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太陽を地上に再現する「核融合炉」とは–原発との違いや日本の取り組み、宇宙開発への応用を解説

2023.08.02 07:00

天地人

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 宇宙ビッグデータを活用した無料GISプラットフォーム「天地人コンパス」を手掛ける天地人。本企画では、同社でインターンとして働く学生が、「学生視点」で宇宙ビジネスの注目点を解説します。第4回となる本記事では、大学院で核融合構造材料について研究する松戸玲菜が「核融合」について解説します。

そもそも核融合とは

 核融合とは一般的に「地上に太陽を再現する技術」と表現されます。それはなぜでしょうか。 

 まずミクロな視点で見ていきましょう。核融合反応とは「高速で複数の小さな粒子(原子核)を衝突・融合させて、少し大きな粒子(原子核)と小さな別の粒子を生み出す現象」のことです。

(出展:NIFS

 周期表を思い浮かべてください。宇宙が出来立てのころは左上の「水素」しかありませんでした。ビックバンが始まってすぐの宇宙は高温・高密度だったため、エネルギーを持った水素同士が衝突して少し重いヘリウムに、また衝突して少し重いリチウムに・・・と核融合を繰り返した結果、現在の酸素や鉄などが存在する宇宙の組成になったのです。

 太陽の体積の約9割は水素で構成されています。高密度な太陽ではこの水素が核融合反応を起こしてエネルギーを発しているのです。そのエネルギーが熱や光となって地球に届いています。

 「小さな粒子たちを合体・分裂させて新しい粒子たちが生じるだけなのに、なぜエネルギーが生じるのか」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。紙粘土でできた玉と油粘土でできた玉をぶつけて混ぜて分解しても、何かエネルギーが生じるわけではありません。

 ここで、ある核融合反応を見てみましょう。水素より少し重い重水素と、もう少し重い三重水素が核融合を起こしてヘリウムと中性子ができる反応があるとします。

(出典:QST

 反応前の重水素と三重水素の重さの総量と、反応後のヘリウムと中性子の総量を計測してみると、実は反応後の方が少しだけ軽くなります。

 ここで、アインシュタインの「E=mc²」の式を思い出してみます。この式は「質量とエネルギーは等価」ということを説明しています。つまり核融合反応で減少した分の質量がエネルギーに変換されているというわけです。よって、核融合を続ける太陽も実は毎秒400万トンも軽くなっています。

核融合反応を利用する「核融合発電」

 この核融合反応を利用してエネルギーを取り出すのが核融合発電というわけです。ここで、核融合発電のメリットとデメリットを整理します。

1.核融合発電のメリット

・燃料が豊富
・燃料となる重水素や三重水素は海水から取り出せるため枯渇の心配がほどんとない
・温室効果ガスを排出しない
・少ない燃料で莫大なエネルギーを取り出すことができる
・1gの燃料を核融合させて取り出せるエネルギー量は石油8トン分に相当

2.核融合発電の技術的な課題

・核融合反応は1億℃という高温高密度のプラズマと呼ばれる環境で生じるが、このプラズマを最適な常体で維持するのが難しい
・1億度の高温高密度のプラズマが直接容器に触れてしまうと容器が溶け出す。そのため、プラズマは磁力やレーザーを使って閉じ込める必要があるが、その技術が開発中
・核融合の反応で生じる中性子の照射を受けても脆くならない構造材料も必要

核融合炉のイメージ図 、ピンク色の部分がプラズマ(出典:QST

原子力発電との比較

 ここで同じ原子核同士の現象を扱う「原子力発電」との比較をしてみましょう。原子力発電とは、ウランなどの大きな粒子(原子核)が分裂してより小さな複数の粒子(原子核)となる「核分裂反応」を利用して、エネルギーを取り出す発電方法です。

 原子力発電はウラン1gで石油1.6トン分の莫大なエネルギーを取り出すことができ、温室効果ガスを出さない発電として日本では広く利用されてきました。

 しかし、原子力発電の難点は、核分裂反応が連鎖的に起こる反応であるため、制御に失敗すると反応を停止できずに暴走して重大な事故に繋がる可能性がある点です。また、核分裂で高レベル放射性廃棄物が生じてしまうこともデメリットの一つです。

 一方で核融合反応は原理的には核分裂反応の逆の反応です。反応が連鎖的ではないので燃料の供給を止めればただちに反応を停止できます。極端な表現をすると、スイッチを押せば反応を完全に止めることができるのです。ただし、原料に「トリチウム」という放射性物質を扱う必要がある場合があります。

宇宙産業と核融合

 核融合は宇宙産業において、革新的なエネルギー源として期待されています。

 ロケットの打ち上げや宇宙探査では高い推進力を得るためにアルミニウムや化石燃料由来の燃料が使用されていますが、より遠くの宇宙の探査のためにはより高いエネルギー効率を持った燃料の開発が必要です。

