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高知を新たな「宇宙県」に–天体ツアーで星空の魅力を伝える・谷沙希さん【宇宙のお仕事図鑑】
2025.03.04 08:00
「宇宙関係の仕事につきたいけれど、どんな仕事があるのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。実は宇宙業界は日々変化をしており、新しい職種がどんどん生まれていますが、あまり知られていないように思います。
そこで、この連載「宇宙のお仕事図鑑【コスモ女子】」では、“宇宙を身近な存在に”をテーマにした女性中心の宇宙コミュニティである「コスモ女子」が、宇宙業界のさまざまな分野で活躍する女性を紹介していきます。第9回は、天体ツアーで星空の魅力を伝えている谷沙希さんにお話を聞きました。

【プロフィール】三重県出身。兵庫県姫路市の天文台で従事した後、2013年に高知県四万十市のホテル「星羅四万十」スタッフと兼任で新築された二代目天体観測ドーム運営に着任。顧客に星空を紹介する”星憧(せいしょう)アテンダント”の活動のほかに、星空の写真撮影、天文台のPR活動を行っている。
ホテルスタッフをしながら夜は天体ツアーで星空紹介
ーー谷さんのお仕事内容について教えてください。
天文台の運営をしています。ホテル「星羅四万十」が運営する天文台になりまして、私の所属自体はホテルのスタッフになります。基本的には14時から22時までの勤務です。日中帯はホテル関係の仕事が中心で、客室チェックのほか、ご予約対応をはじめチェックイン手続きをしたり、合間を縫ってミーティングをしたりしています。
その後、夜に1日1回限定で、四万十天文台で行う天体観望会という星を見るツアーでお客様の誘導・案内をしています。ホテル業務を一通り終えてから、夜の時間帯にやっと天文台のお仕事が入ってくるという感じですね。
ーー天文台のお仕事についても教えてください。
天文台は水曜日以外の週6日間開館しており、ツアーに予約したお客様をご案内しています。ツアーの所要時間は約1時間で、いまは最大15名程度でご案内しています。繁忙期の夏は連日のように予約がいっぱいになります。さらに、ふるさと納税の返礼品として、ツアー後に40分ほど天文台貸し切りを行っています。望遠鏡にカメラをつけてお客様に自由に天体の写真を撮っていただき、SDカードごとプレゼントしています。

貸切で天体を見たり写真を撮ったりする機会って中々ないと思いますので、そういった貴重な経験の中で、星の魅力も西土佐の魅力も伝えたいと思っています。
星にも野菜や魚と同じように「旬」がある
ーー星の観察は夏がいいイメージがあります。
天文台のツアー内でも紹介するのですが、お野菜とかお魚と一緒で星の世界にも旬があります。冬の時期は湿度が低く、空が比較的クリアな状態であるのと、明るい星が一番多く見られる季節になります。オリオン座やシリウスなど特徴的な星も多いですね。逆に夏の時期は天の川が見やすく、晴れの日も多いので天の川が見たいなっていう方にはやっぱり夏がおすすめです。
季節を問わず、形がわかりやすい土星はお客様にすごく喜んでいただけるのですが、惑星は通常の星とは違う周期で動いていますし、春夏秋冬にそれぞれの良さがありますね。
ーーどのシーズンが最も人気ですか。
ツアー予約が一番多いのは、8月になります。コロナ前は最大300人/月くらいをご案内していました。基本的にツアーは1日1回開催ですが、予約が多いときは1日2回開催していました。

