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X線観測衛星「XRISM」、定常運用に移行–平安時代に爆発した超新星の残骸もすっぽりと撮影
2024.03.04 17:27
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月4日、X線観測衛星「X線分光撮像衛星(X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission:XRISM)」全体と搭載されているミッション機器などの機能を確認、初期機能確認運用から定常運用に移行したことを発表した。
今後の定常運用では、まず衛星に搭載された観測機器の特長を生かす天体観測、観測精度を高めるための較正、初期性能検証を実施。その後、世界中の研究者からの観測提案に基づいた天体観測を開始する。
XRISMは、当初の目標を上回る分光性能など優れた機器性能を軌道上で発揮。今後、さまざまな新発見がもたらされると期待されている。XRISMの初期科学観測データの一部も発表された。
XRISMに搭載されている「軟X線分光装置(Resolve)」で取得したペルセウス座銀河団中心部のスペクトルについて、プラズマの温度や速度を精密に測定することで、宇宙の進化を支配する暗黒物質(ダークマター)の分布や動きが分かるという。銀河団がどのようなプロセスで作られ、今後どのように進化するのかを明らかにできると期待できるという。
ペルセウス座銀河団は地球から約2億4000万光年のところに位置している、X線で最も明るく輝く巨大な銀河団。ペルセウス座は「W」の文字の形で有名なカシオペア座のすぐ隣に見える。
XRISMに搭載されている「軟X線撮像装置(Xtend)」で取得された超新星の残骸「SN 1006」のX線画像を見ると、爆発の際の核融合反応で作られた元素の量や残骸が膨張する様子を詳しく調べることができるという。
SN 1006は1006年に爆発したとみられる超新星爆発の残骸。おおかみ座の方向に地球から約7000光年の距離にある。爆発から1000年あまりをかけて直径65光年という大きな球状の天体に成長し、現在も秒速5000km(時速1800万km)で膨張し続けている。
1006年といえば、紫式部や藤原道長が活躍した時代。超新星は、太陽の10倍以上という大質量星や白色矮星の大爆発で突然明るく輝き出す天体。SN 1006は白色矮星が起こした大爆発と考えられている。
白色矮星は、太陽のような恒星が寿命を迎えた後に残される高密度天体。白色矮星が別の星と連星を構成する場合、相手の星からの物質降着などの影響を受けて核融合暴走が起こり、そのエネルギーで星全体が爆発する。
Xtendの広い視野のおかげで、撮影画像の中にすっぽりとSN 1006を収めている。現在のSN 1006は、見かけ上の大きさが満月とほぼ同じで約30分角の視直径を持っている。
ファーストライト以降に獲得できた科学観測データの一部は、研究者向けウェブサイトで公開されている。観測提案を検討する世界の研究者がXRISMの性能を正確に把握することで、より良い提案につなげることを目的にしている。XRISMの観測成果については随時ウェブサイトなどで知らせるという。