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「ガンダムオープンイノベーション」公認プロジェクト開発のセンサー、ISS船内の環境を測定

2025.04.23 14:30

UchuBizスタッフ

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 東京理科大学や高砂熱学工業など6つの組織で進めるプロジェクト「TEAM SPACE LIFE」(TSL)が開発した小型自律分散型環境センサー(TSL Environment Monitor:TEM)が国際宇宙ステーション(ISS)に運び込まれた。今後、船内の空気環境を測定する軌道上実証を進める。4月22日に発表された。

 TEMは、ミッション「CRS-32」としてSpace Exploration Technologies(SpaceX、スペースX)の無人補給船「Cargo Dragon」に搭載され、同社のロケット「Falcon 9」で米フロリダ州のケネディ宇宙センターから米東部夏時間4月21日午前4時15分(日本時間4月21日午後5時15分)に打ち上げられた。Cargo Dragonは、米東部夏時間4月22日午前8時40分(日本時間4月22日午後9時40分)にISSとドッキングした。

TEM(出典:東京理科大学)
TEM(出典:東京理科大学)

 地上では自然対流で空気が循環するが、ISSのような微小重力環境では、密度の違いによる熱対流が起きにくく、呼吸で排出された二酸化炭素が宇宙飛行士の周りに滞留しやすいという課題があると指摘されている。船内にはさまざまな装置が置かれており、そういった障害物が空気の流れに影響する可能性も考えられているが、実際に空気の流れがどうなっているのかはまだ判明していないとされている。

 TEMは手のひらサイズの小型センサーだが、二酸化炭素の濃度や匂いの成分、温度や湿度などを計測する。ISSに運び込まれた2台のTEMは、ISSの日本実験棟(JEM)「きぼう」に設置され、空気循環のデータを取得する。

 これを基礎データとして空気循環モデルの精度を上げることで空気の流れのより正確な予測が可能になると説明。これらは将来、「機動戦士ガンダム」に登場するようなスペースコロニーの実現にもつながる技術と期待されるという。

 現在、米航空宇宙局(NASA)が主導する国際的な月探査計画「Artemis」が進められており、日本も参画している。Artemisでは、月を周回する有人拠点「Gateway」を建設する予定であり、日本は、Gatewayの重要な構成要素である「環境制御・生命維持システム(Environmental Control and Life Support System:ECLSS)」を担当することが決まっている。

 東京理科大学 スペースシステム創造研究センター(Space System Innovation:SSI)では、将来の有人宇宙活動に向けたさまざまな研究を進めているが、その1つにインフレータブル構造を活用した居住モジュールの研究がある。

 有人環境で最も注意が必要になるのが二酸化炭素の濃度。地上の空気中では400ppm程度。室内だと人間の呼吸から高くなるが、1000ppm以下が基準とされている。1000ppm以上になると、体調不良や認知能力の低下を引き起こす可能性があり、1万ppmでは、意識レベルの低下など、より深刻な健康被害をもたらす恐れがある。

 ISS内ではECLSSで二酸化炭素は除去されているが、濃度は3000~5000ppm程度と高め。微小重力環境下では熱対流がほとんどなく、空間的な濃度の不均一が発生しやすい状態にある。二酸化炭素は健康被害に直結する問題であり、二酸化炭素を監視し、分布を正確に把握することは重要と説明している。

 TEMは、センサー本体と電池ボックスで構成され、その間がハーネスでつながる構造になっている。本体上面には開口部が2つあり、中央には二酸化炭素センサー、その隣にはカメラモジュールが設置されている。匂いや温湿度のセンサーは内部に格納されており、本体側面の開口部から入ってくる空気で計測する。

 本体のケースはアルミ製。一部のパーツは、アルマイト処理でガンダムをイメージした赤色と青色に着色されている。ケースのサイズは、幅85mm×奥行き55mm×高さ35mmと非常に小型。センサー本体には以下の電子機器が搭載されている。

  • マイコンボード=Raspberry Pi Zero W
  • 二酸化炭素センサー=IRR-0433(理研計器)
  • 匂いセンサー=5Q-SSM(アロマビット)
  • 温湿度センサー=BME280(独Bosch Sensortec)
  • 9軸センサー=BMX055(独Bosch Sensortec)
  • カメラモジュール=Raspberry Pi Camera Module

