インタビュー

非宇宙企業が次々と参画する共創プラットフォーム「クロスユー」の仕掛け人–日本橋を宇宙ビジネスの集積地に

2023.10.27 12:09

藤井 涼(編集部)藤川理絵

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 「宇宙ビジネスの中心地・日本橋を舞台に、加速する宇宙産業のオープンイノベーションを推進し、さらなる宇宙ビジネスの拡大を目指す」――。こう銘打って2023年4月に東京・日本橋で本格始動したのが、宇宙ビジネスの共創プラットフォーム「クロスユー」だ。

 世界中で盛り上がりを見せる宇宙産業に関心を持つ、日本企業やその担当者の参入を後押しするべく、気軽に情報交換ができるコミュニティ運営や、コワーキングスペース・ミーティング施設の提供、さまざまなテーマや参入フェーズに合わせたイベントの開催など、幅広く活動している。

一般社団法人クロスユー 事務局長の米津雅史氏

 そんな一般社団法人クロスユーで事務局長を務めるのが米津雅史氏だ。長い間、国家公務員として国のルールメイキングや、オープンイノベーション支援に携わってきたが、2年前に起業。「中立的な立場から宇宙関連産業を活性化させるオープンプラットフォーム」というクロスユーの理念に共感して事務局長に就任した。立ち上げから約半年の手応えや今後の展望などを同氏に聞いた。

東京・日本橋が「宇宙ビジネスの集積地」に

 クロスユーは、三井不動産が日本橋の再生を目指して進めてきた宇宙ビジネス創出活動を、より中立的・公益的な立場へと変え、業界の交流やコラボレーションを促進することで、日本の宇宙ビジネスを拡大することを目指して設立された非営利団体だ。

 2023年2月より新規会員募集を開始し、活動拠点として「X-NIHONBASHI TOWER」に加え、新たに4月にオープンした新拠点「X-NIHONBASHI BASE」にてシェアオフィス、コワーキングスペース、会議室、バーラウンジ、オンライン配信対応のスタジオなどを用意して、会員向けのイベントや勉強会を頻繁に実施している。

コワーキングスペース(提供:クロスユー)

 日本橋といえば、江戸時代から薬草や薬を扱う“薬種問屋”が集まり、いまでも大手製薬会社が本社を置くなど、大小さまざまなライフサイエンス事業者が集積しているが、最近ではクロスユーが核となり、宇宙企業や有識者の知もまた日本橋に集まってきているという。

 「クロスユーは会員制のコミュニティであるため、皆さまの熱量が非常に高い。最近では、大企業で新規事業を担当されていたり、社内で宇宙事業をリードするべき役職の方が、ネットワーキングや情報収集などを目的に、業種を問わず数多く入会されている」(米津氏)

カジュアルにコミュニケーションできるエリアもある(提供:クロスユー)

 クロスユーの会員は3種類ある。「特別会員A」は、従業員301名以上の大企業が対象で年会費は25万円。「特別会員B」は、従業員300名以下の中小企業または非営利団体などが対象で年会費は5万円。「特別会員C」は個人が対象で年会費は5000円だ。(いずれも別途入会金が必要)

 「X-NIHONBASHI TOWER(日本橋三井タワー7階)」と「X-NIHONBASHI BASE(日本橋アイティビル3・4階)」にある施設を、ランク規定に準じて利用できるほか、希望する企業はクロスユーの公式サイトにロゴ掲載することも可能だ。 「会員数は2023年10月現在、216まで拡大している。大きな特徴は、非宇宙系が約7割、大企業が約2割を占めていて、まさに新規事業を生み出そう、スケールさせようとしている民間企業のキーパーソンが大集合していること」(米津氏)

クロスユーに“宇宙ビト”が集まる「3つの理由」

 「日本橋には、宇宙ビジネスのチャンスがある」。そんな空気が密かに醸成されつつあるわけだが、その求心力は何なのか。米津氏の話から3つのことが見えてきた。

 1つは、クロスユー運営メンバーの「層の厚さ」だ。理事長の中須賀真一氏は、東京大学大学院工学系研究科教授で小型衛星の権威。その中須賀氏が「非宇宙企業と宇宙産業を繋ぎ、新しい可能性にチャレンジする」というビジョンを掲げて組織を率いるからこその運営体制だという。

2023年2月に開催された設立会見の様子。左から三井不動産 取締役 専務執行役員(現代表取締役社長)でクロスユー 専務理事の植田俊氏、三井不動産 代表取締役社長(現代表取締役会長)の菰田正信氏、クロスユー 理事長の中須賀 真一氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長の山川宏氏、クロスユー 事務局長の米津雅史氏