天文台の運営でやりがいを感じる瞬間
ーーやりがいや楽しさを感じるところを教えてください。
やっぱり自分が好きなことを仕事にできるのが非常に幸せだなと思います。もちろん好きだからこそすごく辛い時もあります。企画が思うように前に進まなかったり、解決困難な課題があったり。でも、ツアーなどでお客様と話をする中で「今日楽しかったよ」「家に帰ってから星見てみますね」と言ってもらえるのがすごく嬉しいです。
以前、女性2人組のお客様で、片方は星が好き、他方は付き添いで来ていたお客様がいました。ツアー帰りに付き添いで来ていた方から「楽しかった。私ね、星なんてどうでもいいと思ってたんだけど、あなたの説明を聞いて、ものすごく楽しくてちょっと興味を持っちゃった。また家に帰ったら見てみるね」と言われたことが一番嬉しかったです。
天文台に来られるすべての方が星好きではないので、私どもの関わりをきっかけに星に興味を持っていただくのが私たちの仕事だと思っています。先程の事例ではそれができたのが嬉しかったです。
ーー大変なことも教えてください。
ホテルスタッフが主な業務になるので、天文台の仕事を100%できる訳ではなく、自分の仕事が後回しになってしまいがちです。四万十天文台は四万十市の持ち物なので、役所とも関わりがあるのですが、市との予算関係の業務が一番大変ですね。
天文台が二代目に新生した2013年は、天文台の運営体制も大きく変わり、観望会の料金設定や開館時間、休館日、利益の設定等、細部に至るまで決定に時間がかかりました。2018年は四万十市の「星空の街」制定30周年と、天文台も5周年になるタイミングが重なったので、天文台のリニューアル記念日と一緒にPRイベントをしたかったのですが、予算がなかなかつかなくて講演会もできないまま終わってしまいました。
しかし、同年6月ごろ、高知県で有名な天文台「芸西天文学習館」の関係者から天文講演会のお誘いをいただいたのをきっかけに、「あのとき何もできなかった分、何とかしてイベントをやりたいんです」と話をしたら、快く協力してくださることになりました。そして同年12月にコラボイベントを開催し、観望会も大盛況でした。結果的にそういう1つのイベントとしていろいろと経験ができて、5〜10年後も見据えるように成長できたのは、大変ながらも達成感があった出来事です。
ーープレッシャーもあるけれど、やりがいも感じているのですね。
おっしゃるとおりです。四万十天文台はふるさと納税をきっかけに再生ができた天文台です。同じ天文台でも、予算や運営体制の都合で閉館をせざるを得なくなってしまった施設も結構あります。四万十天文台の復活が、天文台業界の中でいいきっかけになれたらいいなと思っています。受け継いだからには後世まで残していく責任を感じていますので、長く繁栄させたいと思ってます。
月観測をきっかけに星関係の本を読みあさった子ども時代
ーー大学では星の勉強をされていたのでしょうか。
大学では理学部物理学科を専攻しましたが、実を言うと子どもの時から理数系の、特に数学がものすごく苦手でした。理科の中では自然関係の分野だけがすごく好きだったんです。高校の進路選択で理系を希望してたのですが、成績を見た先生が自宅に連絡してきて、親に間違いがないか確認されるくらい理系の成績はイマイチでしたね(笑)
ーー天文関係に進むことを決めていたのでしょうか。
小学4年生までは全然天文関係に興味がなくて、小学校2〜3年生の時にヘールボップ彗星や百武彗星を見たはずですが、まったく記憶にありません。当時は魚など水中にいる生き物がすごく好きで、星とかけ離れたところに興味を持っていました。
小学校4年生になって父親が小さい望遠鏡で月を見せてくれたんです。大気のゆらぎの関係で、お月様がゆらゆらっとしてるところを見て「生きものみたい」って思ったところから興味を持ち始めてからは、近所の図書館で星関係の本をたくさん借りて、どんどんハマっていきました。
高校生に入る年の春休みに参加した東京大学主催の高校生向けイベント「銀河学校」と、同じ年の夏の国立天文台主催「君が天文学者になる四日間」に参加して、やっぱり天文って面白いと確信してから、最初は天文学者になりたいと思っていました。 高校大学と理系で進むのですが、たまたま大学3年生のときに学内に天文台ができたのです。地域向けの天文台イベントの学生スタッフに採用してもらい、天文には研究以外の働き方があることを体感し、志すようになりました。
ただ、天文台の仕事はそもそも募集がすごく少ないので、新卒では難しいと思っていましたが、「姫路市宿泊型児童館『星の子館』」で空きが出る話をSNSで知り、ご縁があって仕事をさせてもらうことになりました。
ーー学生時代から活発にいろいろな活動をされていますが、昔からチャレンジ精神があったのでしょうか。
両親が自然が好きで、私も外で遊ぶのは好きでしたし、活発な方でした。子どもの時はザリガニやカエル、トカゲを捕まえるような、自然児というか、アグレッシブな方だったかなと思います。
高知を新たな「宇宙県」にしていきたい
ーーご自身の今後の展望をお聞かせください。
主な仕事は観望会やフロントのお仕事ですが、天文台自体を教育委員会が管理しているものもあって、年に1回、小学生向けの課外授業をさせてもらっています。授業を受ける子どもたちが星に興味を持つきっかけを作りたいですね。
あと、天文台のお仕事は、プラネタリウムと比べても女性の割合がすごく少ないんです。私は出産後も公開天文台の仕事に携わることで、これから公開天文台施設で働きたいと思う若い世代の女性たちに「ママになっても天文台で働けるんだ」という一例となれるように努めたいです。

星の観測は夜が中心になりますが、どうしても夜の女性の外出は注意が必要です。特に女性の方向けに安心して星を見ていただける場所をうちの天文台で提供したいです。愛媛県の久万高原町にある天文台では夜空が好きな女性の方へのイベントをされていて、私も同じような機会を作りたいと考えています。たとえば、女性限定で天文台貸切や、望遠鏡を使った観測や撮影イベントを開催してみたいと思っています。
あとは、高知県を星空の綺麗な場所だと認知してもらえるようにしたいです。日本だと長野県が宇宙県と言われるくらい星が綺麗で有名なんです。私自身も子どもの頃に行った時、天の川のあまりの綺麗さにすごく感動したのですが、高知県の四万十の星も負けてないなって思っているんです。
いつかは、高知県も長野県みたいに星がすごく綺麗なところなんだということを、「星見るなら高知県」みたいメッセージで知ってもらうことが私の目標になります。
〇宇宙のお仕事図鑑とは?
このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで「宇宙のお仕事」を発信していきます。
〇コスモ女子とは?
『宇宙を身近な存在に』をテーマに活動している女性コミュニティです。勉強会やイベントを毎月開催。星や天体の楽しみ方から、宇宙旅行・教育・宇宙ビジネスまで幅広いテーマで開催しています。\世界初!/女性中心のチームでの衛星打ち上げに成功!