インタビュー
宇宙空間にアートは必要?–俳優・アーティスト・司会など多彩に活躍する坂東工氏にインタビュー
「この世界を作り上げているのが私たちの意識そのものであるとすれば、“宇宙があり、地球があり、私たちがいる”のではなく、私たち1人1人の中に宇宙がある」
そう語るのはPrime Video 恋愛リアリティ番組「バチェラー・ジャパン」「バチェロレッテ・ジャパン」シリーズ司会進行役として知られる坂東工氏。俳優・司会としての活躍が知られる一方、対象の持つエネルギーをライブで描き出す「オーラアート」(オーラ絵画)アーティストとしても注目を集める。
民間による宇宙旅行ビジネスが始まり、ますます「宇宙」が身近になりつつある現代において、「宇宙 x アート」のあり方は今後どう変わっていくのだろうか?同氏に話を聞いた。
原点は「宇宙船地球号」提唱者の詩の一節
――まず、坂東さんの「アート観」と「宇宙観」について聞かせてください。
「アート観」については、まずは僕がアートを始めたきっかけからお話しましょう。若い頃に米国でネイティブ・アメリカンの人たちと一緒に生活をしていた経験があり、そこでは、生活の一環としての狩猟や採掘を体験し、皮の扱いや加工を自然に獲得していきました。僕のレザーワークの原点の体験です。そして、帰国後自作のレザーベルトを身につけていたら、ある時ふと入った東京のギャラリーで、女性店主に「それ、良いわね。私にも作って」と声をかけられたんです。
その当時、僕の名刺の裏には「Spaceship Earth = 宇宙船地球号」の提唱者バックミンスター・フラー(思想家、デザイナー、構造家、建築家、発明家、詩人)の散を引用していたのですが、その女性店主と名刺交換をしたところ「あら、これはフラーの一文ね?」と気づいてもらったんです。なんと、その店の店名も「Geodesic(ジオデシック)」という、フラーの代表作のひとつである建築物名に由来していたのです。この出会いは運命的なものだったなぁと思います。
この出会いがきっかけで、本格的にレザーアートに関わるようになり、その1カ月後には僕の作品が大手デパートのショーケースに並ぶことになりました。そして、そのレザー作品を見た人から、今度は映画の衣装制作を依頼され……というのがアーティスト坂東の活動の原点です。
――偶然の出会いからアーティストへの道が始まったのですね。では「宇宙観」についてはいかがでしょうか。
「宇宙からの帰還」(立花隆 著 / 中央公論新社 1985年)という本に、先ほどのバックミンスター・フラーと、アポロ9号の宇宙飛行士であるラッセル・シュワイカートの対談が収録されているのですが、その対談の中で、シュワイカートが身振り手振りを交えて、自身の宇宙体験を上下左右などの言葉を使いながら話をしたところ、フラーは静かに筆をとり、「環境と宇宙の違い」についての散文を書いたんです。
その散文というのが、「全ての人にとって『環境』とは、“私以外の全て”であるに違いない。それに対して『宇宙』は、“私を含んだ存在”であるに違いない。『環境』と『宇宙』のたった一つの違いは、“私”。見る人、為す人、楽しむ人、愛する人である私」という内容なんです。つまり『環境』と『宇宙』の違いは「私」ということですね。この詩を読み返すうちに、シュワイカートは自身の宇宙体験が、より深く心に刻まれていくことになったそうです。この思想が僕の宇宙観の原点であり、『宇宙からの帰還』は愛読書のひとつになっています。
もうひとつ。「宇宙観」という言葉から想起されてくる、「地球観」という感覚があります。その「地球観」を形成した、『完璧な光景』に出会ったときの美しく衝撃的な体験をお話ししたいと思います。
僕が米国で放浪生活をしていた20代前半の頃、グランドキャニオン近郊で車上生活をしていたある朝、目が覚めたら車ごと豪雪に埋もれていたんです。おそらく2m以上の雪に埋もれた状態かと。そこから命からがら這い出し、エンジンをかけて車を走らせている時のことです。
後方に激しい積雪と雨雲、右手には世界で最も巨大なサボテン群が一面に広がっている。そして、左手には雄大な渓谷、前方には雲の切れ間から光が射しこみ、光の中に一羽のコンドルが飛んでいる……筆舌に尽くし難い光景の中心に自分がいたんですよね。
息を呑んで思わずエンジンを切ると、完全な静寂に包まれて…。一瞬聴覚を失ったかと思うほどの「無音」を感じたかと思うと、コンドルの鳴き声で我に返るという、なんとも神秘的な瞬間でした。時間も場所も溶けて、「自分 /地球/宇宙」という一連の繋がりを、ただただ感じざるを得ない体験でした。この世に神がいるかどうかはわかりませんけど、この完璧な光景の中に神を感じ、自分の魂が抱かれているような「愛」を感じました。
宇宙空間にアートは必要か?
――まるで映画のワンシーンのような幻想的な光景ですね。坂東さんがアート活動を続ける理由やモチベーションを教えてください。
それはシンプルに、アート活動が楽しいからですね。ただ、これまでに自分の強い意志でアーティストを志したとか、たゆまぬ努力でアーティストの地位を掴んだとか、あるいはアートビジネスを生業にするために営業活動をしたことは一度もないんです。
アートを始めたきっかけも運命に身を委ねた結果ですし、現在アート活動をさせていただいているのも、様々なオファーをいただき、そこに応えてきたことの延長線上にあるという感覚です。そして今後も、もたらされることにインスピレーションをいただきながらアート活動を続けていくのだと思います。
――そう遠くない未来、アーティストが宇宙空間で活動するようになると思いますが、坂東さんはどのようにとらえていますか?