 具体的には、産学官から集まった15名の有識者が「運営諮問委員会」を構成して、組織運営に戦略的なアドバイスを提供する。さらに、20名もの宇宙関連領域における研究、開発、経営、法律、財務などのスペシャリストたちが「サポーター」として日々活動中だ。

 「宇宙ビジネスは多様な領域があるが、さまざまな分野の第一線で活躍されている非常に強力な皆さんが、クロスユーの理念と活動にコミットして、我々の日々の活動にお力添えいただいている」(米津氏)

 もう1つは、三井不動産が宇宙ビジネス創出活動を推進してきた中で構築した、「多様なつながり」だ。実際に、会員募集やイベントの告知でも幅広い非宇宙企業にリーチしやすいという。「宇宙ビジネスを拡大していくためには、必ずしも宇宙を専業としない非宇宙系の大企業の皆さんの力が必要。これまでのネットワークで、そうした方々とのつながりも多方面に広がっている」(米津氏)

勉強会のほか会員同士が交流できるイベントなども開催する(提供:クロスユー)

 最後の1つは、米津氏が率いる事務局メンバーの「つなげる努力」だ。米津氏自身、新規入会者とはできるだけ顔を合わせて会話をするよう心がけているという。課題や悩みを聞き、自身のなかでデータベース化することで、役立ちそうな情報や、互いに助けになる相手が見つかったときには、積極的に間に立って紹介できるからだ。

 「宇宙の新規事業を立ち上げて試行錯誤中という方や、本当にPLに響くような事業に育てる発展段階の方が、クロスユーの会員さんには多い。その方々を外から応援していくことこそ、場所や機会の提供だけではない、我々が存在する価値だと考えている」(米津氏)

宇宙ビジネスの「きっかけづくり」を

 特に力を入れているのが、非宇宙企業への支援だ。非宇宙とは、たとえば自動車メーカーが自社の技術を月面探査車作りに転用するなど、宇宙を専業とはしておらず、主力の製品やサービスが別にある企業を指すという。

 「非宇宙系の日本の大企業には、すごい技術と人と物と金が集積している。その方々がいま、これからの宇宙ビジネスの市場の伸びを予想して、次々と宇宙分野の正式な組織を立ち上げている。だからこそ、いま突破していかなければ(日本の宇宙市場が)本当に大きくならないという危機感がある。人々の生活や社会にもインパクトを与えるような、ビジネスのきっかけづくりが必要だと考えている」(米津氏)

 たとえば、公共団体など地域の課題を明確に把握している会員は、宇宙も含めて地域の課題解決に活用できるサービスや企業を求めており、ニーズドリブンでの産業創出につなげられる。一方で、製品やサービスの認知を広げたいという会員は、クロスユーの会員同士や、もともと三井不動産が活動してきた中でつながってきた多様な企業へリーチしていくことも可能だ。

 一般向けも兼ねたイベントや勉強会を頻繁に開催するほか、会員から「非公式に勉強会をしたい」と、相談を持ちかけられることも多いという。ビジネスパートナーのマッチングなども、きめ細やかに対応する。

 また、クロスユーのサポーターには、新規事業や新組織の立ち上げ経験者が多いことから、彼らに相談する、話を聞く機会を設けることで、新規事業は初めてという会員に、「暗黙知」が伝播するなど、クロスユーの存在自体が宇宙ビジネス推進者の外部支援組織になりつつあるという。

 「会員さん同士も、共通する想いや課題があると心を開きやすい。日頃から皆さんの生の声をお聞きしているので、我々としてはできる限り、それぞれにふさわしいやり方で、ビジネスのきっかけづくりをしていきたい」(米津氏)

「情報提供」から「化学反応」へ

 「今後は、もう一歩踏み込んで、ビジネスの共創や、課題の共通化なども進めたい」という米津氏。実際にプロジェクトとして進みそうな案件も、すでに複数抱えているという。同時に、グローバル、アカデミア、地域など、コミュニティのさらなる多様性の向上を図りつつ、公的な制度や枠組みの活用支援まで行うことで、宇宙ビジネスの拡大を加速する構えだ。

 クロスユーは、コミュニティという「集まれる場所」と「情報の提供」から始まって、まさに「化学反応」を起こしていくフェーズへと進みつつある。2023年11月27日(月)〜12月1日(金)には、産官学の枠を超えた宇宙プレイヤーが一堂に会するアジア最大級の宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK」を開催予定だ。宇宙ビジネス業界の最前線を知る好機に、日本橋を訪れてみてはいかがだろうか。

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