ニュース
JAXAと国土地理院、測位衛星の精密な軌道情報を算出する体制を構築
2023.07.03 13:38
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国土交通省 国土地理院は6月30日、全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)衛星の精密な軌道情報を算出する体制を構築したと発表した。
米GPSに代表されるGNSSは、衛星の軌道情報(暦:れき)をもとにして、地上の位置を決定する(測位)システム。地殻変動が激しい日本では、位置の基準の維持や管理に活用されている。
より精度の高い測位には、より高品質な軌道情報(精密暦:せいみつれき)が必要不可欠となっており、現在は「国際GNSS事業(International GNSS Service:IGS)」が提供する「IGS暦」が最も高い精度を有するとされている(国際GNSS事業は、測地学や地球物理学などの研究活動の支援、社会一般でのGNSSの利用促進を目的として、国際測地学協会(IAG)の下で参加機関の国際協力で運営されている国際組織)。
IGS暦は、IGSが高い技術力を有すると認めた北米や欧州、中国の限られた国家機関や研究機関、大学などの精密暦をもとに算出。このため、日本の位置の基準は、海外機関に大きく依存しているという課題があった。
国土地理院は、全国約1300カ所の「電子基準点」でのGNSSデータ解析を25年以上安定的に進めてきた。電子基準点は、GNSS連続観測点であり、日本の位置の基準である「国家座標」に整合する。主に測量の基準点、地殻変動の監視、位置情報サービスの支援として活用されている。
JAXAでは、国産のGNSS軌道計算ソフトウェア「MADOCA」を開発し、精密暦の精度を改善するための技術開発を長年行ってきた。MADOCA(Multi-GNSS Advanced Demonstration tool for Orbit and Clock Analysis:複数GNSS対応高精度軌道時刻推定ツール)は、電子基準点やIGSの観測点などのGNSS観測点で取得した情報をもとに、GNSSの正確な精密暦や衛星時刻、GNSS観測点の座標値などを計算するソフトウェア。
JAXAと国土地理院が連携し、国土地理院がMADOCAで精密暦を算出。JAXAがその運用結果に基づき、MADOCAを改良する協力体制を構築したことで、国内で精密暦を安定的に算出できるようになったという。
今回の取り組みがIGSにも認められ、国内では初めて、IGSに精密暦を定常的に提供することになったと説明。提供する精密暦は、IGSの準備期間を経て、正式にIGS暦の算出に活用される予定。
これまで海外機関に依存していた位置の基準を、より自律的、安定的に維持、管理できると見込めるほか、測地や測位分野の研究活動の促進が期待できるという。提供する精密暦の品質がIGSで定常的に評価されることで精密暦の品質を継続的に維持、改善できるとしている。
今後は、日本が運用する準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System:QZSS)「みちびき」を含むGNSSの精密暦の公開環境を整備し、高精度測位時代での位置情報の基盤を着実に整備、更新していくとしている。