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スターリンク衛星とauスマホの直接通信に初成功–沖縄久米島での実証を現地取材

2024.10.24 10:47

藤井 涼(編集部)

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 KDDIは10月23日、Starlink衛星とauスマートフォン(Android)を直接通信する実証実験を初めて実施し、成功した。沖縄県の久米島において、Starlinkによってスマホ間でSMS送受信ができることを確認した。なお、同日は米国からSpaceXの担当者も駆けつけた。

左から、KDDI 取締役執行役員常務CDOの松田浩路氏とSpaceX シニアパートナーシップマネージャーのダミアン・イヌス氏(写真提供:KDDI)

Starlink衛星が「基地局」に–2024年内にサービス開始

 Starlinkの衛星通信を利用するには、専用のアンテナを設置する必要があるため、当然ながらアンテナがない場所では利用できない。今回実証実験した衛星とスマートフォンの直接通信では、Starlink衛星1つ1つが基地局の代わりになるため、衛星が通過する場所であればどこでも使えるようになる。なお、通常のStarlink衛星は地上約550Kmあたりを飛んでいるが、スマートフォン直接通信向けの衛星は約340Kmを飛んでおり、より地上に近い。

スマートフォンとの直接通信向け衛星は、通常のStarlink衛星よりも低い地上約340Kmを飛んでいる(出典:KDDI)

 KDDIとSpaceXは、Starlinkとau通信網を活用することで、空が見える状況であれば、圏外エリアでも通信できる衛星通信サービスを、2024年内に開始する予定。これまで、5Gや4G LTEでは提供が難しかった、山間部や島しょ部を含む日本全土にauのエリアを拡張したい考えだ。今回の実証を通じて取得したデータを、SpaceXとともに調査・検証していくという。

 なお、Starlink衛星とスマートフォンの直接通信は当初、Android 15以降のOSを搭載したスマートフォンから提供する。iPhone向けの提供については、現在アップルと協議中だという。

沖縄上空を飛行するStarlink衛星と直接通信–実証実験の様子

 10月23日の久米島の天候はあいにくの曇り。さらに実証実験の会場となった登武那覇城跡公園には、朝から強い雨風が吹き荒れていた。KDDIの担当者らは時折、実験機材に雨よけのカバーをかけながら、スマートフォンへの直接通信と、SMSの送受信に臨んだ。

実証実験当日の久米島はあいにくの天気

 実証実験をした15〜16時には、1時間に15機ものStarlink衛星が久米島の上空を通過。そのタイミングにあわせて、圏外状態のAndroidスマートフォンの画面に、「SpaceX-au」の文字と、人工衛星型のピクト(サテライトモード)が表示された。時間にして接続1回につき数分程度だったが、スマホとの直接通信を確認することができた。

表示が「SpaceX-au」に切り替わった(写真提供:KDDI)
人工衛星のピクトが表示された(写真提供:KDDI)
1時間に15機ものStarlink衛星が通過
「Star Walk2」アプリでStarlink衛星が久米島の上空を飛んでいることを確認できた

 続けて、Starlink衛星と直接通信している状態のスマートフォン2台を使って、日本初のSMS送受信デモンストレーションを実施。こちらも無事に成功し、「Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信によるメッセージです!」「届きました!実証成功ですね!」といったメッセージをやりとりした。

実証端末でSMSの送受信にも成功した(写真提供:KDDI)

国内提供に向けて「制度面」と「技術面」の課題を解消へ

 SpaceXは、地上アンテナが必要ない衛星直接通信(D2C:Direct To Cell)サービスのグローバルパートナーとして、米T-Mobileや豪OPTUSなど世界8カ国7キャリアを認定しており、アジアではKDDIが唯一のパートナーとなっている。

出典:KDDI

 2024年の9月と10月に米国に大型ハリケーンが上陸した際には、SpaceXとT-Mobileが米国連邦通信委員会(FCC)の特別承認を受け、被災地において衛星直接通信のSMS送受信を提供可能にした。その結果、120件以上の緊急速報、12万件以上のSMSが送受信されたという。

(出典:KDDI)

 KDDIでは衛星直接通信の提供に向けて、WRC(世界無線通信会議)においてスマートフォン周波数を衛星でも利用するための共用検討に向けた国際的な制度化を推進。また国内では、電波関連法令の整備に向けて、他システムとの共用検討結果などを提供するなどしてきたという。

(出典:KDDI)

 スマートフォン端末への対応についても、既存のauスマートフォンに搭載済みの2GHz帯「Band1」を活用することで、手持ちのスマートフォンで誰でも衛星直接通信ができる状態にしていくと説明する。

(出典:KDDI)

 KDDI 取締役執行役員常務CDOの松田浩路氏は、「新しいチャレンジをする時や、制度を変えていく時は、技術実証をして1つ1つ着実にハードルをクリアしながら示していくことが非常に大事」と、今回の実証実験の意義を語る。久米島を選んだ理由については、Starlink衛星の軌道の兼ね合いから、沖縄の離島が実証価値の高い地域だったと説明した。

(取材協力:KDDI)

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