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低品質環境でデータファイル転送の実証に成功–低軌道の光通信に不可欠
2022.01.31 08:00
ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、エラーが発生しやすい低品質な通信環境でも完全なデータファイル転送技術の実証に成功した。今回のデータファイル転送技術は、将来の成層圏や低軌道での光通信に不可欠という。1月27日に発表された。
成層圏や宇宙などの高高度の自由空間光通信の実用化では、通信機器の軽量化や省電力化、通信の高速が求められている。一方で、長距離にある通信機器間で機体の姿勢変動で送信側機器の出射するレーザー光を受信側機器で安定して受光できなかったり、受信機器の内部や環境に起因するノイズが原因でデジタル信号誤りが多く生じたりする。
現在の一般的なインターネット通信プロトコル(イーサネット、TCP/IP)は、安定的な通信品質での利用を前提としており、高高度の自由空間光通信には適用できないことが課題となっている。
ソニーCSLとJAXAの今回の取り組みは「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ」(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation:J-SPARC)の一環。高度2000km以下の低軌道(Low Earth Orbit:LEO)を周回する衛星同士、高度10~50kmの成層圏を飛ぶ無人機との間で利用される光インターネット事業の創出を目指している。
ギガビットイーサネットの回線上に実験的に構築した、自由空間光通信の符号誤り率を摸擬した低品質で、一般的なインターネット通信ができない通信環境で446Mbpsの通信速度でデータを欠損させることなく、完全なデータのファイル転送に成功。エラーが頻発する自由空間光通信でも地上のインターネットサービスのような高速通信が可能になるものと説明している。
通信には、ブルーレイなどの光デバイスに活用されるレーザー光読み取り技術をベースにソニーCSLが開発した「誤り訂正(Forward Error Correction:FEC)」技術とJAXAが保有する「遅延途絶耐性ネットワーク(Delay/Disruption Tolerant Networking:DTN)」技術を組み合わせた信号処理技術を活用した。
今回の成功で、LEOや成層圏での2地点間の光インターネットサービスに必要となる高速大容量かつ低消費電力での通信の実現に向けた主要課題の解決が見込まれるという。今後、LEO衛星コンステレーションや成層圏無人機に搭載された小型光端末同士の通信サービスの事業展開につながると期待している。