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KDDIやローソン、秩父でスターリンク活用したドローン配送–物流CO2排出を6割削減へ

2025.02.13 09:00

藤川理絵

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 KDDI、KDDIスマートドローン、ローソン、秩父市、一般社団法人ちちぶ結いまちの5者は2月12日、ローソン店舗を拠点とした共同輸配送と、ドローン配送によりCO2排出量削減を推進する実証実験の様子を公開した。飛行ルートの一部がモバイル通信エリア外になるため、「Starlink可搬型基地局」を設置してエリア化し、山間部における片道7.1km(12分)のドローン配送を成功させた。

 本実証は、5者が環境省の「令和6年度運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業」に採択され、本年度より3か年でビジネスモデルの検討から社会実装まで取り組むことで、物流輸配送で年間に排出されるCO2の6割削減を目指す。

ローソン秩父荒川上田野店に共同配送された荷物と店舗商品を載せ、ドローンが飛び立つところ

 初年度の実証期間中には、ローソン店舗から複数ルートでの配送や、共同配送トラックと連携したドローン配送を実施。また、ドローン配送の提供価格最適化には必要不可欠な1対多運航(1人で複数機を同時に遠隔運航管理する)に向けて、まずは1対2運航を実施したという。

報道公開では、右から環境省 水・大気環境局 モビリティ環境対策課 脱炭素モビリティ事業室 室長の中村真紀氏、ローソン インキュベーションカンパニーの戸津茂人氏、秩父市長の北堀篤氏KDDI 事業創造本部 兼 KDDIスマートドローン ソリューションビジネス推進2部の森嶋俊弘氏の4名が挨拶した

高齢化率が35%超の秩父市–ドローン配送を8年継続

 本事業の背景には、運輸部門におけるCO2排出量削減の重要性がある。というのも、日本のCO2排出量のうち運輸部門が占める割合は18%で、各輸送分野での動力の電力化や、輸送単位当たりのCO2排出量を削減など、脱炭素化が求められているのだ。

 環境省の水・大気環境局 モビリティ環境対策課 脱炭素モビリティ事業室 室長である中村真紀氏は、「とりわけ過疎地域はトラックの積載率が低く、より効率的な輸配送が必要だ。複数社の共同輸配送とドローン配送によって物流の効率化を図る本取り組みは、非常に重要になる」と話した。

 一方、秩父市の高齢化率は35%以上で、「労働人口の減少」「交通インフラの老朽化」「災害リスクへの対策」の3つの課題に直面している。秩父市では、全国の地方自治体に共通するこれらの課題を解決するモデルケースを作ることを目指し、2016年からドローンなどの先端産業分野の取り組みを推進してきた。

 特にドローン配送に関する取り組みは、これまで約8年にわたり継続しており、国による「デジタルライフライン全国総合整備計画」のアーリーハーベストプロジェクト「ドローン航路」整備の先行地域にも選定された。

 秩父市長の北堀氏は、「令和4年度には、市内山間地域の中津川地区における県道の土砂崩落に伴い孤立した地域住民向けに、Starlinkを活用した国内初となるドローンによる定期配送を実施した。そのときにも、KDDIスマートドローンさまには大変お世話になったことを改めてお礼申し上げたい」と述べた。

 本実証は5者が連携して行う。事業全体の統括はKDDI、共同配送はちちぶ結まち、ドローン運航はKDDIスマートドローン、店舗活用はローソンが主導し、ビジネス化は5者が共同で検討する構えだ。共同配送とドローン配送の拠点としてローソンを活用する。ローソンに荷物を集約することで効率化を図り、宅配物とローソン商品を同梱して配送することで消費者の利便性向上も図る。

 ちなみに秩父市では、複数の物流会社が参画した共同配送や貨客混載の実証も実施されてきた。大滝地区においてはすでに、ちちぶ結まちなどが共同配送を手がけており、本実証でもこのスキームを発展的に活用していくという。

秩父市で「Starlink可搬型基地局」を活用する意義

 このような中、取り組みの肝になるのが衛星通信Starlinkだ。なぜなら、ドローン配送は数km以上先まで荷物を届けるため、モバイル通信を使った遠隔運航管理が基本となるのだが、秩父市は山間部が非常に多いため飛行ルートの一部がモバイル通信エリア外となるケースが少なくない。そこで、モバイル通信の圏外箇所にStarlink基地局を設置してエリア化することで、安定的なドローン遠隔運航管理を実現するというわけだ。

 KDDI 事業創造本部 兼 KDDIスマートドローン ソリューションビジネス推進2部の森嶋俊弘氏は、「2年前の土砂崩落のときも、Starlinkを設置して孤立エリアへのドローンによる定期配送を実施したが、当時は今回のような可搬型基地局ではなかったので準備や運用がとても大変だった。本実証は当時の経験を踏まえて、より手軽に設置できるStalink可搬型基地局と電力源としてペロブスカイト太陽電池などを活用した」と説明した。

Starlink受信アンテナと、携帯電波に変換する無線機
京都のエネコートテクノロジーズ社製のペロブスカイト太陽電池(手前)と、神奈川のPXP社製のカルコパイライト太陽電池(奥)。日中は、Starlink受信アンテナ、無線機、携帯電波アンテナの電力を全て賄うことができる

 Stalinkを活用することで、光ファイバーケーブルを引けない場所でもモバイル通信が可能になる。さらに可搬型基地局や、軽量で折りたためる太陽電池であれば、設置のハードルが下がるうえに、防災の備えとしても有用だ。ちなみにStalinkのカバー範囲は地形によって異なるが、通常は半径500mから1km程度、見通しがよい場所では半径1キロメートル以上の電波が届くこともあるという。森嶋氏は、「ドローンの活用をフェーズフリーで進め、社会実装を進めていきたい」と話した。

 当日のドローン配送は、ローソン秩父荒川上田野店から秩父市老人福祉センター渓流荘への1ルートで片道飛行した。使用機体はPRODRONE社製「PD6B-Type3」で、KDDIスマートドローンが開発した遠隔運航管理システムを用いた。配送物はローソン商品と宅配物の模擬品、総重量は約3.3kgだった。

PRODRONE社製「PD6B-Type3」
秩父市内よりドローンの遠隔運航管理を行った

 ドローンが運んだローソン商品は、到着時まだ温かかったという。ローソン インキュベーションカンパニーの戸津茂人氏は、「ローソンは、移動販売車は36都道府県の128店舗、フードデリバリーサービスは47都道府県の7400店舗で導入するなど、ラストワンマイル配送にも力を入れている。過疎地域の課題解決に向け、ドローンを活用したデリバリーについても、コスト面での課題の検証などを重ねて実用化を図り、将来的には全国展開を目指したい」と話した。

ドローンが山間にある渓流荘へ飛来したところ

 ちちぶ結いまち 代表理事の深田雅之氏は、「前職から秩父市のドローンの取り組みに関わってきて、これはやり切らなくてはと起業した。中山間地では買い物が困難な高齢者が多く、トラックでも行きづらい場所が出てきているので、ドローンを活用した配送はより重要になる。今回の実証実験を通じて地域の課題解決に貢献し、全国のモデルケースとなることを共に目指したい」と話した。

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