インタビュー

獺祭の旭酒造・桜井社長が語った人類初「宇宙酒造り」への思い–米や麹を打ち上げてISSで発酵

2025.02.22 08:00

藤井 涼(編集部)

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 日本酒「獺祭(だっさい)」の蔵元である旭酒造(山口県岩国市)は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」で、人類初の酒造りに挑戦する。2025年後半に、酒米やこうじ、酵母、水を打ち上げて宇宙で発酵させ、2026年中に地球に持ち帰る予定だ。

旭酒造 代表取締役社長の桜井一宏氏

 宇宙空間で醸造する「獺祭MOONー宇宙醸造」は、三菱重工業と愛知県のあいち産業科学技術総合センターと協力して、開発と打ち上げの準備を進めている。現在は、醸造装置の開発に取り組んでいるという。きぼうの活用は、JAXAの有償利用制度で2024年7月に承認された。

 酒造りの工程としては、醸造装置内に酒米(山田錦)、麹、酵母を入れた状態で打ち上げ、宇宙飛行士がきぼうで醸造装置に水を注入することで発酵が始まる。地球の6分1である月面の重力を模擬した環境で約15日間発酵させることで、アルコール度数15%への到達を目標にしているという。

開発中の醸造装置のモックアップ

 きぼうで発酵させたもろみ約520gは冷凍状態で地球に持ち帰り、絞って清酒にした後に、分析に必要な量を除いてグラス1杯分(100ml)をボトル1本にビン詰め。「獺祭MOON–宇宙醸造」として1億円(税別)で販売する予定だ。売上げは全額、日本の宇宙開発事業に寄付するとのこと。

 2025年2月19〜25日の期間中、東京の伊勢丹新宿店で「獺祭 ザ・ステージ」が開催されており、「獺祭MOONー宇宙醸造」の予約販売も行われている。現地に参加していた、旭酒造の代表取締役社長である桜井一宏氏に、人類初の宇宙酒造りへの思いを聞いた。

伊勢丹新宿店で2月25日まで開催中の「獺祭 ザ・ステージ」

宇宙酒造りは「自分たちにしかできないプロジェクトになる」

ーー宇宙空間での酒造りに挑戦することにした経緯について教えてください。

 もともとは高砂電機さん、三菱重工さんなどから「宇宙で何かやってみないか」というお話をいただいたことがきっかけです。最初は宇宙で作るビールの技術監修のような形だったのですが、やはり私たちは酒のメーカーですので、日本酒としての可能性を追求したい。

 人々が月に行き始めると言われている2040年ごろを見据えて、そのための実証実験としてこのプロジェクトを立ち上げました。月の重力を再現して国際宇宙ステーションで酒を仕込む予定ですが、そもそも発酵するのか、ちゃんと酒になるのかも含めてチャレンジです。

「獺祭MOON – 宇宙醸造」のイメージ(出典:旭酒造)

ーー今後は民間の宇宙旅行者も増えていきます。やはり宇宙でのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上なども見据えているのでしょうか。

 そこはすごく大事ですよね。現在は宇宙飛行士の方が研究を目的にISSに滞在しているので、ストイックでもいられると思います。ただし、民間人が本当に宇宙にたくさん行くようになれば、その時にはやはり楽しみや喜びがあって然るべきだと思いますし、そこに向けても取り組みたいと思っています。

ーー「獺祭」というブランド対する世の中の期待感もあると思いますが、宇宙との相性についてはいかがですか。

 そうですね。(「獺祭」の旭酒造なら)何か面白いことをやりそうだし、ここがやるなら納得だと思っていただけています。手前味噌ですが、宇宙での酒造りは自分たちにしかできないプロジェクトになると思います。

ーー「獺祭MOONー宇宙醸造」は1億円とかなり高額ですが、買い手は見つかりそうですか。

 おかげさまで、すでに数名にご興味を持っていただいています。もともと宇宙空間に関心がある方や、人類初のアルコールに魅力を感じていただいている方など、多くの方にプロジェクトを応援していただいています。

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