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宇宙実験の時間短縮は「腕の見せ所」–大西卓哉宇宙飛行士がISS軌道上会見で語った手応え
2025.06.21 15:00
2025年3月から国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在しているJAXAの大西卓哉宇宙飛行士が、6月20日にISS軌道上会見を開き、地上にいる報道陣からの質問に答えた。ここでは微小重力環境での宇宙実験に関するコメントを抜粋してお届けする。
宇宙実験の時間短縮は「腕の見せ所」
ーー今回のISS滞在中に取り組んできた微小重力環境での実験において、手応えのあったものがあれば教えてください。
細胞がどうやって微小重力を検知しているかを調べる実験(細胞の重力感受メカニズムを解明して筋萎縮予防に貢献する「細胞の重力センシング機構の解明」)に一番やりがいを感じました。細胞は生モノなので時間の制約がすごく厳しく、何カ月もかけてやる宇宙実験が多い中、1週間という超短期ミッションで、休日も返上して毎日作業しました。

細胞は人工重力機(1G)にかけられていて、それを止めて無重力になった状態を顕微鏡で観察するのですが、その時間をなるべく短くして新鮮なデータを取りたいというのが、研究者の強いご意向でした。いかに短縮できるかは、私の軌道上での腕の見せ所でもありますし、地上の管制チームとぴったり息を合わせないと難しい。そうしたチャレンジングな時間制約に対して、しっかりと研究者の方が求める結果を出すことができたのは、チームの一員として非常にやりがいを感じました。
ーー宇宙ステーションでの実験の意義について、改めて認識されたことがあれば教えてください。
微小重力環境というのは本当に特殊だなと日々の生活の中でも感じます。たとえば、(会見で使用している)マイクが宇宙に浮かんでいたり、私の体もこうやって自由にプカプカ浮くわけです。けれど、こういった微小重力が24時間365日継続している場所は、地球上にはどこにも存在しなくて、この国際宇宙ステーションを含め、地球低軌道の実験施設の中でしか実現できない環境です。
日頃は重力に隠れていて、地上では観測が難しい事象だったり実験というのは非常に多くあります。この特殊な環境を利用したさまざまな実験成果を、地上の人々の暮らしに還元したり、これから先の国際探査ミッションにつなげたりする新たな技術実証の場として、非常に意義があると改めて感じました。

ーー2030年に国際宇宙ステーションが退役する予定ですが、現在「きぼう」日本実験棟で進められている数多くの実験や研究は、残り5年間でどの程度進められそうでしょうか。また、その後のポストISSへの引き継ぎについてのお考えもあれば聞かせてください。
2030年まで「きぼう」を使い倒していくのは非常に重要なことだと思っています。その先の商業民間宇宙ステーションでの宇宙実験や宇宙医療などにそのまま知見が生かされていくので、いま私たちが持っているこの「きぼう」という施設を最大限活用して、少しでも知見を高めて次のステップにつなげていくことが重要だと思いますし、JAXAに課せられた役割だと思っています。
「きぼう」の中では、(物質を浮かせて高温で溶かす)静電浮遊炉ですとか、小動物実験のプラットフォーム化というものが進んでいます。そういったプラットフォーム化された実験は2030年以降もずっと続いていくと思います。また、二酸化炭素を除去するDRCSという装置が、2025年後半にも「きぼう」に届くことになっていて、その技術実証はこれから先の宇宙探査に活用されることが期待されています。
地上の方々への還元だけでなく、将来の宇宙探査にもつながるような、2本柱の研究をこれから先もJAXAとしては続けていく所存です。引き続き応援をよろしくお願いします。