用チームは、問題が起きないか全員で目を光らせています。小さな問題は、ソフトウェアが自動的に対処できますし、地上にいる担当者が直接報告することもあります。重大な問題を解決するには、関係者がチームになって高度なソフトウェアと豊富なデータを利用することが多いでしょう。
これまで多くの宇宙ミッションを成功させてきましたが、ほとんどの場合、ハードウェアやソフトウェア、ミッションのさまざまな要素、そして、これらの組み合わせで発生した問題や障害を、緊急事態管理でうまく解決できたから成功したのです。
――宇宙業界で働こうとする人は、何年もかけてしっかりと経歴を積んでくる人がほとんどだと思います。ただし、ある種の専門分野は教育が行われていないので、宇宙に関する仕事をするなんて夢にも思わなかった人も働いているようです。実際にそのような状況なのですか。
はい、そのとおりです。宇宙ミッションへの参加を夢見る大学生や卒業生はたくさんいて、そうした志望者は、宇宙関連企業やNASAのような政府系宇宙機関にアピールする経歴を作ろうと努力します。一方で、そうした候補者では埋められない仕事もあります。
宇宙企業や政府機関は、航空宇宙、電気工学、コンピューター、機械工学といった分野の人材だけでなく、物理や気象に関する知識を持つ材料科学者やミッション科学者も必要としています。
宇宙ミッションには、これらすべての分野に及ぶ専門知識が欠かせません。そこで、さまざまな学科から卒業生を採用したうえで、総合的な知識を持つチームのなかで効率よく教育していきます。