すでに民間でも宇宙へ旅行するプロジェクトが動いていますから、アーティストが宇宙に行くことも現実味を帯びているのだと思います。とはいえ宇宙に行ったからといって、そのアーティストの才能や作品の価値が変化するかは別の問題だと思いますね。人類が電車や飛行機に乗るようになったことで、活動範囲が増えたり、新しい景色を見る機会が増えたのと同じことじゃないでしょうか。
――坂東さん自身は、宇宙空間に行くことや、宇宙でのアート活動に興味はありますか?
「釈迦は地球がまわる音を聴いた」という話があります。それは意識を飛ばせば、あたかも実際にそれができたかのような体験を得られるということだと思うのですが、どんなことでも、実際に体験・体感したことのある人と、想像や間接的に見聞きした立場の人とでは、言葉や表現に表れてくるものの質量に違いがあると思うんです。そういう意味で僕は絶対的に「体験主義者」ですから、機会があれば宇宙空間を経験してみたいとは思いますが、特に過度な憧れはないですね。今までと同じく運命と流れに身を委ねるのみです。
――宇宙飛行士は長い間、四季のない閉鎖空間である国際宇宙ステーション(ISS)で過ごします。宇宙生活でのストレス緩和や感性を維持する上で「アート」が果たす役割についてどう考えますか?
僕はアートって「空気」のようなものだと思っています。どれほど素晴らしくて感動的なアートでも、ずっと目に見える範囲にあると特別な感覚は薄れていき、その空間にあることが当たり前になっていきますよね。そもそも、宇宙空間にアートが必要なのかどうかという感覚もあります。
宇宙開拓期である現在においては、宇宙空間におけるアートの位置付けは価値を見出すことよりも、もっと原始的な段階だと思うんです。宇宙空間に限ったことではないかもしれませんが、人間としての原始感覚を取り戻す、あるいは原始感覚と向き合うためのツールとしてアートを活用することはありだと思います。でも、それは何億円もする有名な絵画である必要はなく、自分が大切にしているもの、感性を取り戻せるものであれば大きさや形は何でもいいんです。
僕が手がけている「オーラアート」はそうした感覚主導のアートとして制作しています。そもそも僕は画家としてのテクニックを学んだことはなく、デッサンも苦手で、ドラえもんの絵も満足に描けませんから(笑)
では、何をどう描いているの?というところでいくと、オーラアートは何かを意図して作るのではなく、何も準備せず、クライアントと1時間ほど対話をしながら自分の意識を空っぽにして、まるでイタコのように自分の身体をつかって自動書記のように描いていくスタイルなんです。たとえば先日、「音を描く」という取り組みをしたところ、自然と「龍」のようにも見える作品が描かれていったんですね。
オーラアートの面白いところはここなんです。「描いた結果、そこにある」ということ。
たとえば龍なら、アーティストさんご自身が「知っている」龍のイメージや概念を描きますよね?「その人自身の中にあるもの」をなぞって描いている=その龍の正体は「作家さんの描き出したもの」。オーラアートの場合は、「僕自身が知っている龍という概念」ではなく、『描いてみたらそこに現れた』ものなんです。本質的なエネルギーとは目に見えないもので、言葉や概念で解釈できるようなものではないと思うんですよね。「何者かはわからないけれども、確かにその時に流れていたエネルギーである」ということなんです。
――近い未来、宇宙空間は「人が暮らす場所」になっていく可能性がありますが、坂東さんは宇宙で暮らしたいですか、それとも地球に残りたいですか?
もし、映画『インターステラー』のような、環境破壊と食料不足の深刻な世界になったら…ということですよね。僕は2mの積雪の中でも生き延びてきた人間ですから、どんな環境でも適応していく自信はあります(笑)。バックパッカーをしていたくらいですし、暮らす場所や環境にあまりこだわりがなくて、地球にもこだわらないかもしれません。どこかに定住するよりも、当て所なく心の赴くままに旅をしていたい。なので、それだけ自由に選択肢がある時代になったら、またバックパッカーとして旅をしているんじゃないかなぁ(笑)。放浪しながら、出会った人たちの絵を描きたいですね。
【坂東工の愛って何ダ?展】
場所:心斎橋PARCO 4階 SkiiMa Gallery
期間:9月21日(木)~10月3日(火)
時間:10:00~20:00(最終日のみ18:00まで)
住所:〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目8−3
展示会詳細はこちら
■坂東 工(ばんどう たくみ)
1977年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、渡米。 俳優・ナレーター・アーティスト・起業家とパラレルキャリアを実践。 『硫黄島からの手紙』などでハリウッド映画出演を果たした後、日本へ帰国。2011年、アーティスト活動を始動。初の個展に2000人以上を動員。2015年、レザー作品が注目され、映画「真田十勇士」の衣装制作を依頼される。2019年、NYで個展を開催。現地メディアやNHKなどの取材を受ける。Amazon Prime配信『バチェラー・ジャパン』『バチェロレッテ・ジャパン』全シリーズの司会進行。2018年12月、株式会社MORIYAを設立しCEOに就任。2022年より、CM制作事業を展開。俳優・司会としての活躍が知られる一方、対象の持つエネルギーをライブで描き出す上質な体験型アート「オーラアート」が、新たな視座として注目を集める。