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北海道の宇宙港「HOSPO」を軸に産業をどう作るか–三井物産、室蘭工業大学、北海道庁が語る

2024.10.21 15:46

藤川理絵

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 北海道発の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2024」が10月10日に帯広で開催された。最終セッションでは、三井物産、室蘭工業大学、北海道庁が登壇し、「産学官で進む宇宙港HOSPOを中心としたまちづくり」と題してパネルディスカッションを行なった。モデレーターはUchuBiz編集長の藤井 涼が務めた。

セッション「産学官で進む宇宙港HOSPOを中心としたまちづくり」の様子 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

産学官それぞれの「北海道」での取り組み

 まずは産学官がそれぞれの視点で、宇宙産業をどのように盛り上げようとしているのか、各者が最新動向を紹介した。三井物産の宇宙事業開発室 室長である重枝和冨氏は、「当社の宇宙分野での取り組みはまだ7年目。ようやく宇宙のことが分かってきた。あらゆる産業にネットワークがある総合商社だからこそ、宇宙で果たせる役割は大きい」と話す。

 三井物産の宇宙事業は三本柱から成る。1つめは「ロジスティクス」。衛星のサプライチェーン強靭化や製造段階でのボトルネック解消などだ。2つめは「衛星ソリューション」。衛星データを活用した産業を支援する。3つめは「ステーション」。2030年のISS退役後、「きぼう」の後継機となる日本モジュールの構築など、低軌道経済圏の創出を目指す。

 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

 北海道における取り組みとしては、「三井物産共創基金」の第1号案件として、SPACE COTANが進める民間ロケット打上げ射場整備支援に1億円を助成。また、北海道大樹町、三井物産北海道支社、SPACE COTANで、宇宙港「北海道スペースポート」(HOSPO)の発展と地域活性化に向けた包括連携協定を締結した。まちづくりの一環として、衛星データを活用した森林J-クレジットの組成や、新たな収益源の獲得と宇宙事業への収益還元モデルも検討中だという。

 室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究センター長・教授の内海政春氏は、「2004年に航空宇宙分野の研究を開始した。もともとの鉄産業から、航空宇宙産業へのシフトが進んでいる」と挨拶した。

 同大学では、室蘭市近郊に広大な実験場「白老実験場」を所有しており、特に全長300mの高速走行軌道試験設備は国内唯一で、名だたる宇宙企業が利用しているという。また、インターステラテクノロジズとの共同研究や、東北大・北大と連携した衛星「HOKUSHIN-1」の開発なども進められている。

 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

 「北海道を宇宙関連の拠点に」という目標を掲げ、2020年には大樹町と連携協定を締結。今後は、超音速(マッハ2程度)まで加速できる全長3000m級のロケットスレッド軌道も計画中で、企業や他大学との協働をさらに進める構えだ。

 北海道庁 経済部産業振興局長 兼 スタートアップ推進室長の安彦史朗氏は、「道庁では宇宙産業の振興に加えて、スタートアップの支援や育成を強化するため、2年前にスタートアップ推進室を新設した」と話す。新技術・新製品の開発、技術力の強化、市場開拓、人材育成と確保、GX(グリーントランスフォーメーション)への対応など、幅広く企業を支援しているという。

 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

「宇宙港を核とした産業集積」に向けてやるべきこと

 続くパネルディスカッションでは、「宇宙港を核とした産業集積」をテーマに話し合った。最初に三井物産の重枝氏が、HOSPO建設による経済波及効果について説明した。

 ロケットの打ち上げが高頻度になるという前提で、「10年で約4000億円近い経済効果がある。75%が宇宙産業、25%が非宇宙産業から生まれる予測だ。2033年以降この割合が逆転し、2040年以降はさらに桁が変わってくるだろう」と話した。さらに、「P2P輸送」や「アジアの玄関口としての役割」の可能性にも言及した。

 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

 室蘭工業大学の内海氏は、これに対する課題として、「既存の地場産業である鉄関連から、宇宙産業への関わり方が不透明」「道内サプライチェーンの強化、道外からの誘致」などを挙げた。また、「インターステラテクノロジズとの協働における、中小企業がロケット部品の製造に挑戦する機会」や、「宇宙産業の可能性の広範さ」などのメリットをもっと周知することが重要だと述べた。

 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

 北海道庁の安彦氏は、「宇宙関連ビジネス創出連携会議」など、道庁主導の多様な施策を紹介した。特に企業立地補助金は、新設で最大15億円、増設でも最大5億円と大幅拡充しており、企業誘致を強力に進めているようだ。「2030年代前半には、市場規模4兆円から倍増させる」という国の目標に対し、北海道知事の鈴木直道氏を通じて国にも提言しているという。

北海道庁 経済部産業振興局長 兼 スタートアップ推進室長の安彦史朗氏 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

 三井物産の重枝氏は、「JAXA基金(宇宙戦略基金)やSBIR(Small Business Innovation Research)など、政府の支援に応える責任が、民間企業に求められている。宇宙ビジネスはまだ不確実性が高いが、宇宙特有のリスクが徐々に解消されつつある。経営陣には胆力を持って宇宙ビジネスを支えていただきたい。企業は得意な領域から徐々に宇宙産業との関与を広げ、シナジーを生み出すことが重要だ」と熱いメッセージを送った。

三井物産 宇宙事業開発室 室長の重枝和冨氏 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

 また、室蘭工業大学の内海氏が「このイベントには高校生や小中学生が参加していない」と指摘し、次世代宇宙人材の育成状況を危惧し合う一幕もあった。他方、北海道では千歳市で進む半導体工場建設のほか、データーセンター、蓄電池、水素など、広大な土地を生かした新たな産業集積が加速中だ。宇宙産業との連携に向けた舵取りも重要になる。

室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究センター長・教授の内海政春氏 (C)北海道宇宙サミット実行委員会

 モデレーターの藤井は、「HOSPOを中心としたまちづくりとは、北海道全体でやっていくということなのだと思う」とコメントし、次回のさらなる産学官の連携に期待を寄せた。

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