解説

日本の宇宙人材スキルを可視化する「宇宙スキル標準」とは?–業務の種類や活用シーンを解説

2025.02.26 16:17

UchuBizスタッフ

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 内閣府は2025年2月、日本の宇宙分野に求められるスキルや資格をまとめた「宇宙スキル標準(試作版)」を公表した。スキル項目や業務一覧、活用シーンなどを解説する。

出典:内閣府

「宇宙スキル標準」とは?

 宇宙スキル標準は、日本の宇宙開発人材を増やすことを目的に標準的なスキルを整理したもの。企業の採用や育成、評価活動の効率化、個人のスキルアップなどに役立てることを目指す。関連する資格・検定や教育プログラムなどの情報も整理している。

 宇宙スキル標準は「必須事項」ではなく、自身のスキルをさらに磨いていくための「指針」という位置付けとなる。企業や教育機関、自治体などが必要に応じて取捨選択や調整をしながらカスタマイズすることを想定している。今後も定期的な更新・改訂をしていく予定だ。

なぜ、スキルを可視化する?

 宇宙スキル標準を設けるにいたった背景には、宇宙業界の「人材不足」がある。政府は10年間で1兆円を民間企業などに投資する「JAXA宇宙戦略基金」を2024年に始動するなど、宇宙産業の拡大を目指している。一方で、2040年までに約16万人必要とされる日本の宇宙開発人材は現在1万人程度しかおらず、人材確保が喫緊の課題となっている。

 政府は人材不足の要因の1つとして、就業希望者に対して、宇宙産業で求められる人材像やスキル要件を明示できていないことを挙げる。その結果、他業界からは高度な技術が必要な印象があり、ハードルの高さから転職先の選択肢から漏れてしまう。学生も同様に、具体的な就業イメージが湧かないために他の業界を選び、機会損失が起きてしまっていると指摘する。

 また宇宙業界では、開発をリードできるマネジメント力のある管理人材や、宇宙分野ならではの高度技術人材が不足している。ただし、いきなり求める人材を確保することは難しいことから、まずは宇宙業界が求めるスキル要件を整理・提示することで、他業種から広く人材を募集・採用し、業界内で育成していく必要があると説明する。

 最終的なゴールは、日本の宇宙産業の人的基盤の強化としており、宇宙スキル標準はその第一歩目の位置付けとなる。

業務カテゴリやスキルレベル

 宇宙スキル標準では、主要な業務を整理し、関連するスキルを定義した。また、一般的なロールを例示することで、利用者が自身の組織にあった業務に即してロールをカスタマイズできる仕組みになっている。

 宇宙開発においては様々なフェーズがあるが、今回発表された試作版では、まず「事前検討」「設計・解析」「製造」「試験」に関する業務について詳細に整理している。一方で「打ち上げ」「運用・活用」「コーポレート」に関わる範囲は、関連するスキル項目までに留めている。

 業務カテゴリは特性ごとに以下の7つに分類した56個に整理した。

(1)「プログラム創造・組成」3個(宇宙ミッション策定・プログラム計画策定など)
(2)「プロジェクトマネジメント」
5個(進捗管理・コスト管理・リスク管理など)
(3)「システム全体エンジニアリング」
4個(概念設計・システム設計など)
(4)「領域別エンジニアリング」
32個(構造系の製造・推進系の解析など)
(5)「打ち上げ」
4個(射場の整備・打ち上げ調整やオペレーションなど)
(6)「衛星運用」
1個(運用)
(7)「コーポレート」
7個(営業・調達・財務・経理・人事・労務など)

 なお、宇宙業界において標準的に活用されるスキルを整理することを目的としているため、特定の状況下や特定組織のみで活用されるスキルは整理しないという。そのようなスキルが必要な場合は、利用者自らが当該宇宙スキル標準をカスタマイズして利用することを想定している。

 スキルは、以下の8つに分類した94個に整理した。

(1)「プログラム創造・組成」3個(調査・動向把握・計画策定など)
(2)「プロジェクトマネジメント」
10個(コストや品質のマネジメントなど)
(3)「基盤技術」
7個(モデルベース開発・プログラミング・AI・機械学習など)
(4)「設計・解析」
26個(構造やネットワークの設計と解析・安全性設計など)
(5)「試験」
8個(燃焼試験・熱試験・放射線試験など)
(6)「製造・加工」
13個(接着作業・塗装作業・ネジ固着作業など)
(7)「打ち上げ・衛星運用」
9個(飛行安全管理・重機操縦・気象予測など)
(8)「コーポレート」
18個(法令対応・知的財産権・ガバナンス管理など)

 なお、活用する組織によって、役職や1人の人材が担う業務範囲が異なるため、組織間の違いを超えて使われるように、スキル項目やスキルレベルを汎用的な表現でまとめている。

 スキルレベルは、以下4つの評価軸を設定し、評価軸ごとに5段階のレベルを設定した。評価軸についても、利用者が取捨選択して利用することを想定している。

(1)「遂行可能な業務範囲の深さ」
(2)「業務遂行時の自立性」
(3)「資格・検定」
(4)「経験年数」

宇宙スキル標準の想定活用シーン

 宇宙スキル標準の想定活用シーンも示された。個人なら、就職活動おける宇宙関連企業に求められるスキルの理解や、学習すべき学問や資格体系の理解。企業なら、人材採用の際に求めるスキル定義や育成プログラムの検討。教育機関なら、カリキュラム策定にあたり企業が求める人材像レベルの認識や就職支援。自治体なら、施策の検討・推進を担う人材に必要なスキルの定義や評価などだ。

 たとえば、企業は宇宙スキル標準を参照して、標準化されたスキル名称や説明書きを転用することで、ジョブディスクリプション作成作業の効率化が可能になる。具体的に「構造設計・解析に関して、製品等の骨組みなどができる能力。宇宙スキル標準記載のレベル3程度」などと記載することで、応募へのハードルを感じていた潜在的な志望者に対して、門戸を開くことが可能としている。

今後の予定(2025年2月時点)

 2025年度以降は、今回試作した宇宙スキル標準の項目・内容を充実化した「決定版」(日本語・英語)を作成し、今後10年間を見越した宇宙産業スキルの追加を検討する。作成にあたっては、有識者や関係企業などによるステアリング委員会を開催。中長期的な宇宙スキル標準の維持方法・更新体制のあり方についても検討する。

 また、宇宙スキル標準(試作版)の周知啓発をする。ロケット開発などに取り組む大学・高専、企業、関連団体、関連学会、大学コンソーシアムなどに対する説明会やセミナーを開催。宇宙関係企業や人材エージェント、地方公共団体などに対する、宇宙スキル標準の活用・導入に向けた働きかけやハンズオン支援などを実施する予定。

関連情報
内閣府:宇宙スキル標準について

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