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AstroXと大林組が万博で「宇宙」を語る–異業種連携や福島でのロケット発射

2025.05.26 14:51

藤井 涼(編集部)

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 空中発射方式のロケット開発スタートアップであるAstroX(福島県南相馬市)は、大阪・関西万博で開催された経済産業省主催のテーマウィーク展示「東日本大震災からのよりよい復興(Build Back Better)」において、5月20~24日までブースを出展。福島での取り組みをまとめたパネル展示のほか、2024年11月に南相馬沖で打ち上げたロケットの実物大モックを展示した。

 期間中の5月21日には、トークセッション「イノベーションで切り拓く日本の宇宙産業と復興」を開催。AstroX代表取締役の小田翔武氏、大林組 技術本部 未来技術創造部の新述隆太氏が登壇し、宇宙へのアクセス手段や、宇宙業界における異業種連携、地域発イノベーションなどについて語った。モデレーターは、UchuBiz編集長の藤井涼が務めた。

トークセッション「イノベーションで切り拓く日本の宇宙産業と復興」

異業種連携で新たな宇宙アクセス手段に挑戦

 トークセッションでは、宇宙へのアクセス手段について両者が語った。現在はロケットでのアクセスが主流だが、新述氏が所属する大林組では、2012年から「宇宙エレベーター」構想を掲げている。一般的な工事で利用される鋼鉄の約16%の重さで数百倍の強度を持つとされるカーボンナノチューブを使った、全長約9万6000kmの宇宙エレベーターを2050年以降に完成させ、宇宙へのアクセスコストや安全性を向上させたい狙いがあるという。「大量の資材をエレベーターで運び、より遠い月や火星に送ることも可能になるかもしれない」と新述氏は展望を語る。

宇宙エレベーターのイメージ(出典:大林組)

 一方のAstroXでは、成層圏まで浮上させた気球から空中発射する「ロックーン」方式のロケットを開発している。地上からロケットを打ち上げるには大気を抜けるために多くの燃料を消費するが、成層圏(約20~30km上空)は空気が非常に薄く、大気抵抗が少ないため、より少ないエネルギーで軌道に到達できるためだ。また、発射台の整備や安全区域確保が不要なため、インフラコストも低くて済む。

万博会場内に設けられたAstroXのブース
2024年11月に南相馬沖で打ち上げたロケットの実物大モックが展示された

 ただし、ロックーン方式で適切に保安区域を確保しつつ、目標軌道に衛星を投入するには、精密に方位角を制御できるロケット姿勢制御が求められる。そこで、大林組などの協力を得て、気球からのロケット発射に必要な姿勢制御装置を開発中。この装置は、建設用クレーンで資材を持ち上げるときに風などで吊り荷が回転するのを防ぐ、大林組の「スカイジャスター」という装置をAstroX向けにカスタマイズしたものだという。

 また、AstroXのロックーン方式のロケット発射技術は、大林組の宇宙エレベーターにとっても重要な鍵になると新述氏は説明する。建設と宇宙という一見関わりのなさそうな分野だが、スカイジャスターというニッチな部分連携から始まり、それが大きな構想にもつながり、予想外の広がりを見せる。まさに異業種連携の好例と言えるだろう。

 「このような異業種連携は、従来の枠組みでは生まれなかったイノベーションを創出する原動力になる。最初から異業種やスタートアップとの連携はないだろうと決めつけるのではなく、積極的に話を聞いてみよう、というオープンマインドな姿勢も重要だと考えている。その結果として、技術開発だけでなく、事業や広報、あるいは採用等といった当初想定していなかった方面にもよい波及効果があった」(新述氏)

AstroXが福島県を拠点にした理由

 今回のトークセッションのテーマである「復興」についてはどうか。AstroXは、2022年に福島イノベーション・コースト構想推進機構によるスタートアップ支援「Fukushima TechCreate事業」の採択を受け、2023年には南相馬市とロケット開発における連携協定を締結した。また2024年8月には南相馬で初の民間ロケット打ち上げを実現している。

 同社の拠点を福島県にした理由について、小田氏は「震災からの復興の中で、積極的に先端技術を支援したり、いかに土地を有効活用するかという、福島県南相馬市の意思決定のスピードが本当に早かったため。(福島に拠点を設けた)その判断は結果的にすごく正解だったと思っていて、いろいろな方にご協力いただき、いまも順調に事業を進められている」と語った。

AstroX代表取締役の小田翔武氏(左)、大林組 技術本部 未来技術創造部の新述隆太氏(右)

 そんな南相馬市には、今まさに日本の宇宙スタートアップが次々と開発拠点などを設けている。三菱倉庫は国内最大規模の宇宙に特化したインキュベーション施設を開設。また、ロケット開発スタートアップのインターステラテクノロジズや将来宇宙輸送システム、SPACE WALKER、宇宙実験のElevationSpaceなどが拠点を設けたり、工場を建設中だ。

 「ロケット打ち上げ試験の際に『14年前の震災で誰もが下を向いたが、(ロケットの打ち上げを見ることで)全員が上を向く日が来るなんて思わなかった』という、心に残る言葉をいただいた。日本の産業を作るつもりで、応援いただいている皆さんの期待を裏切らないようにしたい」(小田氏)

2024年11月に南相馬市沿岸部から打ち上がったAstroXのロケット(shot by 大滝和季)

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