
インタビュー
ESAは世界の国々や企業との「架け橋」を目指す–フランス人宇宙飛行士トマ・ペスケ氏にインタビュー
JAXAやNASAと連携し、日本の宇宙企業とも協力関係をもつESA(欧州宇宙機関)。そのESAに所属するフランス人宇宙飛行士のトマ・ペスケ氏が来日し、グループインタビューに応じた。
同氏はこれまで2016年と2021年に2回のISSミッションに参加し、フランス人初のISS船長も経験。宇宙滞在日数は通算400日間に及び、計6回の船外活動も行っている。そうした宇宙飛行士としての豊富な経験も踏まえ、今後の宇宙開発や日本との関係性についてどのような展望を持っているのか伺った。

民間ステーションは「小規模」からスタートする?
――ペスケさん現在の主な活動について教えてください。
NASAやJAXAなどとの協力関係のもと、アルテミス計画や月周回ミッションに向けた訓練を進めているところです。新しい協力関係の構築にも取り組んでいます。アラブ首長国連邦(UAE)をはじめ宇宙開発に関心をもつ国が増えており、そうした方々とのパートナーシップ強化を図ろうとしています。今回日本に来たのは、まさにそのような新たなプレーヤーの方々とESAとのパートナーシップ強化が目的でもあります。
――3回目の宇宙飛行の予定はあるのでしょうか。
まだ決まっていることはありません。2009年選抜組であるわれわれ世代の宇宙飛行士は、ほぼ全員がISSのミッションを2回経験しています。そして、今はアルテミス計画の月周回、月面探査を見据えた活動にシフトしています。昨今の事情からNASAの予算などがどうなるか分からないところもありますが、アルテミス計画は前進するものと信じています。
――ポストISS時代の民間宇宙ステーションについてはどのように見ていますか。
これは個人的な見解ですが、現在のISSから次の民間宇宙ステーションへの本格移行は時間がかかると思っています。現在のISSは非常に長い期間をかけて建設され、素晴らしい環境が整っていますから、予定よりも長く運用されるかもしれません。一方で次の民間宇宙ステーションは当初予定していた時期から遅れる可能性があると思っています。当初は実験棟1基のみなど非常に限定的な運用にならざるを得ないとも考えられそうです。
ISSは実験に必要なあらゆる設備が整った巨大な施設で、それらは1つの実験棟に収まるようなものではありません。ですので、民間宇宙ステーションへの移行期には運用規模が一時的に低下するでしょうし、今のISSのレベルに戻すのには相応の時間がかかると思います。
日本の企業やコミュニティとの「架け橋」を目指す
――日本では100社を超える宇宙スタートアップが生まれていますが、マネタイズに苦心しているところも少なくありません。フランスはどのような状況ですか。
フランス国内も似ているところがあると思っています。政府が「France 2030」という投資プログラムを推進し、その予算の中から数十億ユーロを宇宙スタートアップの支援に充てると発表するなど、動きは活発です。
しかし、SaaS企業のようなソフトウェア開発とは違い、宇宙ビジネスでは工場、射場、ロケットなどのインフラに巨額のコストがかかるのはご存じの通りです。それによって、欧州では今は統合のフェーズにあるという認識です。
たとえば、欧州には小型ロケットを打ち上げる企業が10社以上ありますが、小型衛星の打ち上げだけではそうしたインフラを維持・拡大していけるような持続的なビジネスにはなりにくいと思います。今後はM&Aによる統合や企業淘汰が進むのではないでしょうか。

――ESAは2024年に一般社団法人クロスユーとパートナーシップを締結するなどしています。日本も含めた海外連携についてはどのようなビジョンを持っていますか。
私たちが目指しているのは「架け橋」になることです。ESAは各国にビジネス・インキュベーターのオフィスがあり、宇宙関連の技術を活用しようとしている企業を支援したり、企業同士のマッチングを促して協業に結び付けたりしています。
ここ日本においても、われわれのプレゼンスを高めるためにはコミュニティの方々とお会いして対話を重ねていくことが大切だと考えています。国によって法律も言語も異なるため難しい部分はありますが、接点を増やし情報共有し続けることが互いの発展につながるはずです。
ルクセンブルクと米国にも子会社があるispace社はいいロールモデルかもしれません。各地に拠点を置くことで日本ではJAXAと関係構築しつつ、ESAやNASAとの案件にも関われる可能性があります。こうした動き方は今後他の企業にも広がると思いますが、そこでは現地の実情をよく知る立場からのサポートが欠かせません。
ESAが担おうとしているのはまさにその部分で、インド太平洋地域、なかでも日本の企業などに対して、ESAは支援活動を一段と強化していきたいと考えています。