解説
「宇宙太陽光発電」は未来のエネルギーになり得るのか?
宇宙空間は、常に晴れている。それなら、地球上で使うエネルギーを宇宙から得られるのではないだろうか。
宇宙で太陽光発電するというアイデアは、SF作品の定番テーマだ。そして、何十年も前から技術者や研究者の想像力をかき立ててきた。その仕組みは、地球の周回軌道に乗せた巨大な太陽光発電アレイでエネルギーを集め、そのエネルギーを地上の必要な地点へ無線伝送する、というものである。
SFの枠から飛び出して宇宙太陽光発電(Space-Based Solar Power:SBSP)を実現させようという真剣なプロジェクトは、複数存在する。
米国電気電子学会(IEEE)終身上級会員のRaul Colcher氏によると、「SBSPに関する挑戦的な研究活動は、いろいろな国で行われています。たとえば、米国、中国、日本、ロシア、韓国、インドで研究が進行中です」という。
未来は明るい?
カリフォルニア工科大学(Caltech)は、SBSPを研究する「Space Solar Power Project(SSPP)」を通じ、軌道上の太陽光発電所で使うことになる構成部品の試作品を2023年初めに打ち上げた。中国は、早ければ2030年代にも商業発電を始められる宇宙ステーションを計画している。
米国では、エネルギー価格が高かった1970年代に軌道上での宇宙太陽光発電が研究されていたものの、ほとんどが2000年代初頭に中止されてしまった。その理由は、予算と技術の両面で困難に直面したためだ。
ところが、その後、SBSPへの関心を高める2つの新たな流れが発生した。1つは、2050年までのカーボン排出実質ゼロ達成という目標。もう1つは、月基地を建設するというはるか未来の目標。特に月基地建設の初期段階において、SBSPは宇宙船や月面車、基地施設のエネルギー源として活用できる可能性がある。
宇宙太陽光発電の支持者は、実用化まで数十年かかりそうな技術だが長所もある、としている。実現したら、地上の太陽光発電所では対応不可能な、夜間でも曇りでも発電できる。
ちなみに、太陽エネルギーの約3割は地上まで届いていない。一方、SBSPの発電する軌道上では、太陽光が100%降り注いでいる。そのエネルギーは、地上で得られる量と比べものにならないほど多い。
「宇宙はいつも快晴で、太陽エネルギーを集める際に邪魔な地球の傾きにも影響されません。しかも、太陽光線を吸収してしまう大気も存在しません。こうしたメリットから、太陽光発電パネルを宇宙に置くというアイデアは魅力的です」(IEEE上級会員のInderpreet Kaur氏)
軌道に乗せられるの?
実用化までに解決すべき技術的課題があまりにも多いとして、SBSPの実現性を疑問視する人もいる。宇宙空間でどうやってソーラーアレイを組み立てるのか、どのように地上へエネルギーを伝送するのか、必要なコストとエネルギー効率の面で経済的に見合う資材の打ち上げ方法はあるのか、といった課題だ。
「宇宙太陽光発電アレイのアイデアは長々と検討されてきましたが、技術的な課題は残ったままです。現時点では、エネルギー効率や、想定しているような大規模太陽光発電アレイの製造と組み立てを考えると、採算が取れないでしょう。実現へ近づけるには、こうした分野の技術と素材の進歩が欠かせません」(IEEEフェローのPanagiotis Tsiotras氏)
想像力に火をつけろ
そんな状況だが、試験的な取り組みは進められ、注目を集めている。Caltechの「Deployable on-Orbit ultraLight Composite Experiment(DOLCE)」というプロジェクトでは、太陽光発電アレイを自己組み立てできるモジュール部品を試験中だ。
地上へのエネルギー伝送方法については、レーザー光とマイクロ波のどちらを使うか、研究者の意見が分かれている。
ほとんどのマイクロ波方式は、膨大なエネルギーを伝送できる代わりに、地上に数キロメートル規模の巨大な受信設備を用意しなければならない。レーザー方式はずっと小規模だが、1MWから10MWほどのエネルギーを伝送する用途に特化していて、大量のエネルギーを得るにはマイクロ波方式よりはるかに多くの発電衛星が必要になる。
レーザー方式が適しているのは、地上である程度強力なエネルギーを離れた場所へ伝送したい、鉱山のような環境だろう。
宇宙太陽光発電の実用化が近いのか、それとも金の無駄遣いなのか、答えは人によって変わる。ただし、世界中の技術者はそのアイデアに魅了されてきた。数十年後には、想像もできなかった研究成果が得られるかもしれない。
「宇宙太陽光発電は実現できます。宇宙で作られたエネルギーは、宇宙空間での産業発展や資源開発に利用されるはずです。そして、地球で暮らす人々に恩恵がもたらされるでしょう」(2024年にIEEE会長就任予定のIEEE終身フェロー、Thomas Coughlin氏)