 マイコンボードは豊富なソフトウェアを活用できる「Raspberry Pi Zero W」を採用。二酸化炭素センサーの分解能は20ppm、最大1万ppmまで検出可能。匂いセンサーは5つの膜を採用しており、5種類の膜で匂い分子を検出できる。

 9軸センサーは加速度や角速度、磁方位を計測可能。慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)としてセンサー本体の物理的な動きを把握できる。カメラモジュールはセンサー本体の位置を調べるために使用する。ロボット掃除機などでも活用されている、撮影画像から位置を推定する技術「VSLAM」はセンチメートル単位で位置を特定できる。空気を計測すると同時にカメラの撮影画像も保存しておき、計測位置が分かるようになっている。

 センサー本体は、電池ボックス(単3電池×6本)からの電力で駆動。ISS側とは独立した電源駆動方式であるため、どこにでも置くことができて、移動も容易。電池ボックス側には、USBケーブルで接続した5GHz無線LANモジュールも搭載し、ISS内のPCにワイヤレスで計測データを送信することが可能だ。

 2台のTEMは、1台は壁面に固定、もう1台は移動しながら複数の箇所で計測する予定。高砂熱学工業が中心となって進めた数値シミュレーションの予測と複数箇所で実際に取得した計測データを比較する。シミュレーションの理論を改良し、精度を向上させれば、空気環境の時間的、空間的な分布状況をより正確に把握して、環境の改善につなげられるようになるとしている。

 TEMは電源が入ると、自動でネットワークに接続。10秒に1回程度の間隔で計測し、内蔵したSDカードに記録するとともに無線LAN経由でデータを送信する。軌道上のPCに送信されたデータは、地上側からも準リアルタイムに確認できる。

 TEMの一連の動作はすべて自律的に進められるため、宇宙飛行士の作業負荷は最低限に抑えられていると説明する。将来的には宇宙飛行士が携行し、危険が予測されたときには警告が出すといったあ使い方も考えられるとしている。

 TEMのフライトモデルは1月17日に完成。2月13日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に引き渡しが完了した。5月中旬に2回実験し、完了後は地上に帰還する予定。今回の成果をフィードバックし、ソフトウェアをアップデートした上で2025年度中に追加で2台を軌道上に送り、再び実証実験する計画となっている。

TEAM SPACE LIFE開発体制(出典:東京理科大学)
TEAM SPACE LIFE開発体制(出典:東京理科大学)

 TEMは、バンダイナムコグループが進める「ガンダムオープンイノベーション」(GOI)の公認プロジェクトであるTEAM SPACE LIFEとして支援を受け、SSI主導で開発された。

 TEAM SPACE LIFEは以下が参加している。

  • 東京理科大学 スペースシステム創造研究センター(SSI)
  • 高砂熱学工業
  • 国際医療福祉大学 宇宙医学研究会
  • NTTデータSBC
  • avatarin
  • 大和大学 社会学部 SDG研究推進室

 今回のプロジェクトの体制は以下の通り。

  • 東京理科大学 スペースシステム創造研究センター(SSI):全体とりまとめ
  • 理研計器:超小型宇宙環境センサー
  • 有人宇宙システム(JAMSS):宇宙対応、宇宙実証、宇宙環境での活用
  • 高砂熱学工業:環境モデル化、制御技術
  • 国際医療福祉大学 宇宙医学研究会:環境の健康影響評価
  • NTTデータSBC:データ処理、地上展開
  • 大和大学 社会学部 SDG研究推進室:行動心理学的評価、社会展開
  • バンダイナムコ研究所:センサーの外観デザイン

 GOIは、「機動戦士ガンダム」×「未来技術」で未来の夢と希望を現実化するサステナブルプログラムとして2021年に始動し、公募で集まった15の企業や団体が参画している。

 ispaceが進めている民間月探査計画「HAKUTO-R」のミッション2「SMBC×HAKUTO-R VENTURE MOON」として着陸船(ランダー)「RESILIENCE」にGOIの「宇宙世紀憲章プレート」搭載されている

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バンダイナムコ研究所プレスリリース
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TEAM SPACE LIFE
スペースシステム創造研究センター(SSI)

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