 そこで、より高いエネルギー効率を持った持続可能なエネルギー源として核融合を応用した技術開発が行われています。

1.ロケットの推進システムへの応用

 ワシントン大学では米航空宇宙局(NASA)の支援を受けて、核融合を動力源とするロケットの開発を行っています。

出典:ITER

 現在のロケット技術で火星にたどりつくには約8カ月かかると言われています。しかし、核融合推進ロケットの開発が成功すればその半分以下の90日以内に到達可能になります。核融合推進ロケットの排気速度は150〜350km/sにも及ぶと推測されます。

 核融合推進ロケットの実用化によって、木星や土星の衛星や太陽系外の探査がこれまで以上に活性化することが期待されます。

2.木星探査機器開発への応用

(出典:NASA

 また、エネルギー源としてだけでなく、核融合炉内にあるプラズマ環境を活用した探査機器のテスト手法も提唱されています。

 木星の大気で試料を採取するには秒速50kmというスピードで大気圏に突入しなくてはなりません。そのときに、断熱圧縮によって周囲の大気は1万5500℃以上に加熱される結果、プラズマ化します。この影響で、1995年の木星探査機「ガリレオ」の大気圏突入観測機のヒートシールドはあっという間に崩壊してしまったのです。

 このため、木星の大気圏突入時に生じるプラズマ状態への耐久性をもった材料開発が必要とされるようになりました。その新素材の試験環境として着目されているのが核融合炉です。新たな実証施設を建設するのではなく、核融合炉のプラズマ環境を活用することで、木星突入時に類似した環境を再現することができます。

 こうした新素材の研究は、核融合炉そのものの材料研究にも役立つ可能性が示唆されており、宇宙航空業界と核融合業界のコラボレーションのきっかけになるかもしれません。

どのくらい研究開発が進んでいるのか

 核融合研究は1950年代から本格的に始動し以後数十年に渡ってプラズマや構造材料などの研究が盛んに行われてきました。核融合エネルギーの実現し商用化するためには、下記の3つのステップをクリアする必要があるとされています。

1.科学的実現性の確立

 核融合プラズマ生成に必要な加熱エネルギーより、そのプラズマで実際に核融合反応が起きたときに出るエネルギーが大きくなる状態を達成するフェーズです。つまり、出力が入力を上回る状態を指します。

2.技術的実現性の確立

 核融合プラズマが加熱を止めても核融合エネルギーの生成が持続する状態の達成と、核融合プラズマの長時間維持に道筋をつけることを目標とする段階です。こちらについては、1996年に日本原子力研究所のJT-60というプラズマ試験装置が要件を達成しました。

 核融合実験炉の建設を通した炉工学技術の発展、エネルギー源である核融合中性子に耐えうる材料の開発、核融合エネルギーから熱を取り出す技術など、多くの達成すべき課題があります。現在取り組んでいる段階がこの段階です。ちなみに私は核融合炉が中性子を浴びた際に、炉の構造に使われている材料の硬さや強度はどのように変化するかを調べる研究をしています。

 国内の研究にとどまらず、「ITER計画」を通じた国際的な開発への取り組みもあります。これは、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクトで、2025年の運転開始を目指し、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドにより進められています。

 日本はITER計画の準ホスト国、幅広いアプローチ(Broder Approach:BA活動)のホスト国として主導的な役割を担っています。実験炉ITERはフランスのプロバンスで建設が行われています。

出典:ITER
出典:文部科学省

 本記事では地上に太陽を再現する技術とも言われる「核融合」について紹介しました。

 長年「夢のエネルギー源」と揶揄されてきた核融合ですが、ようやっと実用化への道筋が見えてきたところです。国や大学の研究機関だけではなく、近年では米国を中心とした「核融合ベンチャー」が続々と登場しています。また、ESG(Environment、Social、Governance=環境、社会、企業統治)の取り組みとしてこうした核融合関連企業への投資も増えています。

 今後日常のニュースでも核融合の文字を目にする機会が多くなってくるかもしれません。

(天地人学生インターン 松戸玲菜)

参考文献

[1]文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/iter/019.htm

[2]QST https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/iter/page1_1.html

[3]NTT https://www.rd.ntt/se/media/article/0014.html 

[4]WIRED https://wired.jp/2021/11/24/nuclear-fusion-spacecraft-jupiter/

[5]Space.com https://www.space.com/nuclear-fusion-breakthrough-spacetravel

[6]University of Washington https://www.washington.edu/news/2013/04/04/rocket-powered-by-nuclear-fusion-could-send-humans-to-mars/

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